プロローグ
初めての投稿です。初めて小説を書くのですが、誤字、脱字などありましたら教えて頂けると有難いです。
どうぞ宜しくお願いします
「元気な男の子と女の子ですよ」
この世に生を受ける事の出来ない赤子に魂を宿し、何度も転生を繰り返す。
そして世の権力者を裏から操り、利用してきた。
だが、この世を支配したいとか、権力を握りたいとか、そんな野望があった訳ではない。
私には、どうしても逢いたい人がいた。
それは人化も出来ぬただの妖狐だった頃の話。
妖狐になったばかりの時、何も知らない私はうかつにも土蜘蛛の縄張りに入り込んでしまった。
当然のことながら土蜘蛛に襲われ、私は死の淵にいた。
その時窮地を救ってくれたのが一人の侍だ。
私を助けてくれた訳ではない。
土蜘蛛を退治した時に瀕死の私を助けてくれたのだ。
彼は私の怪我が治るまで面倒を見てくれた。
珍しい白い妖狐。ただ物珍しかったのかもしれない。
私は彼の優しさに触れ、この男を好いてしまった。
彼の名は源頼光。私の初めての恋だった。
しかし所詮は人と妖狐。
結ばれたくても叶わぬ恋・・・
土蜘蛛から受けた傷が治ると彼は人の世に戻ってしまう。
彼への恋心を諦めきれない私は人化の術を覚え、彼を探す為に山を下りた。
しかし、その頃の私は人間の命が短い事すら知らなかった。
あてもなく探し続け、ただ時間だけが過ぎていく。
やっとの思いで見つけたのは彼の墓標だった。
人は輪廻の輪に縛られている。
だから新たな生を受けたであろう彼を探す為、私は世を操ることにした。
一人で探すことの難しさに気付いたからだ。
世の権力者を操り、それらしき人物を片っ端から探し続けた。
しかし創造神でもないただの妖怪に、魂の系譜を見る事など出来る筈もない。
そして、何百年というもの間、無意味に彼を探し続けることになる。
気付けば私は九尾の狐と呼ばれ、この国を代表するほどの大妖怪になっていた。
気が遠くなるほどの年月が経ち、もう何をしたいのかも分からない。
彼の顔も、声も、匂いも何もかも思い出す事が出来なくなってしまった。
「ご苦労様、君が無事で良かった。それと俺の子を産んでくれてありがとう」
疲れ切ってしまった私は、現世に対して生きる価値すら見出せなくなっていた。
進化の過程で更に神格を得たが、心を支配するのは虚しさばかり。
妖怪として生きてきた私が、神格を得て神になれるのだぞ?
何度もそう言い聞かせてはいたが、心はもう死んでいた。
愛する人と添い遂げることが出来ないのなら、こちらの輪廻にいる意味はなかった。
思えば千年にもなる・・・
希望だけで生きるには長すぎる時間だ。
神格を得た時に知ったことがある。
それはこの世には表と裏の世界があることだ。
そしてもうすぐ表の世界は浄化されて、表の世界と裏の世界が入れ替わる。
表の世界と入れ替わる前には、浄化と呼ばれる破壊が行われるのだ。
何度も繰り返されているこの歴史は神のみぞ知る。
私は神格を得たが現世には未練は無い。
神が行う浄化にも興味は無いし、自分の格を上げる為に戦うつもりも無い。
だから私は次の世を支配する裏の世界に行くことにしたのだ。
常世の世界に私の世界を構築した時のこと。
そこに現世の神である夜刀神がやってきた。
夜刀神は神話の時代から災いをもたらしてきた禍つ神。
神に昇華した蛇が集まって形を成す群体神だ。
夜刀神は私の創った世界を奪いにきた。
神話の時代から生き抜いてきた夜刀神は、暴力の化身と呼ぶに相応しかった。
息をするだけであらゆる物を吹き飛ばし、猛毒の息は生きているものを死滅させ腐らせる。山よりも巨大な体は動くだけで全てを破壊した。
この世界を創造し絶対者であるはずの私が圧倒され続け、戦いは10日にも及んだ。
力の源である世界樹がなければ私は勝つことは出来なかっただろう。
「名前もちゃんと考えてきたよ。何だと思う?」
「分からないわよ。私、考える余裕なんてないからね」
子を産むというのは命に係わることなのだ。気が利かない夫に女はムスっとする。
「そうだね、悪かったよ」
瀕死の夜刀神を世界樹の中に取り込んで、私と世界の回復をしようとしていると、どこからともなく侵入者が現れた。
私は人の世界で生きて来た。だから人の進化にそれほど疎くないつもりだ。
しかしその二人の装備は見たこともない、明らかにオーバーテクノロジーなものだった。
侵入者の一人は男で、もう一人は見た目が女ではあるが、魂が存在していない。
女のような何かだ。
二人は難なく世界樹に侵入し、防衛に置いていた天使も簡単に撃破した。
狙いは私だった。
私は夜刀神との戦いで受けたダメージのまま、二人と戦うことになってしまう。
だが所詮は人と神だ。圧倒的な力の差がある筈だった。
しかしその時異変が起きた。
世界樹に吸収した夜刀神が突如抵抗し、私への力の供給が断たれてしまう。
男と私が戦って鍔迫り合いをしている時だ。
魂無き者が私と仲間である筈の男諸共串刺しにした。
私は瀕死の重傷を負い、世界の核も奪われて命の灯が消えかけていた。
命無き者は止めとばかりに仲間の男諸共殺しにきた。だがその時思わぬ事が起きる。
夜刀神が自らの魂を削り、世界樹の捕縛を解いたのだ。
そして私と男を飲み込むと無理矢理時空を曲げて、世界の果てまで私達を吹き飛ばす。
夜刀神は男を頼むと言って命無き者に向かって行った。
この世界は平面だ。大陸が浮いているという状態が正しいと言える。
飛ばされた私達は大陸の端から落ちていた。落ちる先は現世だ。
私は死にゆく身であり、生きる希望もない、ただの哀れな女。
このまま神になったとしても、この虚しさは変わらない。
何もかもどうでもよかった。
敵ではあったが夜刀神が助けた男を現世に戻すことくらいはしてやろうか。
それにしても夜刀神は何故この男を助けたのか?
しかも神の魂を削ってまで。
創造したばかりとはいえ、私はこの世界の創造神だ。
この世界にいる時は魂の系譜を見ることができる。
気になった私はふと、この男の魂の系譜を除いてみた。
驚いた・・・
何と、死にゆくこの男は、私がずっと探し続けた男だった。
私は嬉しかったのと同時に、悲しみが私を襲ってくる。
何故なら男は夜刀神を愛しているからだ。
この男は何度も生まれ変わり、過去の記憶を取り戻した。
そして夜刀神の元に行き、彼女と添い遂げていた。
揺るぎない愛。
だが彼を愛する気持ちは夜刀神に負けるつもりはない。
それに、もしかしたら次は私を選んでもらえるかもしれない。
いや、私はずっと思い続けていたではないか。
愛する者なのだろ?それならば振り向かせればいい。
生きる希望を得た私は、この男と共に再び現世の輪廻に戻ろうと決意をする。
核を破壊されて死ぬ寸前ではあったが、彼の魂と紐を結ぶことが出来た。
しばらくは力も記憶も失うことになるが、人としての生をもう一度歩むとにしよう。
この男と共に・・・
「男の子の名前は蓮で、女の子の名前は小夜。どうかな?」
「いい名前ね、蓮、小夜。愛してる」
しばらくの間、毎日投稿します。感想お待ちしてます




