獣人の仲間
2週間風呂に入らないと、それ以上臭くならないとTVで誰かが言ってた記憶があります。
どの位臭いか想像がつきませんが、怖い物見たさで嗅いでみたい気もします。
(一度だけですよ・・・)
少年が食べ終わるのを待ってから、女将さんに共同風呂の場所を教えてもらって、俺達は風呂に向かった。
「アトレーさんの紹介で風呂を使わせてもらえるって言われてきました」
共同風呂は宿屋の裏にあった。
数件の宿屋が隣接していて、厨房を共同で使用しているようだ。
常に火を消さないようにしているので、お風呂も使えるようになっている。
「そこの扉の中に風呂があるよ」
火を管理する爺さんが指をさす。
「ありがとう。使わせてもらうよ」
そういって大銅貨1枚を爺さんに渡す。
「金はいらんよ」
爺さんがお金を返そうとする。
「暑いから、これで一杯飲んでよ」
「そうか。それならありがたく飲まさせてもらうよ」
脱衣所に入り、タブレットで石鹸とシャンプーとコンディショナー、風呂桶とボディタオルを手に入れてから服を脱ぐ。
中に入ると思った以上に大きい風呂だった。
「なかなかいい風呂だな」
獣人の少年はどうしていいのか分からないようで立ち尽くしている。
「体を洗うから、服を脱いでこっちにくるんだよ」
「わかった」
この世界に風呂に入るという習慣は無い。
せいぜい井戸の横に衝立を立てて、行水をして体を洗うくらいだ。
培養液のべた付きが気になっていたので、体を洗えるのが嬉しい。
だが、この体が培養液の中にずっと浸かっていたのを忘れていた。馴染んできてはいるが、擦ると痛い。
「あんちゃん、オイラどうすればいいんだ?」
後ろに立っている少年を見ると俺は驚いた。
少年だと思っていたのだが、胸が少し膨らんでいて、付いていなければならない物が存在していない・・・
「お、お前女の子だったのか・・・」
「うん。女だと仕事貰えなくなるのか?」
食事はほとんど食べていないせいか、アバラが浮いていて見ているだけで痛々しい。
「そんな訳ないだろ。洗ってやるからコッチにこいよ」
俺の前に座らせてボサボサの頭にお湯を掛ける。
頭から掛けられるのに抵抗があるのか嫌がっているが、我慢してもらうしかない。
うわっ、猫耳にノミが付いてる・・・
そうだろうと思ってはいたが、案の定シャンプーも泡立たず、何度も洗ってようやくコンディショナーをする事が出来た。
バサバサだった髪もサラサラになったし、いい感じだ。
獣人は頭の頂上に耳があるから、人の耳の部分の所はどうなっているのか不思議だった。
まさかそこにも耳があるのか?と思ったけど何も無かった。
変な感じだな・・・
小夜が東京にある研究所に行ってから、一緒に風呂に入ることは無くなったが、それまではずっと小夜の体を洗っていた。
成長期を迎え、体もどんどん女性らしくなっていく。本来なら別々に入るのだが、小夜の足の事を考えると一人で入らせることは出来なかったんだよな。
それに毎日ずっと入っていたからか、特に意識することも無かった。
懐かしさを感じながら、目の前の獣人の少女を洗って行く。
ボディタオルを泡立てて洗うが、すぐに泡が立たなくなる。
うわっ。相当汚れてるな・・・
何度もお湯を掛けて根気よく洗って行く。体を洗うだけでもやり切った感があるな。
「あんちゃん。凄く気持ちいい」
誤解の受けそうなセリフだ。
やはり風呂は最高の娯楽と言ってもいい。
丁度いい温度だ。俺には風呂のない生活なんて考えられない。
これから毎日どうやって風呂に入るかは重要課題だ。
「オイラ体中痒かったのに、痒いのが無くなったぞ」
「だろうな。それだけ汚れてたんだよ」
俺に懐いてきたからか、俺の膝の上に乗っかって向かい合って喋ってる。
こうやって見ると女の子だ。
「名前を考えなくちゃな」
「オイラに名前?」
「あぁ。名前が無いと不便だからな」
あまり変な名前を付けるのは良くないな。
「・・・・・・ゆき」
洗う前の髪は汚れていて、灰色になっていたが、洗った後は真っ白で雪を思わせる。
「ユキってのはどうだ?」
「ユキ?」
「ああ。髪の色が雪のように真っ白いから雪を連想したんだ。」
「ユキ・・・いいな。オイラの名前はユキか。エヘヘ。嬉しいな」
名前を手にしたユキは嬉しくて俺に抱き着く。
機嫌がいいからか、頭部にある耳がピコピコと動いていた。
尻尾もそうだが、実際目にすると灌漑深いものがあるな。
「ユキは今どこに住んでいるんだ?」
「オイラはここに住んでるって家はないんだ。毎日寝る場所を変えながら、適当な所で寝てるんだよ」
「じゃあ親はいないのか・・・」
「オイラとうちゃんも、かあちゃんも知らないんだ。気付いたらオイラのような子供達が集まってる場所で生活していてさ、大きくなってくと皆出て行くんだ」
「施設みたいな所があるのか」
「うん。でも貰える食事はちょっとしか無くてさ、大きくなってくるとそれだけじゃ足りないんだよ。だからみんな出て行くんだ」
ユキは捨てられていたのかもしれない。
ゲームの世界は都合のいい所しか見ないから憧れるけど、コレがリアルなんだろうな・・・
「服を買わなくちゃな」
「オイラお金なんか持ってないから、服なんか要らないよ」
「子供が気にするな。俺の手伝いをするなら絶対に必要だ。飯も泊まる所も俺がお金を出すからな」
「ホントか?」
ユキは濡れたまま服を着ようとするから、俺が拭くことにする。
元々着ていた服は汚れているから、そのまま着せたくはない。
子供用の服を入手してそのまま着替えさせたいけど、まさか俺の秘密を見せる訳にもいかないよな。とりあえず俺の下着用のTシャツとボクサーパンツを履かせる。
「あんちゃん、コレすっげー軽くて気持ちいいな」
「そうか。ユキ用に買ってやるからちょっとだけ待ってろよ」
「うん」
ユキは素直で可愛いやつだ。それなのにあの冒険者の奴等は・・・
「お風呂気持ち良かったよ。爺さん、ありがとう」
「おお、そうか。また来るといい」
その足で女将に教えてもらった子供の服を扱っている店を探す。
子供の服というのは基本売っていない。
何故なら、大人が着れなくなった服を子供用に作り直すのが普通だからだ。
それだけこの世界は貧しい。
看板が出ていないので何件か聞いて回っていると、ようやくそれらしきお店に到着する。
「いらっしゃい」
細見の女性が出てくる。
「満腹亭の女将に紹介されてきた。この子の服が欲しいんだ」
「獣人の子供にかい?」
「そうだ。何か問題でも?」
少し嫌悪感のある目で見られて俺はイラっとする。
「支払いの方は大丈夫なんだろうね?」
「俺が払うから大丈夫だ」
そういって銀貨や大銅貨が入った袋を見せる。
「どういった服がいいんだい?」
この男は獣人に服を与えるという。この世界で獣人は異端の存在だ。
そのせいで差別が酷く、職に就けないどころか奴隷のような扱いをされるのがほとんどだ。
「動き易くて、質のいい物を仕立ててもらいたい」
それなのにこの男は獣人に服を与えるという。
着ている服を見る限り、生地、縫製、仕立ても見事なものだ。かなりの金持ちに違いない。
それじゃあ儲けさせてもらおうかね。
手を叩いて、娘達を呼び寄せる。普段の客なら呼ぶことはないが、おそらくこの男は貴族だ。手も荒れていないし、肌も物凄く綺麗だ。女の私から見ても嫉妬しそうなくらいキレイだね。顔も整った顔をして娘達は目が合う度に、頬を赤らめている。まぁそれだけいい男だね。
獣人の娘のサイズをテキパキと採寸していく。
「とりあえず、今着る服も欲しいんだ。あれは売り物かい?」
貴族の子供用に仕立てた服だ。
「ああ。これでよきゃ少し待ってくれればサイズを合わせるけど、どうする?」
「それで頼むよ」
「毎度あり」
採寸が終わって、置いてある服を着せてみる。まぁ明らかに大きさが違うが、少しサイズを直せば着る事が出来そうだ。
「アニキ~。オイラがこんな服を着ていいのかな?」
「気にするな」
これはなかなかだろ。
白のブラウスの上に水色のワンピースを着ている。
尻尾を出せるように、ワンピースも下着のズロースもその場で仕上げてくれた。
ついでに下着や靴も用意してもらう。
俺がさっき行った店とは大違いだ。
俺もユキをマジマジと見るが素材がいいからか、口さえ開かなければお嬢様にしか見えない。
「ユキ似合ってるぞ」
「そうかな?エヘヘ」
後は動きやすいパンツルックなど何点か仕立ててもらうようにして、後日受け取りに来る事にした。
「支払いはどうすればいい?」
「今着てる服の代金と、これから造る服の布代は出してもらうよ」
「そうか。いくらになる?」
女将は頭の中で計算をしている。
「銀貨4枚だね。あとは受け取りの時に銀貨5枚持ってきな」
とりあえず俺は銀貨5枚を渡す。
「おいおい、一枚多いよ」
「いいんだ。その分ちゃんと仕立ててくれ」
「おっ。兄ちゃんは分かってるね。任せときな。2日後には出来てるからね」
少年と思っていた獣人が、実は女の子でした。
野性味のある女の子を可愛く掛けるように頑張ってみようと思います。




