冒険者ギルド 2
足が痛いので病院に行ってレントゲンを撮ってもらったところ、足底筋膜炎でした。
痛いのです・・・
「あ、あんちゃん。大丈夫なの?」
大丈夫とばかりに俺は手を上げる。
「ギルドのねえちゃん。あんちゃんを助けてよ」
「そ、そうだった。ギルドマスターを呼んでくるから、ユキちゃんはここで大人しくしててね」
ギルドの外に出るとリーダー格の男が俺の前に立っている。
「何だよ。一人でいいのか?」
「テメェが誰だか知らねぇがな、こっちは舐められたら終わりなんだよ。後悔するんじゃねぇぞ」
そういって男は殴りかかってくる。
思った通りだ。こいつ等は魔物と戦っているが、対人戦はまるで素人だ。
俺は色々な武術を習っている。空手、柔道、合気道、ボクシングなど一般的に知られているものから海外の武術まで様々だ。
勢いよく突っ込んできた男の手を捻り体制を崩して転がす。
「痛い目を見る前にやめた方がいいんじゃないのか?」
男は何故自分が転がったのか分からずにいる。だが反射的に体を起こして戦闘態勢に入った。さすがに命のやり取りをしているだけはあるな。
だがすっかり頭に血が登って冷静な判断が出来ていない。
すかさず俺は三日月蹴りを入れ、更に痛みにかがんだ男の頭を押さえて、膝蹴りを顎に食らわせた。脳震盪を起こした男はそのまま倒れ込む。
「ガルド!!」
ガルドと呼ばれた男が倒されると、他の4人が武器を構えて俺を囲む。
さすがに武器を持たれたら手加減出来ないな。
一番細見で戦闘向きじゃなさそうな男を標的にした。
俺は一気に近づいて武器を持った手を捻り上げると、相手の手から武器が落ちた。関節が決まっているから、当然ながら体の自由が効かない。その状態で男を盾替わりにして、他の連中に突っ込んで行く。ギリギリのところで突き飛ばして、一人の男の懐に入って顎を打ち貫く。
すると膝から崩れ落ちて倒れ込む。
「野郎っ!!」
怒り任せて突っ込んできた男に向けて、地面の砂を手にして顔に向けて投げつけた。
運よく思いっきり目に入って視界を奪うことに成功した。ついでに息を吸い込んだ時だったようで、咽かえっている。
その隙を逃す手はない。視界を奪っている内にもう一人と対峙する。
今度は女性だ。あまり本気で攻撃したくはないが、武器を構えている以上、手加減なんて出来るはずもない。思った以上に身軽でナイフを振り回してくる。
だがあまりにも大振りだった。手を掴んで背負い投げをする。受け身が取れない状態で俺の体重を乗せて背中から落とす。脳震盪を起こして気絶してくれた。
「これで二人」
ショートソードを持つ男は段々視界を取り戻そうとしている。
こいつがやっかいだ。視界が戻っていない今しかない。女が落としたナイフを投げつける。
当然ながらショートソードで弾いた。チャンスだ。一気に相手との距離を縮め、相手のテンプルを打ち貫く。
残りはさっき盾にした一人。
「動くんじゃねぇ」
「あんちゃん」
俺の事が心配でギルドから出て来たユキを捕まえてナイフを突きつけている。
「こいつを殺されたくなかったら大人しくしろや」
「おいっ。ユキから手を放せ。ユキは関係ねぇだろ」
「へっへっへっ。強がるんじゃねぇよ。コイツを殺されたくなきゃ大人しくしろ」
くそっ。卑怯な・・・
「それにしてもお前、女だったんだな」
男の目がいやらしい目付きに変わる。
「まだ幼いがよく見りゃ、いい女になりそうじゃねぇか。今日から俺が可愛がってやるよ」
捕まえていた男の手がユキの胸を揉みしだく。
「嫌だ」
拒絶したユキがかがむと男の視線が俺から反れた。
小柄なユキは男の手からすり抜けて走り出す。
「コイツ・・・」
ユキを捕まえようとした時、俺は次元収納からダガーを取り出して男に投げつける。
そして太ももに刺さると、男は前のめりに転がった。
「おいっ」
俺は背中を踏みつけ動けないようにし、髪の毛を鷲掴みにして顔を上げる。そして取り出したダガーを首筋に充てた。
「まだやるか?」
「す、すまねぇ俺が悪かった。もうアンタにもそいつにも、二度と手を出したりしねぇ。だからな。許してくれ・・・」
「お前等なんか信用できないだろ。どうせまた俺達に絡んでくるんだろ?やっぱここで殺しておくべきか・・・」
「や、やめてくれぇ。悪かった!!俺達が悪かったから。」
本当に殺すかどうか考えていると、ギルドの方から慌ただしい音が聞こえてくる。
「そこまでだ!!」
扉が明けられると、一人の男と受付嬢が飛び出してきた。
「レンさん、気持ちは分かりますが、ここで納めてもらえませんか?」
「・・・・・・・・分かった」
男の方も攻撃してくる様子はない。俺は踏みつけている足を離し、受付嬢が連れて来た男の方に向く。
「私はギルドマスターをしているルークだ。君が彼らを一人で倒したのか?」
「一応。武器を抜いたからあまり手加減は出来なかったけど、殺しちゃいない」
「そのようだな」
ギルドマスターのルークは倒れている連中を見て、俺の言ったことを信じたようだ。
「あんちゃんは悪くないんだ。あんちゃんはオイラを助けようとしてくれたんだ」
「私もレンさんは悪くないと証言させてもらいます」
ユキは俺にしがみついて必死に弁解してくれている。
「まぁこいつ等の日頃の素行を見ていれば、大体のことは分かる。初めて見る顔だが、身なりからして君は貴族じゃないのか?」
「俺は貴族じゃない。まぁ元貴族とでも思っていてもらえばいいんじゃないかな?それと今日ギルドに登録した新人冒険者だよ」
「レンさんは、今日依頼を掛けたお客さんでもあります。おそらくギルドに登録しないと依頼が出来ないと思って登録されたんじゃないかと・・・」
受付嬢がギルドマスターに小声で耳打ちする。依頼書を見てギルドマスターのルークは驚いた顔をしていた。
やはり大口の依頼になるのだろう。
「これはウチの者が大変申し訳ない事をした。レン殿、中へどうぞ」
ギルド員が依頼者を襲うなんてことは、決して許される事ではない。小声で受付嬢に後で俺の所に連れてこいと言ってたから、恐らく何かしらのペナルティを受けるのだろうな。
俺とユキは客間に通される。質素ではあるが、豪華な造りをしていた。
「あんちゃん。オイラこの部屋に来るのは初めてだ」
暁の牙の連中をこの部屋に入れることなんて無いだろうから、当然ユキも入るハズもない。
「レン殿。受付の冒険者ギルドに登録したとのことですが、登録をしなくても依頼は出せますよ」
「ああ。それは俺が魔物の素材の買い取りをしてもらいたいから登録をしたんですよ」
「それなら登録していた方が便利ですが、Dランク以上になると、強制の依頼が掛かることもあります。そこは大丈夫ですか?」
「じゃあランクを上げなければいいってことですか?」
「まぁそういう事になります」
「魔物の素材だけを納品していたら、ランクは上がりますか?」
「いえ。ギルドの依頼書を3回受けなければFランクから上がることはありませんよ」
「降格やギルド員を退会されることはあるんですか?」
「勿論あります。でもFランクからの降格はありませんし、理由も無く3ケ月以上ギルドに貢献しない場合は退会の可能性がありますが、金を稼いで豪遊して、金が無くなれば仕事をするような連中ですからね。そこまで厳しくは無いですよ」
「それなら問題ないですね」
「それよりも今あったような。依頼者を襲うようなトラブルを起こす輩の方が問題です」
俺は彼らの処分を聞かれたが、ギルドの判断に任せることにした。
「ところでレンさん。ミレニア教団に関しては、我々も出来るだけ敵対したくない組織になります。なので明確にミレニア教ということは書かないで、掲示板に出す事になります。でも冒険者達はその辺の事情は汲み取るから安心して下さい」
「ええ。分かりました。まだ捕まったと限らないから、無駄足になるかもしれないです」
「その辺は依頼内容を聞いて来た者には伝えておきます。もしその辺で歩いていたとしてもいいんですよね?」
「ええ。報酬もちゃんと支払ってあげて下さい」
この後細かい打合せを行い、俺とユキはギルドを後にした。暁の牙の連中は既にいなかったが、この後ギルドマスターからそれなりのペナルティーを受けるだろう。
「ねぇねぇあんちゃん」
「何だ?」
「あんちゃんって、めちゃくちゃ強かったんだな」
ユキが目をキラキラさせながら俺を見上げてくる。
「驚いただろ?」
「うん。あんちゃん、カッコイイ」
ユキがこれでもかと抱き着いてくる。動けないからダッコすると、今度は俺の頭を抱え込むように抱き締めて、これでもかと頬ずりをしてきた。
「おいおい、前が見えないだろ」
「あんちゃん、好き~」
後から知る事だが獣人の愛情表現はこんな感じらしい。かなり興奮していて鼻息が荒く、ゴロゴロと音がする。まるで猫じゃねぇかよ。ユキが落ち着くには更に30分ほどの時間が掛かった。
「ユキ~。顔がベタベタじゃねぇか・・・」
ユキが顔を舐めまくってくれた。お陰様で顔が涎だらけだ。
それでも俺が怒っていないからか、やっぱり頬ずりしてくる。
まだ行きたい所があったが、一度宿に戻って風呂に入ろうと決心した。
レンは武道をいくつも掛け持ちしてやっているので、地元で負け知らず。
そのうちエピソードも載せたいと思ってます




