第94話
セイガ達が集まったのは共用スペースのひとつ、談話室とでも言うのか、幾つかの椅子と、壁には大きなモニターの掛かっている部屋だった。
「もう、ハリュウおっそい~」
4人のうち、最後にやって来たハリュウをメイが責める。
「だ~~っ 仕方ないだろ、オレが一番準備に時間が掛かるんだよっ」
今回、海里達の戦力データに関してはほぼハリュウがひとりで集めていた。
なので、セイガは納得しようとするが
「ほほう、女性陣を差し置いて自分が一番準備に時間が掛かるってゆ~んだ」
手持ちのコスメを使ったのだろう、朝からしっかりとメイクをしているユメカが異論を唱える。
よく見るとメイもシャワーを浴びてきたのか、髪がしっとりと濡れている。
「……スンマセン」
ハリュウは気迫に負けて素直に謝る。
「まあまあ、早速だけれどまずはハリュウが集めてくれた海里達のデータを見てみようか」
セイガがハリュウからデータを受け取り、それをモニターに映し出す。
しかし
「……?」
ちゃんと繋げたはずだがモニターは白く変わっただけだ。
しばしの無言
「内容がないよぅ?」
メイの素朴な言葉が部屋を満たした。
一瞬の後、ハリュウが爆笑する。
「おい、それってダジャレかよ」
メイは気付いてなかったのだろう。
「へ? ないようがないよう? ‥‥ん!」
もう一度呟いてから自分の失態に気付いて赤面した。
「違うもん! シャレじゃなくて単純に気になったことを言っただけだもん!」
「うんうん、そうだよね、めーちゃんは悪くないよねっ」
ユメカも思ったよりツボに入ったのか、笑いを堪えながらメイを庇う。
「ゆーちゃんまでぇ!」
「でもどうして何も映らないんだろう?」
ひとり冷静なセイガがモニターからデータを取り出す。
それを見たハリュウが
「あ、悪ぃ……こっちだったわ」
自分の間違いに気づき、セイガに別のデータを渡した。
それを見たメイは激昂
「バカハリュウ~~!!」
ぽかぽかとハリュウを叩き回したのだった。
「別に悪気があったわけじゃないだろうに」
ハリュウが減らず口を叩く間に、モニターにはとあるWCSの放送映像が流れていた。
「うわぁ、思った以上に沢山のお客さんがいるね♪」
映し出されたその会場は夕暮れのコロシアム……
サッカーのコートくらいある広大なフィールド、観客も数万人は詰めかけているだろう。
コロシアムの中央、ライトに照らされた四角い舞台には一組の男女が向かい合っている。
海里と……セイガだ。
正しくはセイガを模したプレイヤーであり、そのことは前もって聞いてはいたが、見た限りセイガ本人にも自分がいるようにしか見えなかった。
ただ、構えや雰囲気が少しだけ自分とは違う気がする。
続いての映像にも一同は驚く。
「わわ、ホントにジャンキーさんがシックストにいるよ、不思議な感じだね」
そう、この時の実況はセイガ達とも馴染みのある人狼のジャンキー細田が行っているのだ。
その口上の後、海里と偽セイガの戦いが始まる。
それはとても激しく、見ているだけでも胸が躍る内容だった。
最後、爆炎と共に海里が勝利した時、分かってはいても溜息の出てしまう面々だった。
「……凄いな」
セイガがそれだけ口にする。
「ああ、この偽セイガの強さはまだまだとはいえ……海里は、強いな」
鮮やかで圧倒的、映像だけでも海里の実力が窺えた。
「対策……か」
セイガもなかなか冷静に分析が出来ない。
自分ではないにしても、自分とよく似たものが負けているのだから仕方がない。
「ひとつ、分かったんだけれど」
そんな中、おずおずとユメカが手を上げる。
全員の視線がユメカに集まる。
「ええとさ、あの完全に不意を突いてた踵落としがあったじゃない?」
ユメカの声に合わせて映像が戻される。
試合の終盤、偽セイガの攻撃を躱してそのまま叩き出した瞬間だ。
「コレってきっと本物のセイガも喰らうと思うんだ、あはは」
沈黙が降りる。
映像をよく見ると分かるが、偽セイガの目線は完全に海里のスカートの、さらに奥に釘付けになっていた。
その隙を海里が見事に利用したから、偽セイガは地に伏したのだ。
「……ん!、いや俺はそんなことは」
「いや、セイガなら見るね、ムッツリだから」
「ハリュウ!」
恥ずかしさと居たたまれなさでセイガがハリュウの胸倉を掴む。
「ええと、対策は分かったことですし、今度から気をつければ大丈夫ですよ」
メイの優しい言葉、しかしそれはつまりメイもまた肯定していることに他ならない……セイガは自分の情けなさに心底落ち込んだ。
「……」
「あはは……うん、対策を考えるって大切だよねっ 次行こう次☆」
その後は静かな雰囲気のまま海里達4人のWCSでの映像を見続けた。
改めて見て、4人の強さを思い知る形となる。
海里は発動が早く、強力な<呪文>使い。
瑠沙は銃器を用いた神速で万能な遊撃手。
フランは圧倒的なスタミナとパワーを誇る壁。
Jは底知れない様々な技を使うテクニシャン。
それぞれが一騎当千の実力者であることは間違いない。
「ま、見てわかる通り、WCSってのは本気の戦闘にルールと安全性を加えたエンターテインメント性の高い競技だってことだ」
ハリュウの説明通り、ここで行われているのは殺し合いではない。
ダメージを数値化して判定に用いたり、バリアや回復を随所に入れ、派手でありながらも死者が出る可能性が低いスポーツ的な戦闘なのだ。
「誰も死なないのなら、それはちょっと安心……かな?」
メイの一言
「とはいえ、痛いものは痛いし、100%安全とは言えないからな……甘えずにいつもと同じく本気で挑むだけだろうな」
ハリュウの言葉、それが一番的を得ていた。
「やることは一緒だ」
セイガも覚悟を決める、ただそれだと心配が残る。
自然と3人の目がユメカに注がれる、ユメカはまだ他人を攻撃することが出来ないのだ。
「あはは……問題は山積み、だね」
ユメカの乾いた笑い声が、室内に響いた。




