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ラグナロク  作者: ピロ
第3章 商会 前編
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秘密と記憶

頑張って更新しちゃうぞ♪



「さてと・・・皆が見た俺の事について話さないといけない。今から聞くことは全て秘密にしてくれ。そうしないとこの組織は潰さなければいけなくなる」

俺はマークとフェリシアがいる部屋に集まって話を始めた

「まず俺はこの世界の人間では無いんだ」

全員がその言葉にポカンとした顔をしている。


時間は掛かるがちゃんと説明はしないとな。どれだけ理解されるか分からない。

この世界に遺伝子から創りあげた体に、魂を飛ばしてやってきました。そういって理解出来るものだろうか?俺だって理屈すら分からない。そんな知識は無いからな。

何もない空間から物を出すことだって、俺には全く理解が出来ないことだ。

だから俺は時間を掛けて事実だけを伝えていくことにした。


「そんな世界が存在するんですか。確かにご主人様は見たこともない服を着ていますよね。さっきのジッパーというものも、どうやって造られたのか私には理解出来ません」

「このジャージの布は石油という油から出来ているんだ。ちなみに石油は動物の骨から出来ているんだよ」

「元が動物の骨ですか?それに油から糸が出来るなんて言われても、とても信じられません」

一通り話をしたけど、獣人の4人は途中から聞き流しているようだった。ルシェリとエスターもこの世界じゃ学のある方だが、それでも想像の先を行き過ぎて理解が出来ないようだ。

「理解出来ないことが多いと思う。俺もどう説明すればいいのか、正直よく分からないんだ」

適当にこの世界に存在しない物を出してみる。ライターや懐中電灯、腕時計など出してみた。

「凄い。火が簡単に付くなんて凄いです」

「こんなに明るい光が出るなんて・・・純度の高い魔法石が埋め込まれているのでしょうか?」

「俺がいる世界は魔法というものが存在しない世界だ。だから魔法が無くても使える道具が発達している。このライターは可燃ガスを液化して、火花を飛ばして発火させている。それからこの懐中電灯や時計は電気をエネルギーにして、光ったり、動いたりしているんだ」

「マホウガ、ナイ、セカイ?」

説明してもチンプンカンプンのようだ。まぁ当然といえば当然だよな。

原理を知っていたからといって、作ることは出来ない。これが積み重ねられた技術の歴史だからだ。

こっちの世界に転移することは、説明している俺でさえオーバーテクノロジーすぎて分からない。

「俺がいた世界はそんな感じだ。こっちの世界に来た理由は前にも話したけど、妹を探しに来たからだ」

「ご主人様は妹の小夜さんの魂が、こっちの世界に来てしまって探しにきた。そういうことで宜しいでしょうか?」

少し沈黙していたが、エスターが口を開く。

魂という概念がこちらにも存在していて良かった。

「そうだな。それがこの世界にきた理由だ」

元々は小夜がゲームのシュミレーションをするだけの予定だった。

この世界にくる予定は無かったんだよな。

「あんちゃんの妹が見つかったら、元の世界に帰っちゃうのか?」

「そうなるな。でも元の世界と連絡が出来ないんだ。帰る方法も分からない」

「あんちゃんが帰っちゃったら、オイラ寂しくてどうすればいいんだよ・・・」

泣き出すユキを抱き寄せて、頭をそっと撫でてやる。

「まだ帰れるって分からないし、時間が経ったらこの世界に定着してしまう可能性だってある。だから今悲しむのはやめてくれ。なっ」

「分かったよ、あんちゃん。でも一つだけお願いがあるんだ」

「何だ?俺に出来る事なら、願いを聞くよ」

「うん。大丈夫だよ。そんなに難しいことじゃない」

ユキは真剣な顔で俺を見つめてくる。

「オイラ、あんちゃんの子供が欲しいんだ」

一番難しい願いが来てしまった。だからといって曖昧には出来ないよな。

「いいよ。約束しよう。でもユキがもう少し大人になってからだ。そしたら約束を守る」

「分かった。オイラそれまで待ってるからな」

ユキは俺の頬に手を当てると、唇を重ねて来た。優しいキスだった。

「約束だからね」

「分かったよ、ユキ」


“ 約束だからね ”

“ 分かったよ、雪菜 ”


突然のフラッシュバック。

俺の体に電撃が走ったような衝撃に襲われる。


そうだ俺は雪菜と約束をした。


雪菜?


雪菜って誰だ?


ユキを少し大人にしたような少女の姿がユキと重なる。

ユキ?雪菜じゃないのか?ココはどこだ?俺は幽世(かくりよ)にいたはずじゃ・・・

俺は何でこんな所にいる?


「あんちゃん?どうかしたのか?」


“ 龍?どうかしたの? “


ユキとユキを少し大人にしたような少女が同時に話しかけてくる。

どういうことだ?

俺は自分の手を見ると、ぼやけて二つの手が見える。

しかし同じ手ではない。もう一つの手は豆だらけのゴツイ手だ。


そのゴツイ手が動くと同時に俺の手もつられるように動く。雪菜と呼ばれた少女を抱き寄せ、俺は少女の胸に顔を埋めていた。

「・・・会いたかった」

“ はい。私もずっと待っていましたよ ”

雪菜と呼ばれた少女は、俺の頭を包み込むように抱きかかえて、愛おしそうに髪を撫でてくれる。

気付くと目から涙が伝っていた。そしてユキの目からも涙が流れている。


「あれっ?なんでオイラ泣いてるんだ?」

ユキにはユキに似た少女の幻影は見えていない。

ユキには俺が抱き着いてきて、甘えているように見えているのだろう。

俺の頭を抱え込んでスリスリしてくる。こうしてユキに抱きしめられていると、懐かしさを感じる。

何でだろう。分からない。でも懐かしい。







電灯の明かりが周りを照らす。

夏の暑さで(ただ)れたコールタールが、この電柱の歴史を物語っている。

辺りには音もなく静寂が支配していた。

深々と雪が降り続け、ここが白銀の世界だということに気付かされる。

雪が世界を白に染め上げて行く中、一軒の山小屋の窓から明かりが漏れていた。

薪ストーブにやかんが乗っていて、湯気がモヤモヤと上がっているのが映し出されている。

そこには住んでいる人の暮らしが存在していた。


「はい」

女性の膝の上に頭を乗せている男は、差し出されたミカンを食べさせている。

男はソファーに寝転んで頭を女の膝に乗せ、ノイズ交じりの白黒のTVにくぎ付けになっていた。

男とは対照的に、女はモグモグと食べている男の様子を愛おしく見つめている。

「美味しい?」

「うん。甘くて美味い」

何てこともない普通の日常に、彼女はかけがえのない喜びを感じていた。

「そう。じゃあもう一つ。はい、あーん」

彼女がもう一つミカンを口元に持って行くと、口に入れてモグモグと食べている。

そんな様子が愛おしくて、つい髪を撫でてしまう。

頬を撫でるとくすぐったいのか、ボリボリと頬をかじっている。

「んっ」

ミカンをくれという男の合図だ。

「ハイハイ。ちょっと待ってね」

ミカンに付いた白い繊維を取って口に持って行くと、再びモグモグと食べだす。

何がそんなに嬉しいのか分からない。しかし女はかいがいしく男の世話を焼くことに幸せを感じていた。

そんな平和で幸せそうな時間が流れていた。


家庭の何気ない一コマに、木の枝に積もった雪が落ちる音が、TVの音に混ざって聞こえてきた。

するとミカンを食べていた口の動きが止まる。少しの間、男の動きは止まっていた。

目付きが鋭くなり、先程とは違い空気が張り詰めている。

そして男は音を立てずにムクっと起き上がった。

「行ってくる」

「龍!・・・大丈夫なの?」

「・・・大丈夫。必ず戻ってくる」

龍と呼ばれた男は立てかけてあった刀を手にする。

「やっぱり私も行く」

「駄目だ。それよりお腹の子を守ってくれよ」

男は優しい笑顔を浮かべて言った。女はその笑顔に何もいい返せなくなってしまう。

「ちゃんと帰ってきてね」

「ああ」

泣きそうな女は俺の頬に手を添えて唇を重ねる。優しいキスだった。

「約束だからね」

「分かったよ、雪菜」



そこで思い出した記憶が途切れた。



俺の記憶?・・・なのか?



顔を上げるとユキが心配そうに俺を見つめている。

「大丈夫?」

俺はユキの頭を撫でて落ち着かせる。

さっきまで見ていた雪菜と呼んでいた女性とユキは、あまりにも似ていた。

同じ人物なのか?しかし雪菜と呼ばれた女性の頭部に獣人の耳は無かった。

俺の中に眠る、俺の知らない記憶。今までは思い出そうとしても、思い出せなかった。



今までほどけなかった紐が、少しづつ解けていく。

それが何を意味するのか、この時の俺には知る由も無かった。




更新ペースを落とそうと思ったのですが、この伏線までは早めに公開したかったので頑張ってみました♪



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