小夜の正体
時は数日前
「ねぇアイラちゃん。どんどん押されているよ。大丈夫?」
私達はこの世界から攻撃を受けていた。こちらの神が小夜を敵と見なし、粛清しようと攻撃対象にしている。
私の名前はアイラ。人類を守る為に造られたアンドロイド。当時の最高技術で私は創られた。
液体金属を骨格とし、小型の核融合炉を動力としている。
基本の目的はプログラムされているが、AIである私にある程度の行動は任されていた。
私に与えられた現在のプログラムは、元の世界の人間をこちらの世界に移すことだ。
ここで造られたクローン体に現世の魂を移し、肉体を定着させることで輪廻の輪から解放させる。
それが私の目的だ。
「問題ありません」
“ カウンターリフレクト展開。オートモードよりアクティブに変更 “
アイラと呼ばれた女性のボディスーツから反射板のようなものが4枚浮かび上がる。
魔人と呼ばれた5体の魔物の1体が熱線を放つ。それをアイラと呼ばれた女性が反射板をコントロールして受け流す。反射された熱線は他の敵に跳ね返す。
「凄い凄い。何それ。私のスーツにもそんな機能あるの?」
「いえ、あなたのスーツには搭載されていません」
「えーっ。私も欲しい。ブーブー」
小夜は珍しさのあまり攻撃を受けていることを忘れてしまう。
「お断りします。あなたに殺される可能性のある物を与えることは出来ません」
「・・・・・・・・・・」
今まで小夜を全力で守ってきたアイラから、耳を疑うような言葉が発せられた。
「へぇ~。アイラちゃん、もしかして私の事知ってるの?」
子供っぽい小夜の顔が急に大人びた表情に変わり、色気に満ちた笑みを浮かべる。
「あなたは■■■■、■■■ですね」
「何だ何だ、私のことバレちゃってるって訳ね」
すると小夜の体の周りに青い炎が何個も浮かび上がる。
「それを知っていながら利用しようとしたの?私も随分と舐められたもんだね」
小夜の怒りに反応して周りに揺らめいていた青い炎が、もの凄い勢いで火柱を立てる。
あまりの高温の為、敷き詰められた石が赤く変色し、火を上げ出す。
そして地面が融解しだすと、魔人達の顔に恐怖が浮ぶ。
「フフフ、私を襲っておいて今更恐怖するだなんてさ、君達は本当におバカさんだよね」
小夜に見つめられた魔人は危険を感じ飛んで逃げようとする。
「逃げようだなんて行儀が悪すぎでしょ」
飛び出す瞬間、魔人の地面から目も開けられないほどのまばゆい火柱が上がる。
「ぎゃぁああああああああああああ」
魔人は地面にのたうち回り断末魔を上げる。
「あははははははは。魂まで燃えちゃった。苦しいでしょ?この炎は現世も幽世の魂も燃えちゃうんだよ」
残り四人の魔人に視線を向ける。
「あなたは逃げなくていいのかな?」
さっきから女として見下したような視線を送っていたサキュバスに目を向ける。
「こう見えてね、この体は遺伝子操作されてて、吸血鬼の真祖なんだよ」
小夜のブルーの瞳が深紅の瞳に変わる。見つめられたサキュバスは魅了ではなく、恐怖に支配された。
薄っすらと口が開き、笑みを浮かべる。
小夜がゆっくりと近づいてきても動くことが出来ない。
「ゆ、許して下さい・・・」
恐怖に震え、膝を付きサキュバスは許しを請う。色気に溢れ、フェロモンを常に発している妖艶な存在とは思えないほど怯えていた。
「でも君はお兄ちゃんに色目を使いそうだからな~」
サキュバスの耳元で囁くようにつぶやく。
小夜の首筋が目の前にあり、透き通った柔肌がそこにある。
サキュバスはこのチャンスを逃さなかった。
“ 勝った ”
噛みついた瞬間サキュバスは勝ちを悟った。体の中に極上の血が流れ込み、力が溢れてくる。
“ フフフフフ。所詮は子供ね。これで私は更なる進化を遂げる ”
サキュバスは力が流れ込むと同時に背中に羽が生え、体の筋肉が膨らんでくる。
“ アハァ・・・き、気持ちイイ・・・ ”
口端から涎が滴り、強烈な快楽が体中を走り抜ける。今まで飲んだ、どんな血より極上なものだった。
足先から筋肉が締まる。体がビクンと跳ね上がり、快楽が絶頂を迎える。
「・・・ァ、アッァッ・・・」
首筋に嚙みついた力が緩み、太腿の内側にひと筋の雫が流れ伝う。
快楽に身を委ねて血を吸い続け、サキュバスの目はどこか遠くを見つめていた。
「・・・・・残念だったね」
その言葉にサキュバスは我に返ると、自分の体が燃えていることに気がついた。
咄嗟に逃げようとしたが、もの凄い力で抱きしめられる。
「私に噛みついてメスの匂いプンプンさせちゃってさ、マジでキモイよ」
「あ、熱い。熱ぃいいいいいい。た、たすけてぇええええええ」
どれだけ抜け出そうと足掻いてみるが締め付けられて動けない。
快楽が激痛に変わり、全身の皮膚がただれて行く。
「い、痛い、痛いぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
竜巻が炎を巻き込んだように渦を巻いて、小夜の体ごと天に火柱を上げる。
サキュバスは必死に抵抗するが、魔人の力を持ってしても振りほどくことは出来なかった。
美しかった顔は見るも無残なものとなり、そのうちに声を無くす。
やがて息も絶え、彼女が真っ黒な炭に成り果てた頃、小夜はその手を離した。
「本当はさ、お兄ちゃんに倒して貰いたかったんだよね」
青い炎に包まれ、あまりの暑さに魔人達は後ずさる。
「愛しの王子様に助けられてさ、思いっきり抱きしめられて熱いキスされたかったよ」
「小夜、あなたと蓮は兄妹ですよ。熱いキスは変じゃないですか?それと言っておきますが結婚も出来ません」
アイラが無表情に発するその言葉に小夜の表情が鋭くなる。
「あはははは。そんな紙切れ一枚の繋がりなんて、どうでもいいんだよ。やっと逢えたんだ。何年探したと思ってる?千年だよ、千年。血の繋がった兄妹であろうと、男と女でしかない。私はお兄ちゃんの子供を生んであげられる」
小夜の瞳に狂気が宿り、青い炎が輪郭を帯びて天に昇って行く。
「誰にも渡さない。やっと見つけたんだ。邪魔する奴は誰だろうと許さない」
怒りの琴線に触れ、小夜の口調が変わる。
魔人達は逃げようとしたが炎に巻き込まれ断末魔を上げて行く。
「で、アンタはどうするつもり?」
小夜はアイラに向き直る。
コイツは私の正体を知っていた。どうやって私のことを知った?目的は何だ?
小夜は前世の記憶を思い出していた。だが思い出したのはつい最近のことで、それも断片的にだ。
「ここの世界には地球の法律は存在しません。小夜、あなたが望むなら蓮の子供作ることは問題ないと思われます」
アイラは小夜が言った事への返事を返す。
「プッ。」
明後日の方向を向いた返答に毒気を抜かれてしまった。
「アハハハハハハハハ。いいねアイラちゃん。超ウケる。最高っ」
小夜はアイラの正面に立つ。
「ねぇアイラちゃん。私の力と、私の正体はお兄ちゃんに内緒だよ?」
「分かりました。その変わりに我々のプロジェクトには協力して下さい。そうすれば小夜の望みが叶うように協力します」
「ホント?アイラちゃん大好きっ!!」
アイラに抱き着くと、アイラも抱きしめ返してくる。
「コレ、アイラちゃんにあげる」
小夜は身に着けていたネックレスを外すと、アイラの首に付ける。
「コレは?」
「今アイラちゃんにあげられる物なんて、お店で買ったコレくらいしかないけどさ、お友達の証だよ」
AIが造ったアンドロイドか。信用出来るかわからないけど、お兄ちゃんと結ばれるのに協力してもらうよ。
「早速お願いがあるんだけど・・・」




