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VENOM  作者:
7/9

始まりはいつも終わりの後に DAY:06

 翌日、20時過ぎ。

 首都某所にて大門大和は人を待っていた。

 自分を就職させた上司だ。

 経済界の重鎮が主催のパーティーがあると言うのだ。

 気乗りはしないが仕事だ、行くしかない。

 夜の繁華街だ。

 煌びやかな雰囲気を放つ男女がビルの壁に寄りかかっている大門大和の前を歩いていく。

 彼はため息をついて、煙草を取り出した。

 その時だった。


「煙草は今日は我慢しろ」


 振り返ると、彼の上司だった。

 煙草を奪われてしまう。

 スキンヘッドの男性で、スーツを着るともう堅気には見えない。

 大門大和は首を窄めるように会釈をして寄りかかっていたビルから体を離した。


「金持ち連中だけじゃない、今回は政界の連中も来る。いいか? お前を呼んだのはお前を信頼してのことだ、中で見聞きしたことは口外するな」


「薬の密売とか違法オークションとかやるんすか」


「漫画の見過ぎだ」


「じゃあ何すか」


「行けばわかる」


 上司は歩き出した。

 吸おうと思っていた煙草が吸えなくなって大門大和はモヤモヤした感情になるが、上司はそんなものは気にも留めない。

 大門大和は仕方なく着いていく。

 繁華街は、煌びやかに輝いてる。

 夜だというのに、昼よりも明るいとさえ感じる。

 歩く人間層も若く、派手な髪色や格好をしている。

 さすがは買い物街と言った感じだ。

 少し歩くと、如何にもな高級車が路上駐車されていた。

 上司はそれに乗り込み、大門大和は助手席に乗り込む。


「案内してくれれば俺が運転しますよ」


「いい」


 短い返答に大門大和はそれ以上は踏み込まない。

 エンジンが掛かり、ハザードランプが消えて車が走り出す。

 防音性が高い車内では、エンジンも振動以外ほとんど感じない。

 ラジオもかかっていないので静寂と言ってもいい雰囲気だ。

 お喋りな質ではない大門大和はそれで苦になることはないのだが。

 しかし少しの間を置いて上司が口を開いた。


「最近仕事どうよ」


 そういう彼の顔は、無表情で、意識して感情を悟らせまいとしている風にも見えた。

 だが、奇をてらう必要もないので大門大和は世間話程度に捉えて回答する。


「まあ、可もなく不可もなくですね。指名してくれるお客さんも何組かいるんで、まあ今後は派生を狙うべきかとは考えてますけど」


「悪い考えじゃないが、お前はちと理屈屋過ぎる所がある。相手に理解はさせられても納得はまた違う話だ。派生はしくると紹介元の信頼関係にも傷がつく、派生が発生したら俺でもいいから状況の共有をしてから動き出せ」


「うす」


 車は走り続けている。


「そろそろ決算手当だ、なんか買いたいものとかあるのか?」


「一年目なのに満額貰って、この上で決算手当までもらうってのはどうも」


「いやそこは権利というか、雇用契約上の会社の義務だ」


「……言うても使う暇ないっすよ。貯金すね」


「まあ、そうだよな。ブラックだよな」


「あんたが言うか」


「何も言えん」


 車は走り続ける。

 世間話も続く。


「あ、そうだ。今抱えている案件は明日以降から引き継ぎ準備に入っとけ」


「は?」


「多分お前の担当をどこかのタイミングで別の人間に引き渡す可能性が高い。いつか、ってのはわからん」


「あ、そうだで話す内容じゃないっすよ。前もって言ってくださいよ」


「ふん」


「……ま、引継ぎ資料というか、何かあった時とかに代理の人に渡せるようにいつも記録はまとめてるんで新しく作る必要はないかと思うんすけどね」


「ああ、共有フォルダに入ってるあれか」


「そう」


「まあ、じゃあいいか」


「良くないっすよ。それいつ決まったんすか」


「決まってない。今日のお前次第だ」


「は?」


「お前を呼んだ人間がいるんだよ。ご指名ってわけだ」


「俺を?」


 それっきり、黙ってしまった上司。

 大門大和もあまり突っ込まずに、考える事に集中した。

 金持ち連中が来るとのことだから大口案件の紹介だとかそんなものだろうか?

 しかし大門大和のほとんどの相手は七割が海外で、国内はその海外への仲介人だ。

 そこまでの大口案件であれば予測は付くが、だが、このタイミングで来そうな相手は思いつかない。

 新口が来そうなタイミングでもない。

 彼には、何も思いつかなかった。

 だが、大門大和にとって今日は、運命を別つ日となる。

 それを、彼はまだわかってはいなかった。

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