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サバイバル演習・続

.ヒータの案内によってたどり着いたほら穴はなかなかに快適だった。


とりあえず寝床確保や明かり確保のために葉や枝を集め、火種を作るために木の板に凹みを入れたものと枝を用意。錐揉み式の簡易なものだが、ちゃんと発火できるように練習してあるので問題ない。


それらの準備が終わったら、作った寝床に狼を寝かせる。これでようやく落ち着いた。


待っていてくれた三人に礼を言った後、本題に入ることにする。


「あの狼の正体わかるか?」


「正体……とは?」


「お前らも気づいてるだろ?あの魔力と気。動物ならあんなに持っているのはおかしいし、魔物ならあんなに綺麗な流れじゃない。明らかに扱いなれている感じだ」

これが、あの狼を食料にせず助けた理由の一つ。一応ほぼ正解であろう答えも持ってはいるが間違っている可能性もあったので三人に聞く。


「単刀直入に言うが、魔獣だろ。あの狼」



魔獣。簡単に言うならば知性をもった獣。動物が何らかの原因で突然変異したり、魔物が長く生きることによってなる者たちの総称。

その個体数は少ないが、わかっていることはいくつかある。


一つが魔物と違い、人間や神族、魔族、獣人と同じように魔法や気を扱えること。一部魔物でも魔力をブレスとして利用する者たちもいるが、それは精霊の力ではなくその魔物特有の臓器によってなされているものなので結果的に魔法とは言えない。

だが、魔獣はそれらとは違い精霊に力を貸してもらい魔法を使える。そこが魔物と違う点。


それと、魔獣同士の純血種ならば幼くても知性をもって行動できるそうだ。その目撃例はごく少数のようだけれども。



それで、魔獣の大きな特徴として基本的に成体として存在している。まぁそれも当然で、人間などでは考えられない年月を重ねて初めてなるのだから当然。


しかし、今回助けた狼はどう見ても幼体。最低でも2メートル以上の体格をもつものを成体とするがこの狼は俺と同じほどの大きさ。故に多少自信が持てなかった。


『そうだな。そやつは魔獣じゃな。それも我らと縁のある』

だが、リンは肯定した。しかもどうやら何らかの関係があるらしい。


「縁ってなんだ?」


「はるか昔のことだが、そやつの先祖が我と会話したことがある。そんな存在はほぼおらなんだので覚えて居るぞ」

ちなみに人間では汝がはじめてじゃがな。そう付け加えたリン。どうやらチートな存在を先祖に持つ狼らしい。


なら、力だけなら申し分がない。


『しかし、ショーゴは何故助けたのです?別に魔獣であろうとも助ける意味はないでしょう』

ウィンの言い分はもっともである。だが、俺にとっては魔獣であるならば助ける価値があった。


その理由は、


「こいつを俺の使い魔にしようと思う」





.使い魔。魔術師、魔法使いの作る相棒のようなものだ。メジャーなものをあげれば、フクロウやネコ、ヘビなどが代表例となる。


基本的に使い魔とは偵察目的などで重宝される。まぁ中には愛玩動物としての目的で作る者たちもいるが。


しかし、戦闘用として作るならば魔物や魔獣を使ったほうが早い。そう考える者たちも今までにはいた。


そして、実行したがそれらはことごとく失敗した。理由として、魔獣のほうは根本的なスペックが違いすぎて従わせることができない。魔物のほうはまだ推測しかないが、理性がほとんどなく、基本的に本能のみで生きているため従う従わないの概念が存在しないからだという。


だが、今回の場合はもしかしたら成功するかもしれない。


成体でない魔獣。これは力がまだ未熟であることを示す。そして、俺は魔法使いとしてのスペックだけを見れば人外レベル。だからこそ試してみる価値はあると思った。


それに、これは俺や精霊たちでの推測だが、ただの動物を使い魔にしようとしたら俺の魔力に耐えられない可能性が大きいのだ。

しかし、魔物のほうは使い魔にすることが今のところ不可能。だが魔獣のほうならどうか。スペックが問題なだけなら俺でもできるんじゃないか?そう今まで考えていた。


そして、今回その機会がやってきた。だからこそ助けたのだ。


まぁあちらさんが拒否するなら無理強いはしないが。無理やり使い魔にするのは俺の性格的に御断りである。



それらのことをみんなに説明し、納得してもらったところで背後に動く気配を感じた。目を向けると、無理やり体を起こそうとしながらこちらを睨む狼の姿が。


「あんまし無理に動くと傷が開くぞ」


「グゥゥ……」

敵意丸出しな狼。こりゃ無理かも。そんなことを思いながらも狼の目をしっかり見て話す。


「俺の存在の何が気に食わないのかは知らんが、お前の体がヤバいのは事実だ。治るまでおとなしくしとけ」


「……」

本心からそう言って狼を諭す。どうやら、多少は落ち着いて自分の状態もわかったのか傷に触らないようゆっくりと寝そべる。まぁこちらを依然と睨んだままだが。


とりあえずの問題も解消したところで今日の晩飯探しに出かけることにしよう。装備の確認をした後、リンに頼んでここにいてもらう。見えてはいないだろうが、存在としてだけは知覚できているらしい、とリンが言っていたのでそうしてもらった。


あれだけの存在が前にいたら抜けようとはしないだろう。というか今の状態じゃ歩くのもままならない状態だろうけれども。


ま、今はそれらのことを置いておき晩飯確保と行こう。気持ちを切り替え、俺はヒータが見つけた小動物のいるところへ向かった。

.サバイバル3日目


「ほら食え」

切り分けたウサギのような小動物の生肉を狼の前に放る。その隣に水の入った木でつくった容器も忘れずに置く。昨日は渡しても渡しても木の器は台無しにするわ、肉は大切にしないわで大変だった。


まぁその後“おはなし”をしたらわかってくれたようだが。


今日はちゃんと粗末にせずに食べてくれているようで安心した。






サバイバル5日目

息を殺し、得物に手をかける。狙うは無防備な姿をさらしているウサギ。片側の石をもってブンブンと振り回し……投げる。

それの行く先を見送りながらも、後ろ手にスリングショットの弾をとり、放つ。その数は三。ボーラのほうは後ろ脚にケガを負わせるだけに終わったが、その逃げた先に先ほど放ったスリングショットの弾が。それぞれ、目、前足、わき腹に命中。貫通とまではいかなくても、勢いよくめり込み絶命させている。

死んでいるのを確認したら、木の枝に足をくくりつけて運ぶ。ボーラも回収し、一度ほら穴へ帰る。


道中、絶妙な場所にいた2メートルほどの怪鳥の頭をボーラでぶち抜いて追加の食料とした。






サバイバル8日目


「暴れるなよ?」

狼にそう言い聞かせ包帯代わりの服をとる。それらを一度川で洗浄し、ほら穴前の木に引っかけて干す。


その間に薬草をすりつぶして混ぜ合わせ、傷薬を調合し、狼の患部に塗りこむ。痛みで多少身じろぎはするものの、大きな抵抗はしない。というか、抵抗するのが無駄だとわかるくらいに“おはなし”したおかげである。


治療が終われば狩りにいって食料を調達し、帰る頃には包帯代わりの服も乾いているので巻きなおし、飯を食って話しかける。


まぁ相手にされなかったけれど。





サバイバル18日目


その日の夜。この生活の中で初めて俺よりも早く狼が寝ていた。いつもは俺を警戒して寝ていなかったというのに。

まぁ信頼されたんじゃなくて、ケガしてるのに連日遅くまで起きていたからだろう。ここにきてその無理がたたったようだ。


それにしても寝てる姿は無防備そのもので可愛げがある。ずっとこっちを警戒してる感じだったのでなんか新鮮だ。


眠くなるまでその寝顔を鑑賞しようと思い見つめていると、


「わたしを……見捨てないで……」

急に少女の声でそんな言葉が聞こえた。


リンの顔を見る。彼女は首を横にふった。


ウィンの顔を見る。彼女も同じく首を横に振った。


ヒータの顔を見る。彼女も同じく以下略。


反射的に彼女らの顔を見たが、いつも聞いてる彼女らの声とは全く違った。

というわけで一番最後の可能性。狼のほうを見る。彼女(声的に)の目には光るものが。状況的に見て狼の声で間違いないようである。しかし、私を見捨てないでとはどういうことだろうか。色々疑問がわきあがるが、考えたところでどうしようもない。


なんとなく、頭をゆっくりといたわるように撫でてみる。すると、不安に満ちた雰囲気から、どこか安心したような雰囲気に変わる。


それを感じ取り、眠くなるまでそうしておくことにした。少しでもこの狼の不安が取れればいいと思う。






サバイバル23日目


あと1週間でこのサバイバル生活も終わる。特に強い魔物の気配も今のところは感じていないのでこのまま何事もなく終わってほしいものであるが、一つ気になることがある。


それはあの狼がつけられていた傷。いくら幼体で未熟といえども魔獣であることに変わりはない。それなのにあの満身創痍な状態になっているということはそれだけのことがあったということ。

それに、魔獣は基本的に一族全員が群れて行動するもの。しかし、あの狼を助けに来る様子もない。これもおかしい。


1番手っ取り早いのは、あの狼が全てを話してくれることだが、あいにくそこまでの信頼は得ていない。


故に今の俺に出来るのは最後まで気を抜かずに警戒し続けることぐらいだ。






サバイバル29日目


最終日前の今日、ついに狼の傷が治った。包帯を取ってやると傷の具合もばっちり良くなっていた。

一応何処か違和感などを感じるところがあるか聞くと首を横に振った。


この一カ月弱、一緒に暮らしてある程度の信頼を勝ち取ったが、やはり使い魔になってもらうほどではない。だから俺は何も言わずに狼を送りだした。


その姿が森の中へ消えたのを確認し、俺も狩り場へと向かう。最終日まで気は抜かない。





.狩り場へ向かい、罠などを仕掛けていると急にそれなりの強さの魔物の気配を感じた。どうやら隠れていたらしいが……何故今になって現れた?


それに何やら嫌な予感がする。それを感じるといてもたってもいられなくなり、もしかしたら自分にも被害があるかも知れないと思ったのもあって、気取られないように気配を消し、魔物のほうへと向かう。


ある程度近くによると、大きな咆哮が聞こえた。それに伴い地響きも生じる。どうやら、なかなかにヤバそうな魔物である。木の上に上ると、その正体はすぐに分かった。


「よりにもよってワイバーンか……」

ワイバーンとはドラゴンの類の中では最下級に位置する魔物である。しかし、最下級とはいえドラゴンに変わりはなく、単独での撃破は出来ないわけでもないが、少なくとも魔法も使えないガキの俺には相手出来るはずもない相手である。


そして、その相手をしているのは今朝別れた狼。今のところ大きなケガは負っていないようだが、大分劣勢な様子。


『どうするんじゃ?ショーゴ』

リンにそう聞かれるが、常識的に考えればここで手を出すのは下策。そもそも、今の俺に出来る手立てなどほとんどない。こんな急ごしらえの手作り狩猟道具でどうにかできるほどワイバーンは弱くない。


『なら助けないのですか?』

そーだな……どう考えても俺には重荷過ぎるもの。


『ならその手の中で飛び出しそうなそれはなんだ?』

これか?これはだな……ちょっと大きな得物を狙うためだ!


そう答えて思いっきりぶん投げる。それと同時にダッシュ。あたりの地形は大体把握した。逃走ルートも想定済み。ならばあとは成功させるだけだ。


飛んで行ったボーラは運よく硬い鱗で覆われていない目に命中。気をひきつける以上の仕事をしてくれた。突然の痛みにうずくまるような形のワイバーン。そのすきに狼をかっさらう。徐々に魔力の封印が解けだしているのか、魔力による単純な機動力強化のみは可能になっているのも嬉しい誤算。予想よりも早く、ポイントへたどり着く。


それと同時に咆哮。どうやらやっこさんはキレた様子だ。これから破壊活動を行いながら俺達を探すことだろう。


だから、探す材料となる匂い。それを消し去ることにする。


その方法は、川。狼を抱えたまんま下流目指して流されていく。このまま流されていけばこのサバイバル生活の拠点であるほら穴へと帰ることができる。今日一日くらいは見つからないことだろう。


「なんで助けた……」

聞いたことのある少女の声。前に一度聞いたことのある狼の声だった。


「色々と考えて思った結果の行動だな」

おそらく狼があんなにケガをしていたのは十中八九あのワイバーンのせいだろう。今までこの辺にいる気配を感じなかったのは、痛み分けのようになり強靭な気配が出せなかったせいか、狼が何かやって今になって見つかったとかそんな感じだろう。

それに仮にも一カ月を共にした相手をそう簡単に見捨てられるような性格はしてないつもりだ。

あとは、あの寝言のわけも聞いてみたい。


「まぁでも一番は助けたいって思ったからだろうな」

これだけのことをつらつらと述べてみたが、どれも後付けのような気がする。あの場で感じたのは多分これ。

そして、気が付いたらあんな行動を起こしていた。


それにしても、今だからこそ冷静に考えられるが相当危ない橋を渡っていた気がする。


一カ月がそろそろ過ぎようとしているからか封印が若干緩んだが、それがなければワイバーンから逃げられたかどうか怪しい。


ま、それも過ぎたことか。とその考えを放棄し、狼の傷の手当てをしながら現状を確認する。


「リン、どこまで封印解けてる?」


『せいぜい下級魔法を扱う程度じゃな』


「そうか」

もうちょっと魔力が使えれば完全に解呪出来たかもしれないのだが。


ちなみに、リンたち精霊は今の状態では基本自力で魔法を行使することはできない。俺という人間に縛られているからだという。

俺がもう何柱かの精霊と契約すれば魂が精霊側に引っ張られて、俺のからだを通して外の魔力オドを取り込み魔法を行使できるようになるらしい。



とりあえず、現状では封印を解く手立てがないということだ。そして、今以上に緩む気配は感じない。たぶん多少緩むだけでも奇跡だったのだろう。


明日には解けるから心配いらない……と、楽観視することは現状を考えると不可能。明日といってもいつ解けるのかもわからず、迎えもくるのがいつなのかもわからない。


そして、明日中ワイバーンから逃げおおせれる自信はない。そう考えると、だいぶきつい気がする。



「なにも……聞かないのか?」

少しでも生存率を上げるべく策を練ろうと考えていると、ポツリと狼が呟く。


「聞かないよ。でも、今火が焚けないからそばに寄っていいか?」

無言だが、拒否するような気配は感じない。お言葉?に甘えて隣に腰掛ける。隣から伝わる温もりが少し肌寒かった体を温めてくれた。



無言のまま、二人寄り添って時が流れるのを感じながら、俺は策を練っていた。そんなとき、


「なぁ……」

狼がそう言い、話し始めた。


本当はこの回で終わらせたかったけど予想以上に長くなったのできることにした。次回こそ終わらせる。

ちなみにこのサバイバル演習で幼少期は終わらせます


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