消えた小夜の行方 2
フルダイブのゲームが出来たら本当に凄いですよね。
生きてるうちに出来てくれないかなぁ
一条は一息ついた。自分だけが抱えていたことの重荷が少し降りたのかもしれない。
「この組織はいずれ起こるであろう神々の大戦から、人々を逃がす為の組織だ。言ってしまえばノアの箱舟のようなものだな」
「滅びゆく世界からの脱却するというのが、このプロジェクトの真の目的ってことですか・・・」
竹内は何かを考えながら呟やく。
「そうだ。それと同時に世界の意思が働いた計画も同時に動いている」
「世界の意思?」
「ああ。だが私も詳しくは分からない。これは上が内密にしている計画だ。以前、探りを入れた情報屋が行方不明になっている。自分の命を大事だと思うなら、詮索しない方が身のためだぞ」
施設長である一条さんですら知らないことがあるんだな・・・
国が考えることなんて、恐らくロクなことじゃないだろう。
「一条さん。小夜のクローンがそっちの世界にあるんですか?」
「分からない。でも小夜さんが足の移植を希望した時から、プロジェクトとしてクローンを培養していた。何体もクローンは培養されて、プロトタイプとは別に、遺伝子の組み換えも行われてた素体が何体もあった。だから私達の知らないところで、そっちの世界にも遺伝子が送られていた可能性は十分にある」
「一条さんは施設長なのに把握していないんですか?」
竹内が当たり前のことを尋ねる。トップが知らないでは許されることではないだろう。
「ああ。各チームに分かれてプロジェクトは進んでいる。直接上からの指示が行っているから、他で行われていることは一切分からないんだ」
一条はここのプロジェクトリーダーで、他には他で、プロジェクトリーダーが存在しているのだという。
「さっきの言い方だと、小夜は魂が抜かれて四十九日以内に戻ってこないと、そっちの世界の住人になってしまうってことですか?」
小夜がこの世界からいなくなってしまうってことか?
テストというから受けてはいたものの、命に係わることなら俺は納得出来ない。
「モルモットの時はそうだった。そうなる可能性は高い。だがコレは本当に分からないんだ」
蓮が視線を向けると竹内も五十嵐も視線を反らせてしまう。
「竹内さん、もし俺が小夜の隣のマシンに乗ったらどうなります?」
「蓮君?どういうことだい?」
「俺がこのマシンに乗って同じ状況になれば、小夜の所に行けるのかって聞いてるんです」
竹内は少し考えていると、主治医の櫻井が俺の後ろから話しかけてくる。
「クローンと同期していなければ転移出来ないと所長は言っていましたが、蓮君と小夜さんは双子です。だから遺伝子的には問題ありませんよ」
「恐らく同じ場所に行く可能性は高いと思われます」
「それなら俺を行かせて下さい」
「ダメです。こんな危険な状況で蓮君をそちらに行かせるわけには行きません」
五十嵐さんは俺の手を引っ張って止めようとしている。
「五十嵐さんはの前で家族が危険な目にあっているかもしれないのに、何もしないんですか?俺にはそんな状況耐えられない。何もしてやれないような無力な兄貴でいたくない」
「蓮君・・・」
「いいでしょう。ですがもう少し禅からの返答を待ちましょう。それでも返答が無ければ蓮君には小夜さんの様子を確認しにいってもらいます」
「竹内さん、危険だと分かっているのに蓮君を行かせるなんてどうかしてます。それにこの状況でどうやってダイブさせるんですか?」
「隣の部屋のクローンルームに、プロトタイプのダイブシステムがあるじゃないですか。あれなら独立されているので、遮断されていても大丈夫ですよ」
プロトタイプがあるのか。じゃあここにあるのは複製ってことなのか?
「蓮君、今すぐダイブシステムにリンクさせるジャックを施術しましょう」
後ろから櫻井さんが声を掛けてくる。警告音に異常を感じて櫻井はすぐに駆けつけていた。
ダイブシステムにリンクするには、脳からの伝達を遮断してその動きをアバターへと変換しなければならない。今回はアバターでは無く、クローンかもしれないが。
とにかくリンクさせるためのジャックを体に取り付ける必要がある。
小夜がどこにいったかは分からない。ゲームの世界、エクリプスの中にいるかもしれないし、所長が言っていた世界であれば、クローンと繋がっているのかもしれない。
どこであろうと俺は小夜を追い掛ける覚悟は出来ている。
「櫻井さんまで。蓮君に何かあったらどうするんですか?」
「私は人を救いたくて医師になったんです。どれだけ最善を尽くしても、救えない患者だっているんですよ。五十嵐さんは、その時の無力さが分かりますか?」
「それは・・・」
「私が蓮君なら自分がどうなろうとも、必ず助けに行きます。私は彼の心を汲んで行動するだけです」
櫻井さんはきっと多くの人を看取ってきたのだろう。そして何度もやるせない思いをしてきたに違いない。
「分かりました。もう私は何も言いません」
「五十嵐さん、心配してくれてありがとう。大丈夫、俺は必ず小夜を助けて戻ってくるよ」
「分かった。蓮君、必ず戻ってくるんだよ」
俺は頷いて、櫻井さんに付いて行く。
「蓮君、ちょっとアルコール消毒するわよ」
看護師の斎藤さんが、俺の首をアルコールの付いた脱脂綿で拭いてくれる。
後頭部にジャックを埋め込む作業は自動化されていて、全身麻酔が効いたらものの5分で終わる。麻酔が冷めた時には既にダイブマシンに乗る時のスーツに着替えさせられていた。
「竹内さんお願いします」
「蓮君、簡単ですが説明をしておきます。このプロトタイプのダイブシステムは、あちらの物と違ってサポートシステムが存在していません。それからシンクロ率が安定しないので、シンクロする部分を自分で感じ取るしか方法はないです。その代わりに自分の持っている能力以上の力を発揮することが出来る場合があります。共同開発となっていますが、ブラックボックスになっている部分は干渉出来ないので、どうやって異世界のクローンを動かしているのかは、我々には全く分かりません。あまり役にたつ情報はありませんが、蓮君の無事を祈ってますよ」
「竹内さん、ありがとう。大丈夫、必ず戻ってくるよ」
ダイブシステムに乗り込んでスーツに配線類や管が繋がれる。
施術したジャックの部分に接続すると、体の自由が一瞬で無くなった。
「プロトタイプはスーツ内とカプセル全体に液体が入ります。これは赤子が母体にいる時と同じ状態です。肺に入り込んだ時は苦しいと思いますが、肺が液体に全て満たされてしまえば楽になります。苦しいけど我慢してね」
五十嵐さんは心配そうな顔をして俺の手を握っている。体の自由は無いから眺めているしかないのだが、この人は割と親身になってくれたよな。反対はしていたけど、俺を心配してのことだ。ありがたいな。
そんなことを思っていると液体が鼻の中や口から入り込んできた。喉は侵入を拒もうとするが体の自由は効かない。呼吸が出来なければ人はすぐに死んでしまう。苦しさのあまり俺は死を予感した。
しかし急に体が楽になった。肺に液体が満たされたのだろう。
五十嵐さんは俺の肺が満たされるまで、ずっと手を握って見届けてくれた。ありがとう。
ダイブマシンの蓋が閉じられると視界が真っ暗になった。
だが液体は暖かく優しく包み込まれているようだ。
母親の中にいる胎児はこんな感じなのかもしれないな。
そして俺の意識は遠のいていった。
小夜無事でいてくれよ・・・
蓮は小夜を追い掛けてダイブシステムに乗りました。
果たして小夜に会うことが出来るのでしょうか?良ければブックマークして続きを読んで頂けると嬉しいです。




