消えた小夜の行方 1
ここから話は展開していきます。
皆さんの目にとまって、読んで頂ければ幸いです
モニターにはVRMMOPRG、エクリプスの始まりの街、アルタリウムの噴水公園が映し出されている。
だが小夜からの返答はなく、小夜らしき姿も映ることは無かった。
「小夜さん?小夜さん?聞こえますか?聞こえたら返答して下さい」
五十嵐が声を掛けるが小夜からの返答は一切ない。
「映像を回転して下さい」
五十嵐は竹内の指示に従い、辺りの景色を回転させてみる。
だが映り込むのはNPCだけだった。
「いませんね」
「五十嵐さん、小夜さんがちゃんとリンクしているか見て下さい」
「はい」
簡易的に画面の右下にデータは出ているが、細かく見ることの出来る画面を開いてみる。
「リンク値正常、脳波安定しています。心拍数、血圧、脈拍共に正常値。こちらも安定しています」
竹内は顎に手を当て考えながら色々な可能性を模索する。
「一旦、テストを終了させましょう」
ちょっとしたトラブルなのかもしれないが、竹内は安全を優先した。
「了解です」
五十嵐はダイブシステムのコンソールからリンクを外して行く。手順通りに終了させていくが、最終的にリンクを切ろうとすると全てがオンに戻ってしまう。
「竹内さん、リンク解除出来ません」
「もう一度試してください」
五十嵐は再度解除を試みるが解除は出来なかった。
するとモニターに警告の文字が浮かび上がり、警報が鳴り響く。
端末にロックが掛かって、一切の操作が受付不能に陥ってしまった。
「ララ、小夜さんの現状を教えて下さい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「反応ありません」
ララはこの端末のサポートAIの名称だ。
「ララ、聞こえますか?」
「竹内さんこれはどういうことですか?」
焦る俺は竹内に説明を求めて詰め寄る。
「蓮君、申し訳ありません。サポートAIの反応が無くて、我々にも何が起こっているのか全く分からない状態です。まだ初歩的なトラブルの可能性もあります。焦る気持ちも分かりますが、もう少し待って下さい」
竹内は様々な可能性を試していく。しかしどれもトラブルの解決には至らなかった。気付けば研究者達がモニタールームに所狭しと溢れている。
「そもそもダイブシステムのブラックボックスには分からない事が多すぎです」
竹内は施設長の一条に詰め寄る。それもそうだ。トラブルに遭いましたが、トラブルの対処の仕方が一切分からないのでは話にならない。現在起こっていることはそれと同義なのだ。
「竹内君、ダイブシステムの目的は知っているだろ?」
「ええ、ダイブシステムはクローンを遠隔操作するのが最終的な目的ですよね」
俺が知ってはいけなさそうな情報が耳に入ってくる。でも状況的にそんなことを言ってる状態ではない。
「そうだ。クローンを操って行動させるのがこのダイブシステムの目的だ。ではクローンに意識を移す目的は何だと思う?」
「目的ですか?国が秘密裏に行うことですよね。表立ってはマズいことをするとしか思えませんが、人材を失わないというメリットはありますね。ただ費用対効果が合うかどうかは分かりませんが」
「まぁ竹内君が考えていることにも恐らく使われるのだろう。だが真の目的でいえばノーだ」
「と、いいますと?」
「ここにいる者達はこの話を内密にしてもらうから、そのつもりでいるように」
一条はここで話に緘口令を敷いて話し出す。
第二次世界大戦末期のことだ。一体のアンドロイドが未来からやってきた。彼女の名はアイラ。彼女は現在より約三百年の未来からやってきた。その当時で最高の技術を持って造られたアンドロイドだ。
彼女の話によると神の怒りに触れた未来は絶滅寸前だったそうだ。起死回生を図ろうとしたが神々の戦いに人類は成すすべがなかった。
どうしたら人類が生き延びることが出来るのか?
世界中のコンピュータが計算してはじき出した答えは、神の禁忌に触れないことだった。
ただ神の禁忌に関しては何が禁忌なのかは分からない。
人間が起こす罪に対して神が怒るのだから、人間の仕事をロボットがやるようにして、人に仕事をさせないようにする。
働くことも無くなれば犬や猫のように、家でのんびり過ごすことが出来きる。
そうして穏やかに過ごすことが出来れば、神の禁忌に触れることもないだろう。
それがAIの出した答えだ。
だが未来は時既に遅く、滅びの一途を辿っていた。
人類を守る為に生み出されたAIは、過去に遡って神の粛清を回避させることを模索した。何故ならその時代には高次元の世界も発見されていて、時間軸に干渉することも出来るようになっていた。
ただし、未来に行く事と、生命を送ることは出来なかったので、過去にアンドロイドを送り込み、秘密裏にロボットを量産する為の施設を造ることにしたのだ。
そして各国が時間軸を使って過去にアンドロイドを送り込み、現在に至っている。
しかし全てのAIが人類を管理しようと思った訳ではない。日本の法を管理しているAIはこの決定に反対を表明していた。
神々の黄昏、ラグナロクを回避することは出来ないと、答えを出しているからだ。
しかし日本に決定権は無く、プログラムは発動された。
日本を管理していたAI“ 禅 ”は奇妙な世界を発見する。
その世界は宙に浮いていた。大陸がその空間に浮いているというのが正しい表現かもしれない。地平線の終わりは水が流れ落ち、水はそのまま霧散してしまう。
落ちた先は雲を生成していた。そして全てが動いているにも関わらず、時間の流れがおかしい。
高次元に存在するこの世界も、時間軸と同様に生命を送ることは叶わなかったが、生命を持たなければ転移が可能であった。
“ 禅 ”はアンドロイドであるアイラを送り込み調査を進めて行く。
すると色々な発見があった。この世界は時間という概念がないこと。
つまり年を取ることが無いということだ。ただこの世界のものだけが、劣化しないだけなのかもしれない。
色々な方法で生命を送る実験を繰り返したが、なかなかうまく行かなかった。だがある日のこと、冷凍された魚を送る実験をしたところ、送られてきた魚が生き返った。瞬間的に冷凍された仮死状態ならば、稀に生き返ることもあるようだ。だが確率は低く、人間を冷凍し仮死状態にして送る事など出来るはずもなかった。
そして遺伝子を冷凍保存し、クローンをその世界で培養するという方法に辿り着く。
だがコレにも問題があった。クローン体までは造ることは出来たが、その体に魂が宿ることは無かった。
地球で実験したクローンでは、メスの子宮から生まれたクローン体になら魂は宿るのだ。
それを元に培養したメスの個体から、子宮を通して生命を育ててみる。
だがコレも上手くいくことは無かった。
そして何度も何度も様々な実験が繰り返される。
高次元の世界で子宮から生まれた場合と、元の世界で子宮から生まれた場合では何が違うのかの実験が行われた時のこと。
明らかに違うデータを確認することが出来た。
元の世界の魂のデータを、高次元の世界で生み出された個体に、埋め込んだジャックを通してデータを転送すると、なんと動くことが出来たのだ。しかしそれも一瞬のことで失敗に終わった。
何千、何万という実験を繰り返し、ついに実験が成功する時がやってくる。
同じ遺伝子を持ったクローン体なら、元の世界の生命体と、高次元で生成したクローン体をリンクさせる事が出来ることだ。
だがこれだけではそちらの世界に転移出来るわけではない。
実験を繰り返す内に、元の世界のモルモットが死んでしまったのだが、高次元の世界のモルモットは動いていたことがあった。
どうしてそうなったのかを実験しているうちに分かったのは、四十九日間リンクさせていた元の世界のモルモットが死んで動かなくなり、高次元の世界のモルモットが動いているという事実だった。
つまり転移先のクローンに魂が定着して、元の世界の体から魂が抜けてしまったということに行きつく。
こうして転移する方法が生まれた。
「そして今に至っているのだ」
読んで下さってありがとうございます。
これからも続けて読んで頂けると嬉しいです。




