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VENOM  作者:
2/9

始まりはいつも終わりの後に DAY:01

 彼の生まれは日本の田舎町だった。

 港がある小さな町で、いつも悪ガキとして知られていた。

 しかし、自ら争いを生むということは少なかった。

 基本的には、そのきっかけを見て、それを放置出来ずに首を突っ込んでしまったことに起因する。

 彼はいつも近くの警察署の常連だった。

 取り調べを行う少年課の警察官がいつも彼に言った。


「我慢しろってんじゃねえとぞ。やり方を考えろっつっとっちゃ。殴るしかお前は考えはねえとか?」


 方言交じりのその言葉に彼は腕を組んで鼻を鳴らす。

 そんな毎日だった。

 学校には通っていた。

 彼は勤勉だった。

 勉強は好きではなかった。

 体を動かす方が性にはあっていた。

 だが彼は理知的で、学校で成績をしっかりと上げる意味を理解していた。

 彼は、警察官を目指していた。

 彼はいつも、争いの仲裁ばかりをしていた。

 その手段は、鉄拳制裁。

 目には目を。

 その結果、傷害容疑でいつも取り調べを受けていた。

 もちろんいわゆる不良同士の喧嘩だ、やられたからと言って被害届が出る事はない、いつも彼は決定的な逮捕に至ったことはなかった。

 だが、補導歴としてはしっかりと記録に残ってしまっていた。

 だから彼は、高校三年生の秋に受けた警察官採用試験で、それを理由に不採用とされた。

 狭い町で、田舎町。

 すぐに話題にその情報が広まり、というか、彼の採用に関わった人物が彼の前に直接現れたのだ。

 そして告げる。


「お前がどんな理由で喧嘩してるかなんて世間は知ったこっちゃねえのさ。この前の暴走族潰したあれが決め手になっちまったのよ。近所のばあちゃんが寝不足になって困ってたからってのは聞いたよ。だがな、世間は理由があっても喧嘩しねえ奴を選ぶのよ。てめえがやられる側になりたくねえからな。理不尽だが、それが世間で言うまともって奴よ。いいか大和、悪い事は言わねえ、まともになれ。ヤクザにでもなりそうな面だ」


 彼は、大門大和(だいもんやまと)は、煙草を咥えて、それを噛み潰していた。

 忌々し気に。

 警察官は最後に、


「俺らに、お前を逮捕させるようなことは二度とすんじゃねえぞ」


 そう言って去って行った。

 大門大和は、その背中を見送り、バイクに跨った。

 Z400FXの上で、煙草の煙を吐いて、彼は空を見上げた。


「どうすっかな」


 そう呟いた彼はZ400FXのエンジンを始動させ、走り出した。

 暫く走って山を越えて市街に出た。

 そこを更に通過し、また田舎町だった。

 そこで、掲示板を見つけた。


「自衛官募集」


 陸海空と大きく書かれたその紙が目についた。

 Z400FXを止めてその掲示板の所まで行く。

 広報への電話番号と、自衛隊のホームページのURLが記載されていた。

 彼は、何も考えなかった。

 その場からの近くの駐屯地まで彼はZ400FXを走らせた。

 厳戒な門。

 大きなトラックがそこを行き交い、向こう側には迷彩服を着た人達と、運動着のような恰好をして敷地内を走っている人達がいた。

 迷彩服を着た人と目が合った。

 銃を背負っている。

 この時にそれが歩哨、立哨だという任務だとまだ彼は知らなかった。

 邪魔にならない位置を考えて、大門大和はバイクを止めて駐屯地を見た。

 金網には、大型の自衛官募集の垂れ幕が掛かっていた。

 日焼けして雨風にも晒されて色褪せたその垂れ幕を見る。

 その時だった。


「興味あるの?」


 後ろから、そう声を掛けられた。

 彼は、振り返る。

 眼鏡をかけた、白髪の男性。

 年の頃はもう50代後半だろう。


「あります」


 彼が答えると男性はにっこりと笑った。


「僕はカワバタ。自衛隊の広報官として勤務しています。もしよかったら今から時間あるかな。そこにある喫茶店に行こう。奢るから。お店で待ってて」


 差し出された名刺を大門大和が受け取ると、彼は足早に駐屯地に戻って行った。

 言われたとおりにZ400FXと一緒に喫茶店に移動し、席を確保して待っているとカワバタと名乗った男が来た。

 両手にはたくさんの資料を持っていた。

 額に汗をかいた彼はハンカチでそれを拭いながら柔和に笑んでいた。


「じゃあ、早速だけど、君高校生だよね? お名前を聞いてもいいかな?」


「大門大和、です。カイヨウ高校、高三です」


「大門くんか。高校三年生か。就職活動は?」


「警察官、受けたんすけど、落ちて」


「そっか。で、自衛官か。よくいるよそのパターン」


「そうなんすか」


「うん。採用基準が高いってのもそうだけど、家族に犯罪者がいるともうダメとかね。あと補導歴とか、見られるね」


「……」


「あ、補導歴か……」


 カワバタはあちゃ~と額を抑えた。


「やっぱり、厳しいっすか」


「調べられることだしね、マイナスにはなるよ。でも、それ以上に優先される部分が自衛隊にはあるから。面接では君をしっかりとアピールしてほしい。そこは面接練習もするからしっかりと対策して、試験勉強会もやってる。近くの駐屯地で手配できるから。苦手な科目は?」


「数学っすね。因数分解でももうわかんなくて。他は、90前後は取れます」


「英語も大丈夫なんだ」


「英語は、はい。テストってだけなら大丈夫っす」


 カワバタは大門大和の言葉を全てメモしていく。


「じゃあ、これを見てみようか。カイヨウ高校なら、海の学校だよね。航海実習は行ったね? じゃあ海上自衛隊なら確実に通ると思うんだけどどうしよっか?」


「陸上がいいです」


「まあそうだよね。1から3の順番で希望を陸海空って書いちゃうけど大丈夫?」


「陸で落ちて海に行くとかあるんすか?」


「逆ならある。空に受かって他が落ちるってことはないね。陸に受かって、他には届かないとかもある」


「陸が一番簡単なんすか?」


「適性の問題だね。海上と航空はどうしても計器類を多用するし、あとは英語ね。君は海上が一番最適だと思うんだけど」


「なら、陸上の後に海上に行きます」


「転属は難しいね。基本は一度退職して、そこで再試験だから」


「なるほど」


「とりあえず陸で受けよっか。でもね、ごめんけど一次募集は終わっちゃってさ。次が二月でさ。ま、勉強期間増やせるし得だよね。じゃあ陸上自衛隊の職種を見ていこうか。いいなって思うやつあるかな」


 カワバタが見せてきたカタログのようなものは各自衛官の部署の一覧が乗っていた。

 そこにバイクに乗っている部署が二つあった。

 大門大和がそれぞれを指さした。


「これとこれって」


「ああ、情報科と警務科だね。あ、警察官志望だったね」


「いやそうじゃなくて」


「あ、バイクか」


「そうっす」


「情報科は厳しいよ。かなり頑張る必要がある。斥候ってわかるかな? 一番に敵陣に入って情報収集するの。それでバイクが必要ってことだね。でもこの県にはないから神奈川だね。そこに行くことになる。で、警務科だけど、これは自衛隊の中の警察だね。事件があれば捜査もする。だけどこれは陸曹、まあちょっと上の階級になってからだね。目指してみるかい? 警察リベンジ」


「悪く、ないっすね」


「そっか」


 カワバタは2枚の紙を差し出してきた。

 それには志願書と書かれていた。

 大門大和は、躊躇なくそれに記載した。

 これが、この瞬間が大門大和の運命の始まりだったのかもしれない。

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