失われた刻を取り戻すために
誤字、脱字のチェックをしていると、色々書き直してきたくなります。
皆さんに少しでも不快な文章にならないようにと気をつけてはいますが、間違い等ございましたら教えて頂けると幸いです
「手術を担当する櫻井です」
「「本日は宜しくお願いします」」
メインオペをする医者が手術に関する説明をしにきた。
色々専門的な事を言われたが、簡単に言ってしまえば小夜の膝下の残っている部分を切断して、クローンの足の同じ部分を切断して接合する。
それが今回行われる手術だ。
手術自体それほど時間は掛からないが、接合するのに時間が掛かるとのこと。
接合するまでは一切動くことは出来ないので、その間に施設側の依頼を協力するのが足を戻す為の条件だ。
「じゃあこれから小夜さんにやってもらうことを説明するので、担当者の方から説明をしてもらいます」
担当医の櫻井は準備をする為に部屋を出ていく。
「小夜はなんか聞いてるのか?」
「私はもう何度かテストしてるよ。アバターを操って色々なデータを取ってるんだ」
小夜と話していると、扉がノックされて男性と女性のエンジニアらしい二人が入ってくる。
「はじめまして、ダイブマシンのメインエンジニアをしている竹内です」
「私はリンクエンジニアを担当する五十嵐です」
「こちらこそはじめまして。橘蓮です。宜しくお願いします」
「竹内さん五十嵐さんお久しぶりです。今日は兄共々宜しくお願いします」
「橘のご子息とご縁があることに感謝します」
男のエンジニアは学生時代、ウチの支援を受けて学校を出たそうだ。つまり橘のグループ会社がこのプロジェクトに絡んでいるということだ。
「私達の会社ではVRMMORPGのゲームを開発しています」
「ゲームですか?」
竹内というエンジニアは俺に名刺を渡してくる。
名刺には日本を代表するゲーム会社、オリエントの開発部の部長と書かれている。
オリエントといえばVRMMOのゲーム、エクリプスが世界中で流行っている。
「ゲームとここの研究所と繋がりが分からないかもしれませんね。現在のVRはゴーグルを付けコントローラーを使用して動かしています。ですが今我々が挑戦しようとしているのは新たな世界を構築して、そこで自らが冒険をするという究極のゲームの開発に取り組んでいます。しかし自分のアバターを思うように動かすことは我々にとっては未知の世界で、こちらのラボで共同開発をしているのです」
この研究所は人体に関する研究を行うところで国の管轄下でもあるが、国からの斡旋があれば民間からの依頼も受けたりもする。
竹内は脳から神経への伝達の仕組みを説明してくれるが、その辺は簡単に説明してくれた。
基本的な動きは既に問題なく出来るらしい。ただ今はまだ完璧ではないそうで、細かいデータの解析を進めていくのが目的とのこと。
今は人気のVRMMORPGエクリプスをベースにフルダイブ型の世界を制作しているそうだ。
フルダイブのゲームか。未だ実現していない夢の技術だ。
世界が現実になる瞬間に立ち会えることは凄いことだな。
「小夜さんには何度か協力していただいて、かなりのシンクロ率を達成することが出来ました。今回は足の接合が終わるまで協力していただけるということで大変有難いことです」
俺はマシンの説明から安全装置まで詳しいレクチャーを受ける。
思っている以上に安全に気を使っているようだ。ここの研究施設だけでも想像も出来ないほど資金の投入はされていることが分かる。絶対に失敗が許されないのだろう。
「小夜さんの手術の時間がもう少し先になるので、今のうちにダイブマシンの説明をします。実際に見た方が分かりやすいと思うので、実物を見てみましょう」
リンクエンジニアの五十嵐さんに連れられて俺達は別の部屋に案内された。
部屋には五台のマシンが置かれていて、部屋の反対のガラス腰にエンジニア達が作業に使うであろうPCやモニター類などが見える。
小夜は試運転をしているため、何度もここに来ているそうだ。エクリプスの世界に何度も行ったことがあり、かなりリアルな感じらしい。
「お兄ちゃんもフルダイブの世界に行ったらビックリすると思うよ」
いくらVRがリアルといっても、あくまでコントローラーで操作をするからな。どこか現実的な部分もある。それがアバターにリンクするというのはどんな感じなのだろうか。
ダイブする為のマシンは卵型の上部に人が入り込むことが出来るようになっていて、体に接続するだろう配線類が見える。専用の全身スーツを着て、配線の類はそれに繋ぐらしい。そしてヘルメットのような物を被って、レム睡眠の状態で運転するのだそうだ。
「今回は小夜さんの接合した足が完全になるまでの運転になるので、二カ月の間ダイブしてもらうことになります」
「はい、是非お願いします」
もうすぐ夏休みだが俺は毎日小夜の様子を見に来る予定でいる。爺さんは仕事で忙しくて今日も来れなかったし、二カ月となるとかなり休むことになってしまうが、夏休みも挟むから留年することはないだろう。
「学校にちゃんと言ってないんですが、担任にはそれとなく伝えてあります。なので毎日様子を見にくるつもりです」
そういうと小夜の顔がパァっと明るくなる。
「ホント?お兄ちゃんとずっと一緒にいてくれるの?」
「ああ、小夜が戻ってくるまで毎日側にいるよ」
俺は小夜が前に進む為のサポートをしなければとずっと思ってきた。あの時は小夜に何も出来なかった。だから今度は俺が側についていようと思う。
「私達からの依頼になるので、学校には不備が無いようします。その他の手続きなども我々でやっておくので安心して下さい」
五十嵐さんは俺のことまで面倒を見てくれるようだ。本当に感謝しかないな。
「そろそろ手術の時間ですね。小夜さんはオペの後、そのままダイブマシンに乗ることになります」
後ろから医者の櫻井さんが話しかけてくる。
「看護師の斎藤さんが準備を手伝ってくれますので、一緒に行って下さい。蓮君は手術に立ち会いますか?」
「いいんですか?俺が一緒にいて」
「ええ、構わないですよ。小夜さんが不安でしょうから、側にいてあげて下さい」
「手を握っていてあげるのはいいですか?」
「はい、大丈夫です。そうしてあげることで安心出来ると思います」
断られるのを覚悟でのお願いだったが、これで小夜の側にいてあげられる。
「妹のこと宜しくお願いします」
俺は深々とお辞儀をする。本当に感謝しきれないよな。
メインオペをする櫻井さんの他に、サポートする医師が2人と看護師が3人。念には念を入れての人数なのだが、大げさすぎて小夜を不安にさせてしまうのではないかと心配だったそうだ。
手術室に入る為の術衣に着替えて手術室の前に行くと、看護師に連れられた小夜が不安そうな顔をしている。
「お兄ちゃん」
俺の顔を見て少し落ち着いたのか笑顔になる。
「手術中俺もいていいみたいだから側にいるよ」
「先生本当?」
「ええ。小夜さんには前にも言ったと思いますけど、手術自体はすぐ終わります。リスクもそれほど無いので構いませんよ」
「ありがとうございます」
「蓮君は手術室に入る服は今着ているので、マスクと帽子を被ってもらいます。私も準備しますので、もうしばらくここで会話を楽しんでいて下さいね」
櫻井はそういうとオペの準備をしに行く。他の医師や看護師は既に準備は終わっている。
「あなたが小夜ちゃんのお兄さんね、じゃあオペ中はこのマスクと帽子を被っていてね」
手術室に入ると俺達が入った反対側の扉が開いて、キャスターの付いたカプセル型の物が運ばれてくる。小夜は既に横になっているから見えないが、培養液に浸かった小夜のクローン体がそこにあった。一糸纏わぬ姿に俺は今朝の夢を思い出しドキッとしてしまう。
「お兄ちゃん?」
「ああ、ゴメン。小夜のクローン体を初めて見て驚いたんだ」
こうやって人間がパーツを交換するようになったら、この世の中はどうなってしまうんだ?
要らなくなれば廃棄とかそんな時代になってしまうのだろうか?
小夜の足が治るというのに俺は不安を感じていた。
櫻井がやってきてオペは始まった。さすがに櫻井が言うようにすぐ終わることはなかったが、右足を切断、接合するのに15分。神経やら血管が接合しているかの確認作業に1時間ほど掛かった。左足も同様のオペを行い無事に終わる。切断した瞬間にコーティングが行われ、切った瞬間だけ血が溢れた。コーティングは熱を加えると溶けるようになっていて、足を人口皮膚で接着したらコーティングに熱を加えて手術は終わった。
確かにこれならリスクは少ない。ただこの手術の場合、骨の接合に時間が掛かる。その間動くことが出来ないのが難点だ。
「蓮君、無事手術は終わりましたよ。神経の伝達もちゃんと確認出来たので安心して下さい」
「本当ですか?良かったです」。
「私達も培養した足を接合するのは初めてだったので、少し不安はありましたけどね。でも問題なく手術も終わりました。これも協力してくれた小夜さんと、蓮君のおかげです」
「先生ありがとうございます。小夜も喜ぶと思います」
俺は手術をしてくれた先生方、看護師さん達に感謝の意を込めて頭を下げる。
「小夜さんはこのままダイブシステムの方に行くので、エンジニアの方達にお願いします。異常があればすぐに対応しますが、私達はここまでです」
櫻井さんは軽く会釈をして手術室を出て行く。
俺も看護師達に小夜を着替えさせるから出て行くように促される。
医師達はクローン体を元の部屋の方に移動しながら何やら話し込んでいる。
どうやら遺伝子操作された他の生物の足が、接合可能かどうかの話をしているようだ。
小夜と同じ顔をした体に人体実験を行うと思うと、複雑な気持ちにさせられるな。
術衣から着替えるとダイブマシンのある部屋に案内された。小夜はダイブマシンに乗っていてスーツに色々な配線やホース類が繋がれて行く。
アシスタントの人が準備を進めている間、メインエンジニアの竹内さんが説明をしてくれる。
「今から小夜さんがダイブするのは、ウチの会社のエクリプスを進化させた世界です。そこで小夜さんには自由に動いてもらうようにしています」
リアルでゲームを実体験出来るのか、それは凄いな。
「俺も小夜もエクリプスをやってますよ」
小夜が東京に越してからというもの、ほぼ毎日エクリプスの世界で小夜と会っていた。東京で友達が出来て、今日は友達と遊びに行くからゲームにインしないよ。って言ってくる日があればって思っていたんだけどな。結局は毎日俺とエクリプスの世界で遊んでいた。
「本当ですか?それは嬉しいですね。この技術が世の中に出ることになれば、いろんなことが変わりますよ。楽しみにしていて下さい」
ダイブマシンと接続が終わりスーツ内に液体が流れ込む。コレは常に循環していて傷口にも殺菌作用があるのだとか。
「ここにいても何もすることが無いので、モニタールームに行きましょう」
隣の部屋に行くと各ダイブマシンごとのモニター類と、ダイブしている人の心電図や血圧計などのデータを見るところに分かれている。そちらには医師と看護師が常に常駐するスペースが用意されていた。
俺はダイブシステムが見えるガラスの前の椅子に促されて座る。するとリンクエンジニアの五十嵐さんがマシンの調整を終えてモニタールームにやってきた。
「起動オッケーです」
五十嵐さんが竹内さんに合図を送り、周りの医師と看護師に宜しくお願いしますと声を掛けるとマシンが立ち上がる。正面のガラスは実はモニターになっていて、小夜のいる世界が投影された。
エクリプスを始めると定番の始まりの街、アルタリウムの噴水公園の前からのスタートになる。
「小夜さん聞こえますか?」
投稿のチェックに時間を掛けているせいか、先行して書いている物語の方に手が回らなくなっています・・・こういう時作家さんは凄いんだなと改めて感心しています




