生体データはフランクフルトを添えて
寒いっスー。
背中にカイロ貼って仕事してるっスー。
「あんちゃん。この前も変な時があったけど、大丈夫なのか?」
ユキには何度も心配させているな。
「大丈夫だ。それよりも皆に見せるものがある。俺がこっちに来た施設があるんだけど、今から見てもらう。恐らくミレニア教に狙われる原因でもあるから、絶対に口外禁止だ。マーク、今動けるか?」
「うん。大丈夫だ。痛みが引いて歩くことなら出来そうだ」
相当な怪我だったけど、獣人の体が強いのか、それとも貼り付けたガーゼが良かったのか?
俺は皆を中庭に造った階段から俺が来た施設へと向かう。
「ここがそうなんですか?」
「そうだよ。中に入らないと分からないだろ?」
どう見てもこの世界の家にしか見えないからな。
家自体、大きさもそこまで大きいわけでもないし、理解出来ないのだろう。
この世界の扉は中からカンヌキを掛けなければ鍵が掛けられない。
商会でも無ければそこまで裕福な人はいないから、盗む物が無いのが普通だ。
だから鍵も必要ない。
盗みは無いが、その代わりにこの世界では夜這いが横行している。
「入ってくれ」
皆を中に入れると、なんてことも無い普通の家だ。
「本当にご主人様はここから来たのですか?」
「まぁね。ここはあくまで偽装しているから」
俺はリビングに行き、隠し扉を開ける。全員を入れて隠し扉を閉めると、指紋認証のコンソールに光が灯る。
「急に光りだした」
驚いたユキは俺の後ろに隠れる。
俺が手を置くと、OKという文字が現れて鍵が開いた。
階段を降りると、スライドドアが開いて異世界の空間が広がる。
「何コレ。あんちゃん、ここ窓が無いのに明るいぞ」
ここの施設の明かりがLEDかは分からないけど、それよりも進化した省エネのライトなのは確実だ。
「コレは驚きですね。ご主人様が違う世界から来たって言ってましたけど、信じるしかないですね」
「確かにコレは凄いね。私もルシェリに賛成だよ」
「ヒカリノ、セイレイ、イマセン。ナノニアカルイ・・・?」
獣人達4人は驚きで口が開きっぱなしだ。
ソファーに座ってコンソールを次元収納から取り出してロボ太を呼び出す。
すると隣の部屋のドアが開いてロボ太がやってくる。いきなり現れたロボ太に全員が身構えるが、俺が手で制す。
「このロボットはロボ太。この施設を管理しているロボットだ」
「ロボット?」
「ロボットは説明しても分からないから説明はしない。この施設のメイドだと思ってくれればいい」
皆思考がパンクしてるな。でもこんなオーバーテクノロジーな物を見ればしょうがないだろう。
するとロボ太の体から空中に光が投影される。何もない空間に文字が表示された。
内容としては、俺に検診を受けるように。それから他のメンバーにも検診と、生体データを登録させるようにしろとのことだ。
「分かったよ。どうすればいいんだ?」
ロボ太は俺達を隣の部屋に誘導する。
「あんちゃんがもう一人いるっ!!」
ユキが驚きの声を上げる。そういえば、小夜の遺伝子から男の体の物を2体培養されていたな。
「コレは妹の小夜の遺伝子から造られたんだ。他の女性は妹そのものだよ」
「あんちゃんは妹と交尾したってことか?」
「違う!!」
ユキの頭を軽くチョップする。
「ユキ。お前の髪の毛からユキがいっぱい出来るとしたらどう思う?」
「髪の毛でオイラがいっぱい出来るの???」
ユキにはまるで理解出来ないようだ。まぁ、分からないのが当たり前なんだけどさ。
「コレが、ご主人様の・・・」
エスターとルシェリがもう一人の培養されている体の股間をジーっと見つめている。
ミレーヌも興味津々だな。こいつ等エロすぎじゃないか?
この世界に娯楽は少ない。やることといえばソレくらいしか無いのかもしれない。
ロボ太は俺がこっちの世界にくる前に乗った、ダイブマシンのような物を移動させてくる。
服を脱いで、この中に順番で一人づつ入るようにとのことだ。
「服を脱いで一人づつ、この中に入ってもらう。最初に入りたい人は?」
見た事も無いものに入れって言われても誰も入らないだろうな。
しょうがない。俺はさっさと服を脱いで裸になる。
「うほっ」
奴隷の3人は俺を見て、なんか嬉しそうだ・・・
カプセル状のマシンに寝転ぶと、左手の中指に血圧を測るような物が挟まれて、培養液のような液体が入り込んでくる。また肺の中に溜まるまで苦しいのかもって思ったけど、こっちは全然苦しくない。中指が挟まれた時、一瞬だけチクッとしたから、そこで何等かの薬を投与されているのかもしれない。
しばらくすると、頭上に俺の生体データが表示される。血圧や心拍数、血液のデータ、身長から体重、それに体の異常が無いかチェックが入って、全て問題がないようだった。
それから一番下に特記事項のような欄があって、ハイブリッドボディと書かれている。
そこには骨が流体金属で出来ていると書いてあり、その下にはオーガやゴブリン、ホブゴブリン、トロール、ミノタウロス、マンティコア、フェンリルなどファンタジーで出てくる名前の遺伝子が使用されていると記載されていた。
まさかと思ったけど、俺の体にこいつ等の遺伝子が入ってるのかよ・・・
だが異常な握力や脚力を考えると、そうとしか思えない。
それから流体金属って何だ?未来の技術だから、その頃にはあるんだろうな。
考え込んでいると、いつの間にか検診は終わっていた。
「ロボ太。マークは怪我をしている。検診をしなくちゃ駄目なのか?」
するとロボ太がスクリーンに、このマシンは怪我や病気の治療も同時に行うことが出来ると表示をしてきた。
スゲェな。
「じゃあマークも入ってくれ」
女性達の視線が気になるのか、恥ずかしがって服を脱いでいる。
マーク、それは一部の女性達には至福にしかならないんだぞ。
案の定ルシェリやエスターはゴクリと生唾を飲み込んで、瞬きもせずガン見している。そしてマークがマシンに寝転んだ後は、何かを悟ったような顔をしていた。
全身が液体に浸かると、色々な情報が表示される。
俺と違って色々な箇所に赤い文字で異常の表示が出てきた。それと同時に対策もするようだ。
衛生状況が悪いのか、病原菌の感染と表示が出て、ワクチンの投与がその都度されていく。
怪我に対してはガーゼを切り取り、ナノマシンによる治療と出ている。
目には見えないが、液体部分に色が変わる部分があるのはナノマシンなのだろう。
驚いたことに、傷口がどんどん塞がって行く。原理が俺には分からないが、最終的には全く傷があったことが分からない状態になった。
「俺の傷どうなっちゃったんだ?全く痛くないぞ」
「マーク。本当に何も痛くないのか?」
「うん。全く痛く無いんだ」
もしかしたらフェリシアの目も良くなるかもしれない。
ここからは女性だけになるから、俺とマークは隣のソファーのある部屋に戻ってきた。
「レンの兄貴。ありがとう。本当に感謝しかないよ」
ほんの数時間前まで死にそうな感じだったのが、元の状態にまでなるのか。未来の技術は半端ないな。
しばらくすると、隣の部屋からフェリシアが出てくる。
「おいフェリシア、一人で歩いて大丈夫なのか?」
「うん。兄ちゃん。私、目が見えるの」
フェリシアの目には大粒の涙が溢れていた。マークもフェリシアの元に掛けて行き、フェリシアを抱きしめる。
「良かったな。フェリシア」
「私の目がいつか何も見えなくなるんじゃないかって、不安で怖かった。それから兄ちゃんの迷惑になるのが嫌でしょうがなかったし、兄ちゃんに見捨てられちゃうかもって、ずっと思ってたんだ」
「そんなわけないだろ。例えフェリシアの目が見えなくなっても、兄ちゃんはずっと側にいるからな」
「うん。兄ちゃんはそんな人じゃないよね。分かってるけど、そうなったらって考えちゃったんだ」
「馬鹿だなお前は・・・」
獣人だからなのか、お互いを舐め合って愛情を確認している。
いい兄妹だ。マークは本当に妹思いだし、フェリシアもマークに対して絶対的な信頼をしているのだろう。
俺は小夜にとっていい兄貴でいるのかな?
小夜が両足を失ったあの時、俺は小夜に対して何か出来たんじゃないか?
俺の事を本当は恨んでいて、小夜は恨んでいることを隠しているんじゃないか?
そう思ってしまうことがよくある。
だからこそ、今度は何も出来なかった駄目な兄貴でいたくない。
早く小夜を見つけないとな。




