グレンデル辺境伯邸 3
夫人達が部屋から出て1時間くらいが過ぎただろうか。
俺はというと、夫人達の匂いを消そうとユキに頭を抱え込まれて未だに顔を舐められていた。
「ユキ、そろそろ勘弁してくれないか?」
ユキからは返事が無い。無視かよ
コンコン
「失礼します」
商人ギルドのベルクと使用人が、重そうな箱を乗せたカートを二人で運んでくる。
「レンさん、お待たせしました」
ベルクの顔はホクホク顔だ。恐らくいい値段で売れたのだろう。
「白金貨3000枚です」
「し、白金貨3000枚?」
ベルクはテーブルの上に白金貨を並べて行く。
「はい、白金貨3000枚でお買い上げになりました」
おいおい、マジかよ。白金貨3000枚って、日本円にしたら30億円くらいだってことだよな。
アレは専用ケース込みの値段で一つ28万円だったぞ・・・
「思っていたよりも高い値段でした。ベルクさんには感謝しか無いです」
「いいえ。あの国宝級のネックレスが二つですよ?今まで色々な宝石を目にしてきまいたが、あれほど素晴らしい宝石は見たことがありません。寧ろレンさんには申し訳ないくらいですよ」
俺は紅茶を飲んで少し気持ちを落ち着かせる。
「ベルクさん。今ここでギルドの取り分と、ベルクさんの取り分を分けてしまいましょう」
広げたついでだから、ここで分けてしまうのがいいだろう。
俺の取り分2100枚。ギルドの取り分600枚。ベルクの取り分300枚。
3000枚の白金貨は重く、一人で抱えて持つのは重労働というレベルでは済まない。
俺は次元収納にいくらでも入るから大丈夫だが、ベルクが持って帰るのは大変だろうか?
と、思っていたが、さすがは商人ギルド。ちゃんとマジックバッグをギルド用と自分用の物を持って来ていた。
俺は小袋に白金貨を10枚入れるとアリューシャに渡す。
「えっ?駄目ですよ。私何もしてないのに、こんなに貰えませんよ」
「じゃあこれからいい情報やいい話があったら俺に依怙贔屓してもらえるかい?」
アリューシャはベルクの方を見ると頷いて貰っておけと合図する。
「分かりました。いい話は全てレンさんに回します」
全部じゃなくていいんだけど・・・
突然の高額収入にアリューシャもニコニコだ。
ユキには後で渡すとして、これで全員がウィンウィンになった訳だ。
「ジョルジオさん。そろそろお暇します」
執事のジョルジオさんに伝えると、使用人が部屋から出て行く。
「では準備が出来るまで、少々お待ちください」
ジョルジオも部屋から出て行った。ベルクは宝石の事を熱弁しながら良さを語っている。
まぁ実際宝石としたらいい物なのだろう。しかし人工で造られた物だから、俺のいた世界の物としては価値が低いものでしかない。
それを考えると心が痛む。でも誰も不幸になっていないから良しとしないとな。
ロビーがガヤガヤとしてくると、ジョルジオがやってくる。
「お待たせしました。馬車をエントランスに止めてあるのでこちらにどうぞ」
控室を出ると、アルバート伯と夫人二人に使用人達が待ち受けていた。
「レン。妻達も喜んでくれたからな。今日はいい買い物をさせてもらった。また何かあればベルクを通して遊びに来るといい」
「はい。分かりました。いい話はアルバート様をまず通してからにさせてもらいますね」
「おお。そうするがいい」
アルバートが俺の肩をバンバン叩きながら豪快に笑っている。
「ちょっと貴方。わたくしのレンと話をさせて下さいまし」
「ハハハ。レンよ。妻達はお主の事が大層気に入ったようだぞ。貰ってくれても構わないからな」
「アルバート様。そんな冗談はお止め下さい。奥方様に怒られますよ」
「冗談じゃないわよ。私もコリーナもレンが気に入ってるわよ」
第二夫人のナディアが、俺の腕を組んで胸を押し付けてくる。
「そうそう。私の事も可愛がってね」
第一夫人のコリーナも反対の腕を取って体を寄せてきた。下から俺の顔を覗き込き込んで、俺が慌てる反応を楽しんでいる。
「レンのおかげで今度の王都で行われる舞踏会が楽しみで仕方ありませんわ」
「ええ。王妃や取り巻きの腰ぎんちゃく達の悔しがる顔が目に浮かびますわね」
コリーナとナディアの顔に悪い笑みが浮かんでいる。
そういえば都の貴族達に、辺境の田舎者とバカにされているらしい。
間違いなく仲が悪いんだろう・・・
「そういうことだレン。二人が機嫌を悪くなる前にまた来るのだぞ」
冗談に聞こえない所が怖い。
貴族って自由の意思で結婚しないからな、後継ぎさえ出来ればお役目ゴメンなのかもしれない・・・
「こんなキレイな女性二人に迫られては、理性が飛んでしまいそうです。今日はこの辺で帰らないと本気になってしまうので、コレで失礼させてもらいますね」
膝を付き、二人の手に口づけをする。
「アルバート様もあまり私をからかうのはお止め下さいね」
「おお。ここはあまり娯楽が無いからな。つい面白くなってしまった。だが嘘は言ってないからな」
ガハハと笑うアルバート伯に貴族の挨拶をして馬車に向かう。
隣のユキを見ると不機嫌そうだ。俺の手を取って馬車に引っ張って行く。
アリューシャも少し怒ってる?奥方や、アルバート伯に挨拶を交わしているが、表情が能面のようだ。
「モテる男はおなごに振り回されるのが宿命だな」
「はい。全くですね。羨ましい限りです。それではアルバート様、私達はこれで失礼します」
ギルド長のベルクが挨拶を終えて俺達は帰路に向かう。
「レン殿、今日はいかがでしたか?」
「ええ。かなりの資金になったので満足ですよ」
「でも国宝クラスの首飾り二つを一つの値段で売ってしまって本当に良かったのですか?」
「そうですね。でもアルバート様と顔を繋ぐことが出来たので満足してますよ。貴族と顔を繋ぐということは、なかなか出来る事ではないですからね。だからそれ以上の価値があったと俺は思ってます」
「おお、さすがレン殿。目先の利益より後々の利を取りましたか」
「ええ。ここを拠点としますからね。足元を固めるのは必然でしょう」
「レン殿は若いが良く分かってらっしゃいますね。私もお手伝いすることがあれば、また力になります」
「それは有難いですね。今後とも頼みます」
俺はベルクと握手を交わす。
「あんちゃん。そろそろ着くぞ」
ユキの言葉に外を覗くと、見慣れた景色が馬車の小窓を流れていく。
「やっと帰ってきた。疲れたなぁ」
「うん。オイラも何もしてないけど疲れた」
「よし。じゃあ美味いもんでも食いに行くかっ!!」
「おーっ!!」




