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ラグナロク  作者: ピロ
第5章 商会 後編
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エクリプス商会の躍進 その1

「おはようございます。いよいよ商会の立ち上げの日になりました。今日という幸先の良い日に立ち会えること、大変嬉しく存じます」

新たに迎えたハワードはミストルティア帝国の小国、ルディスの男爵家で執事をしていた。

俺が想像していた以上に彼は優秀で、普通なら気付かないような事もこなしてくれる。

指示をするにも穏やかな口調で指示するので、嫌な感じがしない。

商会は丸投げ出来る人材が欲しかったから、優秀な執事を手に入れる事が出来たことは本当にラッキーだった。


「ありがとう。ここまで来れたのは皆のお陰だ。ハワードが来てからは、組織として機能するようになってきたからね。感謝しているよ」

「こんな老骨を助けて頂いただけで感謝しきれないというのに、勿体ないお言葉でございます」

奴隷となっていたハワードを買った時、男爵家に仕えていた全員が犯罪奴隷として売られていた。犯罪奴隷は死ぬまで奴隷でいなければならない。借金奴隷とは違う。

ハワードは何も言わなかったが、他にも奴隷になった者達を助けたそうな顔をしていた。

全員は無理だったが騎士と兵士を合わせて5人、他にも料理人と、家事の出来る女性の奴隷を追加で一人づつ購入し、彼らのモチベーションが上がるように男爵の娘も迎え入れた。


商会は貴族の屋敷とは違う。だから商会の仕事が出来るか不安だったが、教育というのは偉大だ。基本が出来ているから、みんなすぐに仕事を覚えてくれた。

「ハワード。実は今日の売り上げが良ければ奴隷商にいた残り全員を引き受けようと思ってるんだ」

「そ、それは本当でしょうか?」

冷静なハワードが驚いた表情をしている。きっと他の人達のことも心配だったんだろう。

「本当だよ。ただし他の街にも支店をどんどん作るから、他の街の支店に行ってもらう事にはなるけどね」

「慈悲深いご主人様に感謝します」

ハワードはこれでもかというくらいに深々と頭を下げる。

「気にしないでよ。人はいくらいても足りないくらいだからね。むしろ教育を受けた人を引き受ける事が出来るんだ。むしろ安いくらいだよ」

本当にそうだ。教育には長い年月が掛かる。

一から覚えさせるということは年月分のコストが掛かってくるのだ。それを考えたら一体いくらかかるのか分からない。


弱肉強食のこの世界では、隣町への輸送ルートを護衛する戦士も必要になるだろうし、規模の小さい商会だから、嫌がらせも当然のようにあると思っている。

だからこそ力でねじ伏せることの出来る存在も必要だ。

正当な剣術を習得している者が5人もいるというのは何とも心強い。

「いや、感謝するのは俺の方だ。ここを拠点に組織を蜘蛛の巣のように広げていくのは、ハワードに任せることになる。執事の役目だけでなく、商会長の仕事も兼任してもらうからね。冗談抜きで大変になるはず。補佐は自分が必要だと思えばいくらでも雇ってくれて構わない」

「ここまで私のことを買って頂けるとは思ってもいませんでした。この老骨、粉骨砕身を持って頑張らせて頂きます」

「ハハハ。無理はしないでくれよ。それよりも組織を安定して運営することの方が大事だからね。頼んだよ」

「お任せ下さい」

ハワードはうやうやしく頭を下げる。


ロビーに行くと、全員が揃って俺を待っている。

「「「「「「「「おはようございます」」」」」」」」

こうやって見ると壮観だな。

「みんなおはよう。今日から商会を立ち上げることになった。ここまで来れたのは皆のおかげだ。ありがとう」

顔を見渡すと、皆笑顔だ。俺の秘密を守ってもらいたいから、奴隷を購入するという選択肢を取るしかなかったけど、この笑顔を見ると救われる。

「事前に打ち合わせしたように、各々決められた役割を果たしていって欲しい」

「「「「「「「「はいっ!!」」」」」」」」

「レン様。実はもうお待ちになられているお客様が多くいらっしゃいます」

「えっ?もういるの?」

俺は商人ギルドのアリューシャに、貴族に日用品のサンプルを配ってオープンの日を伝えてもらっただけだ。


この世界はガラスがそこまで普及していない。貴族の新しい建築物で辛うじてあるかどうかだ。カーテンの隙間からコッソリ覗くということが出来ないので、待っている客の数を見ることは出来ないが、相手は貴族である。

コレ以上待たせるのは印象がよくないだろう。

「よし。皆準備は出来ているようだから、前倒しで開店するよ」

兵士のバイロンとラッセルが観音開きのドアを同時に開ける。

「皆様、ようこそいらっしゃいました。本日より、我が商会エクリプス開店でございます」

エクリプスの名前を付けたのは、小夜がこの名前に気付いて接触をしてくれたらいいなと思って名前を付けた。

思い入れもあるわけでもないから、名前は何でも良かったが、少しの可能性も逃すことはしたくなかった。

俺の後ろから出てきた騎士の二人は、正装して門の入り口で客を案内させる。

「いらっしゃいませ」

客はほとんどが貴族だった。驚くこと領主であるアルバート辺境伯までその中にいた。

「レンよ。お主が商会を立ち上げると噂を聞いたからな、コリーナとナディアを連れてきたぞ」

「アルバート様自らやってきてくれるとは思いもしませんでした」

俺は貴族にする最大の挨拶をする。

「ははは。妻達がお主の扱う商品を見て絶対に連れていけと言われてしまったのだ」

すると、第一婦人のコリーナと、第二夫人のナディアが、配下の騎士に手を取られて馬車から降りてくる。

「コリーナ様、ナディア様、先日伺った時も美しかったですが、本日はその美しさに更に磨きがかかったように、おキレイでございます」

俺は左手を胸に当てて一礼をする。

「ありがとうレン。先日頂いた、シャンプーとコンディショナーという物は、とても素晴らしかったわ」

「本当、髪がサラサラなのよ。それに石鹸もどうしてあんなにいい匂いがするのかしら。私が知っている石鹸は脂臭くて、使っていてもあまりいい気分にはなれないわ。でもあなたのくれた石鹸は凄く泡立ちもよくて凄く綺麗になるの」

この前も思ったけど、この人達距離が近い。二人共俺の腕に手を回して、わざと胸を押し当てているよな。

アルバート伯を見ると、ニヤニヤしている。

アンタの奥さんだろ?少しは注意するとかしてくれよ・・・

「ほらっレン。早くお店の中を商会して下さいな」

半ば強引に二人に連れていかれる。

周りに貴族の方々がいたが、俺が領主であるアルバート伯と親密な関係を持っていると思ったからか、待たされたことに文句を言ってくる貴族はいなかった。ありがたいことだ。


「ようこそいらっしゃいました。商品は奥の部屋にございますので、ごゆるりと見ていって下さい」

中に入るとロビーでエスターとルシェリが、丁寧にお辞儀をしながら挨拶をしてくる。

しかし夫人に両腕を取られて来た俺を見ると、嫉妬交じりの視線を向けてくる。

「フフッ。レンは女泣かせね」

「ホントね。まぁ、私達が夢中なのだから、当然なんだけど」

第一夫人が俺の肩に頭を乗せて甘えてくる。

二人共簡易ドレスを着ているが、体のラインを見せるシンプルでスリムなドレスだ。腰から下は滑らかにドレープが掛かっていて、歩くと優雅に揺れている。

「ようこそいらっしゃいました」

執事のハワードがホールの扉を開けると、商品がこれでもかと並べてある。

商品の前にはサンプルが置いてあり、商品の説明をエスターやルシェリにお願いしている。

サンプルで配ったシャンプーとコンディショナー、石鹸はかなり売れると見込んでいるので、かなりの量を用意した。他には乳液や保湿水など、美容に関する物はかなり網羅して用意してある。それから香水や宝石など、貴族の女性向けのものも用意している。

「まぁ。ここは女性の天国のようなお店ですのね」

「レン、あなたは女の欲しい物をよく分かってるわ」

二人は俺の手を取りながら、俺の用意した商品を手に取っては感心していた。

二人共金額のことなど聞きもせずに、後ろから付き添ってくる使用人に、買う物を支持している。

流石領主夫人だな。この前の宝石も日本円で、30億という金額を即金で支払った。相当資金が溢れているのだろう。

他の貴族達は領主夫人に遠慮してなのか、夫人達が見た後から商品を手に取って見ている。

「まぁこの乳液というものは凄いですわ」

「本当。凄く肌に馴染むわね。この保湿水というものはどうなのかしら?」

「起きて顔を洗った後と、寝る前に使うようですけど、きっといいと思いますわね」

仲のいい夫人達が手に取りながら、商品を試して感嘆の声を上げる。

みんな吸い込まれるように、商品を手に取っていた。


貴族の世界での女性は大変だ。社交界での女性は見た目が特に重要視される。

美しさは家の裕福さの証明であり、会場の華となることが出来るのだ。

そして社交界での主役の座を、ここにいる女性達は狙っている。

誰も会場で雑草のように扱われたくないからだ。

「フフ。皆さんも夢中ですのね」

コリーナ夫人がぼそりとつぶやく。

見栄とプライドが凝縮された虚栄の世界。それが貴族の社交界だ。

伯爵夫人達は美しい。俺よりも年上の子供がいるとはとても思えない。

それほどに美しく、彼女等は長年に渡って社交界で華として君臨してきたに違いない。

そんな彼女達が迷わず購入するのだから、きっといい物なのだと思っているのだろう。


俺は彼女等に人工宝石のネックレスを売りつけたわけだが、アレは社交界で一番の注目を取れるほどの代物なのかもしれない。

だから俺のことを気に入ってくれたのだろう。

俺が気をつけなければならないのは、夫人達のプライドをへし折るような宝石を、これからは出してはいけないということだ。出すとしても二人にまず話を持って行く必要がある。


俺の放ったシャンプーとコンディショナーの効果が想像以上にあったな。

ひと月は持つから、そんなに買い込まなくてもいいはずだ。

でも無くなってしまった時のことを考えて買い占めるのかもしれない。


大変なのは使用人達だ。俺も大量に購入していくことを予想していたので、商品を置くためのブースを設けて、スコットとバイロン、ラッセルにはブースに運ばせる手伝いをさせた。

このペースだと用意した分は、あっという間に売り切れてしまいそうだ。

その様子を見て執事のハワードが、獣人達に商品の補充をするように指示を出す。

俺が購入したそのものを出すことが出来ればいいが、この世界の神に目を付けられる訳にはいかない。だから詰め替えをする必要がある。

それにしてもこのままじゃ用意した物全てが売り切れてしまいそうだ。

今日だけでネックレスを売った時以上の利益が出るかもしれないな。


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