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ラグナロク  作者: ピロ
第3章 商会 前編
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商会を立ち上げる 4

ギルドに戻るとギルド長のベルクが腰を低くし、揉み手をしながら俺達を迎えてくれた。

いつもと違うギルド長の態度に、俺達が何者かとジロジロと見つめてくる。

「レンさんどうぞこちらへ」

俺達は奥の応接間に通される。その間もヘコヘコするギルド長があまりにも珍しいのか、ずっと見られていた。


「本当にこの物件で宜しいのですか?」

俺が選んだ物件が意外だったのか、本当にいいのか確認してきた。

「いいよ。問題ないよ」

しかし条件のよくない物件が売れることは、ギルドにとっては喜ばしいことだろう。

アリューシャが契約書を持って来たので、サインをして建物の所有権と譲渡の手続を済ませて、ついでに支払いも済ませてしまう。

「いやはや。レンさんとの取引は本当に気持ちがいいですね。これからも是非とも宜しくお願いします」

「こちらこそ、ベルクさんには世話になりました。また何かあれば宜しく頼みます」

俺とギルド長は笑顔で握手を交わして、取引を終えた。

ウィンウィンの関係とはこのことを言うのだろう。

恐らく俺の目的など誰も知りはしない。だがこれからあの家に住む人間だけが、その凄さを知るに違いない。

「あんちゃん、あの家がオイラ達のウチになるの?」

「そうだよ。今日は皆で掃除をしないとだね」

決めた物件は内覧を予定していなかったからか、掃除などは一切していなかった。

その辺の雑貨屋で掃除道具を購入して、その足で新居に向かう。

所有者も住んでいた訳じゃなかったらしく、中は埃っぽかった。あまり手を入れていなかったのか、雑草も伸び放題だ。

今日は手分けして掃除をしないとね。

当然ながら力仕事になる庭の草むしりは俺とユキだ。屋内はエスターにルシェリ、ミレーヌの3人で行うようにした。


「ねぇ、あんちゃん。オイラの知り合い達に手伝いさせたいんだけど駄目かな?」

「構わないよ。何人でも連れてくるといい。お金なら弾んで出してあげるから」

そういうとユキの顔が明るくなる。同じ境遇で育ってきたから、心配もしているんだろうな。

「じゃあオイラ呼んでくるよ」

俺の許可を取ると、すぐさま行こうとするが、ユキの手を掴んで止める。

前の汚い服装なら自由に動いても大丈夫かもしれない。だが今のユキの見た目なら、誘拐や襲われる可能性がある。

獣人が何されても誰も気にしないのがこの世界の常識なら、俺も一緒に行った方がいい。

「俺も行くから。案内してくれるか?」

「うん」

ユキと出会ったのはキャラバン隊がテント市を開いていた近くだ。

この街は大きいので、歩いて移動するとそれなりに時間が掛かる。


ユキが言うには個人ごとに縄張りのようなものがあって、その辺りを寝ぐらにしているようだ。

「オイラと一番仲が良かった子がこの辺りにいるんだ」

するとユキは鼻をクンクンして匂いのする方に向かって行く。

ユキの後に付いて行くと、突然ユキが走り出す。

「どうした?」

「オイラの友達がイジメられてる」

大きな広場から小さな路地へと入って、ユキは人気の無い場所に向かって行く。

こんなに離れているのに声が聞こえるのか。テント街はガヤガヤしているから、周りは雑音だらけだ。


「何すんだ。やめてくれよ」

「うるせぇな。お前が何されても誰も助けちゃくれねぇんだよ」

男は獣人の服を千切ると、胸が露わになる。

「お願いだからやめてくれよ」

「何だ。いい乳してんじゃねぇか。触らせろよ」

「やめ・・・」

「うるせぇ!!」

男は獣人の女の子を張り倒して服を全てはぎ取った。

獣人の女の子の裸が露わになる。痩せてはいるが、大人の女性に変わる少女の美しさがそこにあった。

「ヘッヘッヘッ。大人しくしてりゃあ、飯代くらい出してやるよ」


俺はユキの耳の良さに感心していると、その現場に到着する。

いかにもそうな男が獣人の服を破いて、下半身を突出させていた。

「やめろぉおおおおおおおおお!!!!」

ユキがキバを剥きだして怒りに震えている。

ユキの声に気付いて男は俺達の方を向く。

「何だお前らは。俺はコイツと一発やろうとしてただけじゃねぇか」

まるで悪い事はしてないよと言わんばかりだ。

しかしそれがこの世界の獣人に対する扱いか・・・

ユキを一人で行かせなくて正解だったな。

「大人しくここからいなくなるなら何もしない。そうじゃないならそれなりの報いを受けてもらう」

俺はユキの前に出て、ユキには手を出させないようにする。

「何だテメェは?俺様が誰か分かって言ってるのか?」

「お前なんか知らねぇよ。」

この前も同じようなセリフを聞いたな。そして男は有無を言わさず襲ってきた。

ハァ。全くこいつ等ときたら・・・

俺はみぞおちに一撃を加えるとその場に倒れ込む。

思いっきり殴ると内臓が破裂してしまいそうだ。手加減はしているが何とも難しい。

「ねえちゃん大丈夫か?」

獣人の女の子はユキのことが最初分からなかったが、匂いでユキだと気付いたようだ。

「あたいは大丈夫だけど、アンタはその恰好どうしちゃったのさ」

変貌と遂げたユキを上から下まで何度も見回す。

「オイラはあんちゃんに拾ってもらったんだ」

ユキは出会った時、奴隷よりも酷い恰好をしていた。

一度も洗われたことの無い服は、汚れてるし破れて所々穴が開いている。

そんな恰好をしていた仲間が、貴族の平服のような服装をしているのだ。

彼女を知っている人なら驚きもするだろう。

「そっか。いい人に拾って貰ったんだな」

「これを着なよ」

俺は上着を脱いで獣人の女の子に渡す。

「兄さんは貴族なんだろ?こんないい服、あたいが着たら汚れちまうし、弁償なんかできないから」

「そんなことはいいから着るんだ」

俺の真剣な言葉に獣人の女の子は大人しくなるが、やはり着ようとしない。

いつまでも遠慮するから、後ろから被せてあげる。

「ねえちゃん。あんちゃんはそんなこと気にする人じゃないから大丈夫だよ」

「・・・分かった。なら遠慮なく着させてもらうよ。兄さん、助けてくれてありがとな」

「気にするな。ところで名前はあるのか?」

俺が名前を尋ねると黙っていたが、口を開いた。

「・・・ネル」

「じゃあネル。俺の住む家で働かないか?」

「あんちゃん、いいの?」

「ああ。予想より大きい家になったからな。掃除してもらえるだけでも助かる」

「兄さん。本当に言ってるのか?あたいは獣人だぞ?」

「それを言ったらユキも獣人だろ」

「そっか。そうだよな。働かせてくれるなら働かせてくれ」

「やった。あんちゃんありがとう」



ユキが飛びついて顔を舐めてくる。もう慣れたよ・・・



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