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ラグナロク  作者: ピロ
第4章 地下迷宮へ
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小夜と玉藻

用事があって京都に行ってきたのですが、前回同様時間が無くて観光は全く出来なかったのデス・・・

トホー。

夢を見ていた。


私が人として新たに転生した理由。それは自分が恋焦がれて、ずっと探していた人を見つけたからだ。


人化も出来ないタダの妖狐だった頃、私は一人の武者に助けられたことがある。

土蜘蛛の縄張りに入り込んでしまった私は殺されかけていた。

そんな時、霊獣を配下に置く彼が助けてくれたのだ。

彼は鬼武者とか雷光と呼ばれていた。

「雷光、こやつは妖狐だぞ。殺しておいた方が良いのではないか?」

「やめろ。こいつのお陰で土蜘蛛を倒す事が出来た。俺に牙を向けぬのなら構わぬだろう」

彼には四人の配下がいる。人化しているが彼らは霊獣だ。

彼も動けなくなるほどの大怪我を負っていたから、私が主に害を成さないか常に目を光らせて見張っている。

私が主に好意を持っていると理解してからはそこまで監視されることは無くなったが、それまでは何度も刀に手を掛けていた。

「お主も儂から逃げぬとは珍しい奴じゃのう」

私はこの強い男の事を好いてしまっていた。

だが所詮は人と狐。彼のぬくもりをどれだけ感じても叶わぬ恋でしかない。

届かぬ思いだけが私を苦しめる。


彼は真っ白な妖狐である私が珍しかったからか、私の怪我が治るまでずっと側にいてくれた。

「お主も達者でな」

別れの挨拶はしてくれたが最後まで彼の名を知る事は無かった。

恐らく名前を知られることによって、操られる事のないようにしているのだろう。


本当の名前を知ったのは、彼を追って下界に降りた時。


彼の隣にいたい。その一心で私は人化の術を覚えた。

だがその頃の私は人の命が短いことなど知る由もなく、辿り着いたのは彼の墓標。

「主は去年亡くなったよ」

そこに記されていたのは源頼光という名前。

彼の配下としていた霊獣の一人が愛する人の最後を教えてくれた。

人は輪廻の輪に縛られている。だから生まれ変わった彼にいつか巡り合えるはず。

彼と結ばれる日を思いながら彼を探す長い日々が始まった。

だが私は現実に思い知らされるのだ。


「どうしたら会えるのじゃ。この世にどれだけの人がいると思っている?」


涙も枯れ果ててしまった。彼の顔も声も、匂いももう分からない。

彼の為に色々な事を覚えた。彼の為なら何でもしてあげたい。彼の隣に並ぶ為に相応しくなろうと美しさも磨いた。

恋焦がれて、焦がれて、焦がれ続け、結局は何も得られなかった。


長く生きていた私は神格を得ることが出来た。

神格を得ることで色々な事を知ることが出来たが、彼のいない世界などただ虚しいだけ。

全てがどうでもよくなった私は、彼のいない裏の世界にいった。

新しい世界で穏やかに生活しようと決めたんだ。


「頼光様・・・」

長い夢を見ていたような気がする。

今までは記憶を断片的に思い出していたが、思い出す記憶は悲しい記憶だけ。

生まれる事の出来ない子供の魂に私の魂と同化させて、この世に生を受けた小夜。

あの頃の寂しさを、小夜には思い出させたく無かった。

「小夜?」

頬に伝った涙を拭っていると、アイラから声が掛かった。

「お主を起こしてしまったか?」


小夜ではない。


と、アイラの識別プログラムが瞬時に判断した。

だが、ここにいるのは間違いなく小夜だ。瞬時に何万件の答えを出すアイラはプログラムに修正を掛けつつ答えを導き出す。

「私は寝ることは無いので気にしないで下さい。小夜・・・いえ、(たま)()と呼んだ方がいいのでしょうか?」

「そなたはアンドロイドだったな。今の私は小夜だ。小夜でよい」

99%は確定事項であったが本人による回答で、ここにいる人物は太古の大妖怪“ 九尾の狐、玉藻 ”で確定した。

そして小夜と玉藻は同一人物であるとアイラの脳内に記憶され、生体コンピュータである“ 禅 ”にも認識される。


ゲルの中は薄っすらと明るくなっているのだが、玉藻と呼ばれた女性は小夜と重なって、薄く発光する霊体が重なって見える。

「小夜。今のあなたが本当の小夜なんでしょうか?」

いつもと明らかに違う小夜とは別人だ。

「いいや、私もこやつも小夜だ。想いは託しているが、私は基本的に眠っているだけだ」

「ではたまたま出て来たということでいいのでしょうか?」

「ああ。だから寝て起きれば元に戻っている」

寂しそうな顔を一瞬浮かべるが、太古から生きている大妖怪だ。すぐに引き締まった顔に戻っていた。

「そなたは私を殺した者であろう?覚えているぞ」

玉藻は恨んでいるような顔はしていなかった。寧ろ穏やかで、少し笑みを浮かべているのがアイラには理解出来ない。

「あなたは私を恨んでいないのですか?」

「恨んではおらぬよ。あの時の私は生きているだけの屍だった。寧ろ私の好きな人に合わせてくれたお主に感謝しているのだ」

「感謝ですか?」

「そうだ。お主は私がずっと求めていた人に出会わせてくれた。千年も生きていて、死ぬ瞬間が一番嬉しかったのだ。笑えぬ話だが、それが真実だ」

玉藻は自虐的に言葉をつづる。

「お主は私に生きる希望をくれた。だから私は今、幸せなのだ」

アイラはいつも不思議に思っていた。子供っぽい小夜がたまに見せる大人びた顔。

あれはまさに玉藻の顔そのものだ。だがここまで印象が変わるというのも珍しい。

その疑問に終止符が打たれる瞬間だった。

「そうですか。それなら良かった」

「ああ。私は寝る事にするよ」

「もう少し話しませんか?」

「いや、小夜は疲れている。少しでも体と精神も休ませてやらねば、潰れてしまう可能性がある」

「分かりました。あなたの言うことは最もです。お休みなさい」

「ああ」


出来れば玉藻と話をすることによって、識別プログラムの問いに確定事項を増やしたかったが、小夜を休ませなければならないのは玉藻の言う通りだ。

しかし表に出てきているということは、妖怪だった頃の力が復活してきている証拠でもある。

しばらくすると、小夜は寝息を立てている。


血圧、呼吸共に安定。小夜は睡眠に入ったと認識。


アイラは小夜の睡眠を確認すると、自身もスリープモードに入るのだった。




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