プロローグ 日常 3
去年は11月まで暑かったので、まだ暑いだろうと思っていたのに、急に寒いです。また熱くなったりするかもしれないので、体調を崩して風邪をひかないように気を付けて下さいね。
「・・・き、・・・なの」
誰かいる?声が聞こえる。誰だ?
目が覚めると部屋は真っ暗だ。頭がクラクラするな。それに体が動かない。
誰かいるのか?暖かい感触が俺の体を包み込む。
小夜?
暗さに慣れてくると目の前に小夜の顔があった。子供っぽいいつもの顔ではなく、目が潤んで女の顔をしている。
「大好き」
少し開いた唇が俺の唇に重なってくる。そして小夜の舌が俺の口に入ってきて、舌に絡ませてくる。
意識がボォーっとした俺は小夜のなすがままになっている。
「お兄ちゃんは誰にも渡さないんだからね」
あったかいな。俺も小夜も一糸まとわぬ姿だった。俺の上に乗り背中に手を回してくる。
柔らかい。
小夜の肌のぬくもりを感じる。
「ねぇ、お兄ちゃん。私にキスして?」
「・・・ああ」
耳元で囁く言葉は逆らうことの出来ない魔法の言葉。
小夜に言われるままに俺はキスをする。絡ませる舌は心地よいぬくもりだ。
「お兄ちゃん見て」
起き上がって俺に跨った状態の小夜は大人びた笑みを浮かべた。
スラっとしたしなやかな体で、きめ細かいキレイな肌をしているのが分かる。
張りのいい乳房は上を向いて俺を挑発していた。
「どう?私キレイになった?」
「・・・ああ、キレイだ」
小夜から目を離せないでいると、俺の手を取ると自分の胸に手を持っていく。
「どう?」
「・・・柔らかい」
「好きにしていいよ。私はお兄ちゃんのものだから」
目を細め小夜が耳元で囁く。鼓膜が震える度にゾクゾクと全身に伝わっていく。
小夜・・・
そうだ小夜は俺のものだ。小夜と一つになりたい。
「私、お兄ちゃんの赤ちゃんが欲しいな」
「・・・ああ。俺もお前が欲しい・・・愛してる。・・・夜・・・」
チチチ、チチチ、チチチ。
携帯のアラームが鳴る。
「・・・っ!!!」
自分がしていた事に驚いて飛び起きた。
「ゆ、夢?」
俺は小夜を抱こうとしていた?慌てて俺のしたことに焦りを感じて辺りを見渡す。
でもちゃんと寝る前に着ていたバスローブを着ている。ベッドも布団も乱れた様子はない。
ホッとすると同時に、妹を抱こうとしていたことに罪悪感が俺を襲う。
俺は小夜と裸で抱き合っていた。
小夜が俺を求めていて、俺も言われるままに小夜の体を求めていた。
今まで家族として彼女を愛してきた。今もそう思っているし、これからもそうだと思っている。それなのに心の奥底では欲望の眼差しを向けていたのか?
コンコン
俺が起きた音に気付いたのか小夜が扉をノックする。
「お兄ちゃん?起きてるの?朝ごはん出来たよ」
小夜の声に俺はドキッとしてしまう。
「ああ、今起きた。すぐ行くよ」
昨日のすぐに寝てしまった時とは違って、頭がスッキリしている。
だが小夜をまともに見る事が出来そうにないな・・・
「しばらく家に戻れないから、トーストとインスタントのスープになっちゃったけどゴメンね」
「ああ。大丈夫だよ」
アレがリアルなことだったら、こんな普通でいることは出来ないよな?
そう考えるとアレは夢なんだと思う一方で、夢で見た小夜の肌のぬくもりを覚えている。
暖かくていつまでも抱きしめていたかった。ちょっと待て、小夜は妹だぞ。
意識がうつろではあったが、小夜に求められるままに俺は動いていた。
「お兄ちゃん?何だか変だよ?大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」
考え込んでいた俺の顔を覗き込む小夜。
とてもじゃないけど目を合わせることは出来ないよな。
怪しまれない為にもトーストを齧りながらスープをいただく。
「手術は怖くないか?」
俺は今の状況を変えるために話を逸らせるしかなかった。
「うん、不安じゃないって言ったら嘘になるけどね。でも元々ない状態なんだから怖くはないよ」
「そっか。しばらく俺は側にいるからさ、辛かったら俺に言うんだぞ」
「・・・分かった」
一瞬小夜の顔が暗くなったような気がしたが、俺にはそれが何なのか分からなかった。
小夜はいつでも出かける準備は出来ていた。もしかしたら緊張してあまり寝ていないのかもしれない。そう思うと余計に嫌悪感に襲われるが、今は考えないようにしないとな。
朝食を終えて片づけを手伝う。これから二カ月近くこの部屋は空き家になってしまうからな。
「冷蔵庫の中は大丈夫か?」
「うん。駄目になっちゃう物は無いから大丈夫だよ」
「そっか。それなら安心した」
今までは全部俺がやってきたから、何か変な感じだ。
小夜が自分で出来るようになることは、嬉しい筈なのにな・・・
よくよく見れば小夜は支度を全て終わらせている。
「小夜はもう準備終わってるんだな」
時計を見ると、もう9時を回っている。
「やべっ。俺が寝坊したんだな」
俺は慌ててキャリーケースから着替えを取り出す。
「大丈夫だよ。手術は午後からだし」
「でも10時に行くって話だったろ?」
「うん。でもラボまで歩いて10分も掛からないよ。お兄ちゃん心配しすぎ」
俺は集合時間の15分前には到着しないと安心出来ない。遅くても9時35分にここを出ないと行けないだろ。
今は9時17分だから、18分で支度をしないといけない訳だ。
妹の新たな人生の門出だってのに、俺は何やってんだ。
「お兄ちゃんにも失敗することがあるんだね」
わたわたする姿に小夜はケラケラと笑っている。
髪をセットしている時間はなさそうだ。手を濡らして手櫛で髪を揃えるが、クセのついた髪が直らない。アホ毛のようになっている。まぁだからといって死ぬ訳でもないな。
「小夜、そろそろ行こうか」
「えーっ。少しくらい遅れても大丈夫だよ」
双子でもここは俺と全く違う所だ。小夜はのんびりしているから、いつも俺がヤキモキしている。でも今日は俺が寝坊したんだよな・・・
「そういう訳にはいかないだろ?」
「分かったよ、もう」
小夜は渋々と部屋から出てくる。
「プッ」
俺を見た小夜がいきなり噴き出した。どうやら俺の寝ぐせを見て笑っているようだ。
「何だよ」
「お兄ちゃん、妖怪センサーが反応しちゃってるよ」
そういうと俺の寝ぐせを撫でてくる。
キノコ頭に寝ぐせが付いて小夜からすると、ゲゲゲの●太郎のように見えるらしい。
「父さん!!妖気だ!!」
「アハハハハ。ウケる。今度ちゃんちゃんこと下駄をプレゼントするから、渋谷のハロウィンパーティに着て行こうよ」
マジかよ。小夜は知らないけど、これでも俺は地元じゃ怖がられてるんだぞ?
反射的にやってしまったことに俺は後悔した。
「じゃあ小夜は目玉おやじな」
「何だよ。そこは猫娘でしょ。メチャ可愛くコスするからね」
そういっていたずらっぽく下から俺を見つめてくる。
「分かったから、そろそろ行くぞ」
「ちぇっ。まだいいじゃんかよー」
小夜は背筋がゾクッとするほど大人びた時がある。それが今だ。
妖艶で、男を全て篭絡させてしまうような視線。その視線に心が動いているなんて、小夜に知られるわけにはいかない。
小夜は妹なんだから・・・
今日、小夜は失った足を取り戻す、
これから小夜は自分の意思で自由に生きていけるようになる。10年前のあの時からやっと俺達の刻が動き出すんだ。
ここから俺達の運命は、世界の意思に巻き込まれて行くことになるのだった。
今日は少し早めに更新します。




