秘密と記憶
頑張って更新しちゃうぞ♪
「さてと・・・皆が見た俺の事について話さないといけない。今から聞くことは全て秘密にしてくれ。そうしないとこの組織は潰さなければいけなくなる」
俺はマークとフェリシアがいる部屋に集まって話を始めた
「まず俺はこの世界の人間では無いんだ」
全員がその言葉にポカンとした顔をしている。
時間は掛かるがちゃんと説明はしないとな。どれだけ理解されるか分からない。
この世界に遺伝子から創りあげた体に、魂を飛ばしてやってきました。そういって理解出来るものだろうか?俺だって理屈すら分からない。そんな知識は無いからな。
何もない空間から物を出すことだって、俺には全く理解が出来ないことだ。
だから俺は時間を掛けて事実だけを伝えていくことにした。
「そんな世界が存在するんですか。確かにご主人様は見たこともない服を着ていますよね。さっきのジッパーというものも、どうやって造られたのか私には理解出来ません」
「このジャージの布は石油という油から出来ているんだ。ちなみに石油は動物の骨から出来ているんだよ」
「元が動物の骨ですか?それに油から糸が出来るなんて言われても、とても信じられません」
一通り話をしたけど、獣人の4人は途中から聞き流しているようだった。ルシェリとエスターもこの世界じゃ学のある方だが、それでも想像の先を行き過ぎて理解が出来ないようだ。
「理解出来ないことが多いと思う。俺もどう説明すればいいのか、正直よく分からないんだ」
適当にこの世界に存在しない物を出してみる。ライターや懐中電灯、腕時計など出してみた。
「凄い。火が簡単に付くなんて凄いです」
「こんなに明るい光が出るなんて・・・純度の高い魔法石が埋め込まれているのでしょうか?」
「俺がいる世界は魔法というものが存在しない世界だ。だから魔法が無くても使える道具が発達している。このライターは可燃ガスを液化して、火花を飛ばして発火させている。それからこの懐中電灯や時計は電気をエネルギーにして、光ったり、動いたりしているんだ」
「マホウガ、ナイ、セカイ?」
説明してもチンプンカンプンのようだ。まぁ当然といえば当然だよな。
原理を知っていたからといって、作ることは出来ない。これが積み重ねられた技術の歴史だからだ。
こっちの世界に転移することは、説明している俺でさえオーバーテクノロジーすぎて分からない。
「俺がいた世界はそんな感じだ。こっちの世界に来た理由は前にも話したけど、妹を探しに来たからだ」
「ご主人様は妹の小夜さんの魂が、こっちの世界に来てしまって探しにきた。そういうことで宜しいでしょうか?」
少し沈黙していたが、エスターが口を開く。
魂という概念がこちらにも存在していて良かった。
「そうだな。それがこの世界にきた理由だ」
元々は小夜がゲームのシュミレーションをするだけの予定だった。
この世界にくる予定は無かったんだよな。
「あんちゃんの妹が見つかったら、元の世界に帰っちゃうのか?」
「そうなるな。でも元の世界と連絡が出来ないんだ。帰る方法も分からない」
「あんちゃんが帰っちゃったら、オイラ寂しくてどうすればいいんだよ・・・」
泣き出すユキを抱き寄せて、頭をそっと撫でてやる。
「まだ帰れるって分からないし、時間が経ったらこの世界に定着してしまう可能性だってある。だから今悲しむのはやめてくれ。なっ」
「分かったよ、あんちゃん。でも一つだけお願いがあるんだ」
「何だ?俺に出来る事なら、願いを聞くよ」
「うん。大丈夫だよ。そんなに難しいことじゃない」
ユキは真剣な顔で俺を見つめてくる。
「オイラ、あんちゃんの子供が欲しいんだ」
一番難しい願いが来てしまった。だからといって曖昧には出来ないよな。
「いいよ。約束しよう。でもユキがもう少し大人になってからだ。そしたら約束を守る」
「分かった。オイラそれまで待ってるからな」
ユキは俺の頬に手を当てると、唇を重ねて来た。優しいキスだった。
「約束だからね」
「分かったよ、ユキ」
“ 約束だからね ”
“ 分かったよ、雪菜 ”
突然のフラッシュバック。
俺の体に電撃が走ったような衝撃に襲われる。
そうだ俺は雪菜と約束をした。
雪菜?
雪菜って誰だ?
ユキを少し大人にしたような少女の姿がユキと重なる。
ユキ?雪菜じゃないのか?ココはどこだ?俺は幽世にいたはずじゃ・・・
俺は何でこんな所にいる?
「あんちゃん?どうかしたのか?」
“ 龍?どうかしたの? “
ユキとユキを少し大人にしたような少女が同時に話しかけてくる。
どういうことだ?
俺は自分の手を見ると、ぼやけて二つの手が見える。
しかし同じ手ではない。もう一つの手は豆だらけのゴツイ手だ。
そのゴツイ手が動くと同時に俺の手もつられるように動く。雪菜と呼ばれた少女を抱き寄せ、俺は少女の胸に顔を埋めていた。
「・・・会いたかった」
“ はい。私もずっと待っていましたよ ”
雪菜と呼ばれた少女は、俺の頭を包み込むように抱きかかえて、愛おしそうに髪を撫でてくれる。
気付くと目から涙が伝っていた。そしてユキの目からも涙が流れている。
「あれっ?なんでオイラ泣いてるんだ?」
ユキにはユキに似た少女の幻影は見えていない。
ユキには俺が抱き着いてきて、甘えているように見えているのだろう。
俺の頭を抱え込んでスリスリしてくる。こうしてユキに抱きしめられていると、懐かしさを感じる。
何でだろう。分からない。でも懐かしい。
電灯の明かりが周りを照らす。
夏の暑さで爛れたコールタールが、この電柱の歴史を物語っている。
辺りには音もなく静寂が支配していた。
深々と雪が降り続け、ここが白銀の世界だということに気付かされる。
雪が世界を白に染め上げて行く中、一軒の山小屋の窓から明かりが漏れていた。
薪ストーブにやかんが乗っていて、湯気がモヤモヤと上がっているのが映し出されている。
そこには住んでいる人の暮らしが存在していた。
「はい」
女性の膝の上に頭を乗せている男は、差し出されたミカンを食べさせている。
男はソファーに寝転んで頭を女の膝に乗せ、ノイズ交じりの白黒のTVにくぎ付けになっていた。
男とは対照的に、女はモグモグと食べている男の様子を愛おしく見つめている。
「美味しい?」
「うん。甘くて美味い」
何てこともない普通の日常に、彼女はかけがえのない喜びを感じていた。
「そう。じゃあもう一つ。はい、あーん」
彼女がもう一つミカンを口元に持って行くと、口に入れてモグモグと食べている。
そんな様子が愛おしくて、つい髪を撫でてしまう。
頬を撫でるとくすぐったいのか、ボリボリと頬をかじっている。
「んっ」
ミカンをくれという男の合図だ。
「ハイハイ。ちょっと待ってね」
ミカンに付いた白い繊維を取って口に持って行くと、再びモグモグと食べだす。
何がそんなに嬉しいのか分からない。しかし女はかいがいしく男の世話を焼くことに幸せを感じていた。
そんな平和で幸せそうな時間が流れていた。
家庭の何気ない一コマに、木の枝に積もった雪が落ちる音が、TVの音に混ざって聞こえてきた。
するとミカンを食べていた口の動きが止まる。少しの間、男の動きは止まっていた。
目付きが鋭くなり、先程とは違い空気が張り詰めている。
そして男は音を立てずにムクっと起き上がった。
「行ってくる」
「龍!・・・大丈夫なの?」
「・・・大丈夫。必ず戻ってくる」
龍と呼ばれた男は立てかけてあった刀を手にする。
「やっぱり私も行く」
「駄目だ。それよりお腹の子を守ってくれよ」
男は優しい笑顔を浮かべて言った。女はその笑顔に何もいい返せなくなってしまう。
「ちゃんと帰ってきてね」
「ああ」
泣きそうな女は俺の頬に手を添えて唇を重ねる。優しいキスだった。
「約束だからね」
「分かったよ、雪菜」
そこで思い出した記憶が途切れた。
俺の記憶?・・・なのか?
顔を上げるとユキが心配そうに俺を見つめている。
「大丈夫?」
俺はユキの頭を撫でて落ち着かせる。
さっきまで見ていた雪菜と呼んでいた女性とユキは、あまりにも似ていた。
同じ人物なのか?しかし雪菜と呼ばれた女性の頭部に獣人の耳は無かった。
俺の中に眠る、俺の知らない記憶。今までは思い出そうとしても、思い出せなかった。
今までほどけなかった紐が、少しづつ解けていく。
それが何を意味するのか、この時の俺には知る由も無かった。
更新ペースを落とそうと思ったのですが、この伏線までは早めに公開したかったので頑張ってみました♪




