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ラグナロク  作者: ピロ
第一章 次元を超えて
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プロローグ 日常1

昨日に続けての投稿です。読んで頂けると嬉しいです。

初心者なので、こうした方がいいと思う事がありましたら、教えて下さい。


キーンコーンカーンコーン

学校の終わりを告げる鐘が校舎に鳴り響く。静まり返っていた校舎が一斉にガヤガヤとする。

「ねぇねぇ、校門に男の人がいるけど誰かの彼氏かなー」

「マジ?ほんとだ。イケメンっぽくない?」

「うんうん、カッコ良さげじゃね?」

シルバーアッシュのマッシュヘアーの髪型の男子。

細見であるが上半身は鍛えられ、筋肉が付いているのが服の上からでも分かる。

校門から出ていく女生徒は皆横目で男を見てはため息をつく。


「小夜、珍しく帰るの早いじゃん」

「ウチ等とお茶していかね?」

「うん、今日は用事あって帰るからゴメン」

小夜と呼ばれた女生徒は左手でゴメンと合図する。

そして校門にいたイケメン男子の元に駆け寄って行く。

「蓮。お待たせ」

他の女生徒達に見せつけるように腕に絡ませ学校を後にする。


「「「マジかよ!!」」」


「小夜の奴見せつけやがって」

「ハァー。すげぇイケメンだったなぁ。何でウチの学校は男子がいないんだよ」

「そりゃ~ウチの学校は女子高だからね。女しかいないし」

「だよねー、中学の受験前まで戻れないかなぁ」


同じ制服を着た女生徒がぞろぞろと歩く中、俺と妹の小夜は注目の的だ。

女子高の通学路で手を繋いで歩けば、羨望の眼差しを向けられることなど分かっていた。

「もうそろそろいいんじゃないか?」

近くに女生徒がいなくなったタイミングで俺は声を掛ける

「何が?」

「手だよ手。これじゃ恋人みたいだろ?」

「別にいいでしょ?それともお兄ちゃんは私のことが嫌いなの?」

「そんなわけないだろ。でもこれは恋人がする手の繋ぎかたじゃないのか?」

「えっ?誰がそんなこと決めたの?そんな法律あるの?」

「ないけど」

「じゃあいいんだよ。それに今日はデートなんだからさ、ちゃんとエスコートしてよね」

俺が妹の小夜に口で勝てたことは今まで一度もない。

おそらくこれからも勝つことはないだろう。

「はいはい。それではお嬢様行きましょうか」

改めて小夜の前に膝をついて手を取る。


「・・・ゴメンね。ホントはこの義足に慣れてなくて痛いんだよね」


しばらく歩いてボソっと小夜が呟くように謝る。

「気にするなよ」


今から十年前、家族で旅行している時のことだ。俺達が乗る車に車線をはみ出したトラックが突っ込んできた。前に乗っていた両親は即死。俺はたまたま運がよく全身打撲で済んだが、小夜は足が潰されて、両足を切断しなければならなかった。


両親と足を失ってからというもの、小夜はふさぎ込んでしまっていた。

生きる気力さえ感じられなかった小夜。幼い俺は慰める言葉すら持ち合わせていなかった。

ただ側にいてあげることしか出来なくて、何も出来ない俺に失望しているんじゃないか?俺だけが自由に出来ることを恨んでいるのではないか?そんな考えが常に頭の中をよぎっていた。

事故にあったのも、足を失ったのも決して俺のせいではない。

でも車に潰されたあの時、隣にいた俺が小夜に何か出来たんじゃないかと、罪の意識を感じてしまっていた。だから医者が小夜の足を戻せるかもしれないと言いに来てくれた時、どれだけ俺達は救われたことだろうか。


元々学校指定の靴下が長く、義足の部分はほぼ隠れている。

それに義足といっても最先端のソレは、目を凝らして見なければ普通の足にしか見えない。

「学校はどうだ?楽しいか?」

小夜は最先端の義足を提供してもらう代わりに、色々な実験に協力をしている。

母方の祖父母の家から出て女子高に通うのも研究所に近い理由からだ。

「うん、自分の足で歩くことが出来るようになって凄く楽しい」

「そうか、良かった」

月に一度は様子を見に来るようにしているが、小夜は明日手術を受ける。

今度は義足ではなく、本物の足を取り戻すことが出来るのだ。

電話で話す様子で変わった感じはなかったが、心配な俺は学校を休んで会いにきた。

「ほらっ、お兄ちゃん早く行こうよ。お店しまっちゃうからね」

「おいおい、そんなに引っ張るなよ」


俺は渋谷から原宿方面に連れられていく。青山通りから少し入れば、車の通りも少なく静かなもんだな。すれ違う人はオシャレな人が多く、洗練されている。

小夜と会話しながら歩いているが、俺にはこの辺の土地勘は全く無い。だから小夜に引っ張られるがままについていく。

原宿の表参道の辺りまでくると、車が一台通れるかどうかの路地にやってきた。

周りの店もシックでオシャレな建物ばかりだ。

「ねぇねぇ、このお店だよ」

俺の左手にこれでもかと絡み付けた小夜が指を差す店は、セレブの女性が入りそうなブティックだった。有名な建築家がデザインしていそうな五階建てのビルで、お店のディスプレイはシンプルで素材が良く、靴やジュエリーまで扱っている。トータルコーディネイトまでしてくれるのだろう。

「いい感じの店だな。」

「でしょ。足が元に戻ったらオシャレして、お兄ちゃんにワンダーランドに連れてってもらうんだからね」

「分かってるって。ちゃんと約束は守るよ」


足が元に戻ると思うと余程嬉しいのか、無邪気な笑顔を浮かべる。

まだ小夜が両親と足を失う前はいつもこんな感じだったな。

ワンダーランドは大人も子供も楽しめる夢の楽園だ。事故が起きる前、車の中で家族で行こうと約束をしていたんだ。

やっと小夜の止まった時が動き出すのかもしれない。

小夜の幸せそうな顔を見るとホッとする。


「ほらっ早く、早く」

足が元に戻ると希望が持てた時、小夜は明るくなった。何も出来ない俺はただただ感謝しかなかったな。


自動ドアが開くとレッドカーペットが俺達を迎える。お店の中は明るくて、正面には舞台があった。ファッションショーが出来るような造りだ。実際ちょっとしたショーをやっているようにも見える。

洗練されたデザインが大人の社交場になっていた。

高校生の俺達がこんな店に入るのはどうかと思うが、ウチは代々資産家の家系だ。

祖父は現役でグループ会社の社長をしている。

良いものを知らなければ悪いものも分からないというのが祖父の教えで、お金を使わないで溜め込む事に叱りを受けてしまう。

これは俺が生まれた環境であり、こういう場に気後れしなくてもいい事には感謝しなければいけない。

「いらっしゃ~い」

お店の雰囲気にそぐわない野太い声が店内に響く。すると奥の方から新宿のお笑い系のお店にいそうなオネエの店員がやってきた。

「あなた素敵っ!!お名前なんていうの?」


「・・・橘蓮(たちばなれん)です」

「きゃぁ~カッコイイ!!超イケメンっ!!凄くタイプぅ~」

どうしてこうなった?なぜ俺はオネエの店員に迫られている?

初めて見るオネエ系の店員に。俺はどうしていいか分からなかった・・・


「はいはいはい。お客は私ですから優ちゃんは私の相手をして下さい」

小夜が優ちゃんと呼ばれた店員と、俺の間に割り込んでくる。

「あら小夜ちゃんじゃない。今日は放課後デート?いいな、いいなぁ~」

優ちゃんと呼ばれたオネエの店員は近藤優太が本名で、オーナー兼デザイナーとのこと。

どうでもいい情報だが、工事は済んでいると教えてくれた・・・

店長は小夜が義足のことなど全く気にしていないようだ。普通に接してくれるところが小夜は気にいっているのだろう。


小夜の要望を聞くと店長の目つきが変わり、小夜に似合う服をこれでもかと持ってくる。

俺の反応を見ながら服をチョイスしているのは彼氏と思っているのかもしれない。

すでに二時間はファッションショーが続いている。

「どれも似合うけど素材がいいから迷っちゃうわ~」

双子の俺がいうのもなんだが、小夜は誰もが振り返りそうなくらい美少女だ。

サラサラのストレートロングの髪、少し垂れ気味のパッチリとした瞳にスッと通った鼻筋、唇は薄っすらと桜色をしている。体は細見だが出ているところは出て、ちゃんとくびれもある。その辺にいるモデルよりずっと絵になるから、店長も気合いが入るのだろう。

いつまでも終わりが見えなかったが、彼は真剣に小夜の服を選んでいた。

ようやく二種類のコーディネイトに落ち着いた時、店長は俺がずっと座りっぱなしな事に気がついた。

「ゴメ~ン、蓮くんのことずっとほったらかしだったわぁ~」

俺が退屈だろうと慌ててスタッフルームに戻ってコーヒーを入れてきてくれた。

「今度私とデートしましょ」

耳元でささやいて、携帯の番号の書かれた名刺をこっそり渡してきた。

「優ちゃんっ!!」

小夜が着替えている時にバレないように言ったつもりだろうが、内緒話が普通の人の声並みにデカい。

気付けば店長の後ろに小夜が仁王立ちして終止符を打つ。

「私の彼氏に手を出さないでくれるかな」

「なによぅ。ちょっとくらい浮気したっていいじゃない」

「ダメですぅ~」

べぇーっと舌を出しながら俺の前に立ちふさがる。

色々突っ込みたいことを言っていたが、これ以上口を出すと面倒臭いことになりそうで俺は何も言い返さなかった。

「じゃあコレと、コレ下さい」

余程気に入ったのか最終的に残っていた二着の洋服を買ってホクホク顔だ。


「ところで彼氏ってなんだ?」

店を出て俺はさっきのセリフに突っ込んでみる。

「なんだよー。こんな可愛い妹が彼氏って言うんだからさ、お兄ちゃんは幸せ者でしょ?文句あるの?」

そういってまた左腕に手を絡ませてくる。まぁ悪い気はしないが目の前に彼女がいたらどうする気だ?

「別に文句なんてないけど、俺なんかが彼氏よりもっといい男がいるだろ?」

「あはははは。お兄ちゃんよりいい男なんてそうそういないって」

「褒められたって思っておけばいいのか?」

「うん。私に彼氏が出来るまでは、お兄ちゃんが彼氏なんだからね」

「はいはい。分かった分かった。それよりも疲れただろ?カフェに寄って夕飯も済ませて帰ろうか」


「やった~」


こんな平穏が毎日続くのだと、この時の俺はまだ思っていた。


二回目の投稿です。

明日も同じくらいの時間に投稿予定です。宜しければ読んで下さい。

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