歓迎会 2
この世界の高級料理屋にやってきた。
中世の世界でも貴族や富豪を相手にするお店は存在する。まさしくこのお店がそうだ。テーブルへの案内、細かな気配り、現代と比べてもかなりのものだ。
貴族に無礼があれば、殺される可能性すらある。だからこそ徹底しているのかもしれない。
「難しい話は後にして、まずは食べる事にしようか」
現代のフルコースとはとても似つかないが、前菜にしてはかなりボリュームがある。
俺の感覚とは違って、かなりこの世界は量が多い。ナイフとフォークに関しては、元の世界と一緒なのは有難かった。
大きめのトマトにアスパラガスのような物が添えられていて、そこにソースが掛かっている。この世界の物にしてはなかなか旨い。
マナーのマの字も知らないユキにナイフとフォークの使い方、置いてある物の使う順番を教えながら食べて行く。何となく視線を感じるのはテーブルマナーを知らないから、俺の事を見て真似しているのだろう。この世界では貴族か富豪くらいしかテーブルマナーを知らないような気がする。出来ないのはしょうがないよな。
前菜を食べ終わる頃を見計らって、皿を下げてスープを持ってくる。
この世界でコレが出来るのはなかなかのサービスだ。
大きめの深皿に入ったスープが来たから、シェアするのかと思いきや、一人分だった。
スープといっても中華なら4人前の量がある。ここでもユキに指導しながら他の人にも聞こえるようにマナーを教えて行く。でもこの量を上品に飲んでいたら、どれだけの時間が掛かるんだ?
案の定かなりの時間が掛かって、そろそろ満腹中枢が刺激されそうだ。まさかと思うが次の魚料理もこんな感じで出てくるんじゃないよな?
だが嫌な予感というのはフラグを立てた時点で当たる物である。
大皿に乗った鯉の煮付けのような物が丸々一匹大皿に乗ってくる。これは全員で取り分けて食べるのかもしれないと思ったが、後からウェイター達が一人一皿づつ持ってきた。
「マジかよ・・・」
「すごく美味しそうですね」
アリューシャはにっこり笑って俺に微笑んでくる。だが、この量が多いとか思ってそうな雰囲気ではない。ユキもミレーヌもエスターもルシェリも普通に美味しそうって顔している。
味はまぁ少し泥臭さはあっても食べれないことは無い。だけどナイフで切った時に出て来た細長い物。コレは寄生虫だと日本人の俺が教えてくれる。
煮込んでいるから当然生きているわけじゃないんだけど、どうしても食指が湧かない・・・
食べない頭の方にエイエイと弾いて、何事も無かったように食べて行く。
みんなはとっても美味しそうに食べているな。心の平穏の為、俺は黙っておくことにする。知らない方が幸せってことの例だ。
フゥ。やっと終わったな。俺は合計7匹の寄生虫に嫌気がさしていた。
「あんちゃん。何でコレは食べなかったんだ?好き嫌いは良くないぞ。あの細いやつ、コリコリして美味かったぞ」
ユキに見られていた。それにしても生々しい感想だ。聞きたくなかったよ・・・
ハァ・・・これが金目鯛の煮付けだったら良かったのにな。
食い物に関しては日本の物と比べようがない。
早くソルベを。俺にソルベを持って来てくれ。
でもこの世界にシャーベットなんてないよな。何が出てくるんだ?
そしてまた巨大な物が運ばれてくる。スイカを半分にしたような器に、山盛りのフルーツポンチが乗っている。
「コレ、凄く美味しそうです!!」
「はい。私こんなのが食べたかったんです」
「私もレンさんには感謝しかありません」
女性陣の目が爛々と輝いている。やはり女性が甘味が好きなのは、どの世界でも共通なのかもしれない。
ユキも涎が出そうなくらい目を輝かせているから、ユキが食べている横から、俺の分のフルーツを投入する。もうマナーなんてあったもんじゃない。
「あんちゃんは食べなくていいの?」
「ああ。ユキが幸せそうに食べてるのをみたら、もっと見たいって思ったんだ
「ほうはんはぁー」 (そうなんだー)
ソルベってメイン料理の前の口直しじゃなかったか?この世界があっちの常識で考えちゃいけないんだろうけど、これは多すぎるだろ。
俺が現実逃避をしていると、メインデッシュが運ばれてくる。
まさに巨塊。それは巨塊と呼ぶにふさわしい。巨大な銀の皿に盛られたその肉はまさにキングオブミート。子豚の丸焼きと同じくらいの肉の塊が俺達の前にやってきた。
ウェイターがどうですか凄いでしょ?ってドヤ顔しているのがムカつく。
「スゴイ!!」
「生きてて良かったぁ」
ずっと大人しかったミレーヌまでが、声を出して目を輝かせている。
ミレーヌは俺の仲間だと思っていたのに、裏切られた気分だ。
絵的には最高の一品だ。大きさ、見た目、食べる前から分かる、コレは絶対美味いだろ感。
ナイフで切り分けると、肉の香りとソースの匂いが混ざって香ばしい。先にボイルしてあるからとても柔らかく、満腹亭で食べた筋肉の塊のような肉とは違う。味も甘辛いソースが絶妙で香草が肉の臭みを無くしている。骨付きな分、重さはあるのだろうけど、それでも肉だけで何kgって単位の肉の塊が存在していた・・・
嘘だと言ってくれ。
俺の思いとはうらはらに、みんな美味しそうに噛みしめながらパクパクと食べている。
幸せそうでなによりだ。
ユキの口の周りに付いたソースを拭きながら、こっそりと肉を置いて行く。それを見たユキはニコニコして嬉しそうだ。俺はかいがいしく面倒を見ているフリをして、ユキの肉塊に肉塊を追加していく。この世界の食事がコレならば、ユキがいないと俺は生きていく自信がない。これからもしっかりサポートを頼むよ。
「こんな美味しいお肉初めて食べました」
「生きてて良かった~」
「私も本当にこんな美味しいお肉初めてです。お腹いっぱいです。レンさん本当にありがあとうございます」
「ワタシモ、コンナニオイシイ、おニク、ハジメテです」
「オイラもこんなにいっぱい食べるの生まれて初めてだ。あんちゃんありがとな
皆満足そうなのはよかった。この世界の人の胃袋がどうなってるのか不思議だ。
とてもじゃないけど、この世界の大食い選手権では勝つことだけは出来ないだろう。
だが、まだ終わりでは無いのである。まだデザートとカフェが残っている。せめてゼリーのような軽い物を期待していたが、そんなはずは無かった。
「お待たせ致しました。ベリーのタルトでございます」
ストロベリー、ラズベリー、ブリーベリーなど、ベリー系のフルーツをふんだんに乗せたタルトがホールごと、俺達の前にやってきた。
グハッ。絵面では口の横から血が流れ落ちている感じだ。
「キレイ~」
さっきお腹いっぱいと言っていたアリューシャもユキみたいに嬉しそうな顔している。
この世界でも女性は、甘い物は別腹のようだ。
俺は手を上げてウェイターを呼ぶ。
「悪いけど、俺の分を切り分けて彼女達に分けてもらえるかな?」
「畏まりました」
そういってウェイターは俺の皿を下げて、厨房で切り分けて貰ってきた。
「レンさんありがとうございます。凄く美味しくて、感動です」
「私も幸せです。ご主人様ありがとうございます」
みんなお礼を言ってくるけど、俺は食べれないだけだからね。むしろ食べてくれることに感謝だよ。
俺は頑張った。過去最高に食べていると思う。2kg近くは食べてるはずだ。なのにこの罪悪感はなんだろう。
それにしてもみんな嬉しそうに食べているなぁ。幸せそうに食べているのを見るのは、気持ちがいい。
でもここにいる全員が普通にフードファイター顔負けの量を食べている。今回の食事だけで5kgはあると思うぞ。特にユキは他の人の1.5倍は食べているはずだ。
俺は最後に出て来た紅茶を飲みながらそんなことを考えていた。




