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第8話

 港街ファルネーゼ、学園のすぐ傍に面した風光明媚で活気溢れる街である。

 色々な建築様式の建物が海辺の港から丘に沿って沢山(ひし)めいているが、不思議と調和が取れていて、街の色合いを作り出している。

 昼過ぎの活気ある通りを一本外れ、住宅の多い坂の上に、その店はある。

 外観は和風の民家にしか見えないが、表札代わりに「楽多堂」と書かれた小さな木の看板が塀に掛けられている。

 ちょっとした階段を上がればドアがあるが、そこは閉まっており呼び鈴らしきものもそこには存在しなかった。

 ちょっと初見の客には難しい店である、そもそも外観からは何の店なのかそれすら分からない。

「どうも、失礼します!」

 先頭のセイガが大きな声をあげながらドアを開く、その先は土間のある玄関で勝手知ったる4人はそれぞれ靴を脱いで廊下へと移動した。

「おうおう、いらっしゃい♪」

 すぐ手前の、開け放たれた部屋の方から男の声がする。

 よく通る若々しい声、部屋の中には浴衣姿で炬燵に入り、何やらキーボードで作業をしている長い銀髪の美形の男性がいた。

「うわ、なんで真夏なのにこたつがあるのっ? あはは」

 そんなユメカのツッコミにも

「儂は炬燵が大好きだからのう☆」

 とキラリと目を輝かせながら動じない男、よく見ると炬燵布団はあるが、男はそれは掛けずに胡坐をかいていた。

「どうせこの人のことだから布団を仕舞うのが面倒になっただけでしょう?」

 レイチェルが呆れ顔で炬燵の横にあった座布団を拾うと、部屋の隅に座る。

 綺麗な正座だった。

「儂は寒いのがとんと苦手じゃからのぅ、たまに涼しくなる夜には意外とまだイイんじゃよ?」

「…寒い日なんかあったかなぁ?」

 高山育ちで寒さには強い方のメイが不思議そうにしながらレイチェルの隣りにちょこんと腰かける。

「もう、上野下野(こうずけしもつけ)さんは仕方のないひとだなぁ」

 ユメカとセイガが男の横を通って窓側の座布団にそれぞれ座った。

「それで、今回も店主に教えて欲しいことがあるんですが」

「おう、聞いとるよ、別リージョンの客人を案内するんだって? なかなか面白そうな話じゃのう♪」

 この男が楽多堂の店主、『上野下野』見た目は30代ほどだが、何故か爺言葉を好んで使っている妙な男だ。

 妙と言えば、この部屋も四方の棚いっぱいに本やゲーム機、さらに壁には額に入れて沢山のゲームのカセットが飾られていて、店主の趣味が窺える様相だ。

「どんな所に連れていくつもりなのかの?」

 そう言いながら店主が目の前の一番大きなモニターをリモコンで操作すると、店主の使っているノートパソコンと同じ画面が表示された。

 このワールドでは額窓を使ったネットワークが一般的だが、店主のように他の世界の技術を用いる者も少なくはない。

「そうですね……折角この第4リージョン(フォース)?に来てくれるのですから、ここにしかないような場所に行きたいですね」

 セイガの目も興奮している、そもそもセイガ自身もまだこのワールドに来て日が浅いので、世界の色々な場所に行ってみたい、そんな希望があるのだ。

 そんなセイガを見ながらレイチェルが補足をする。

第6リージョン(シックスト)は近未来、構成的にはここよりも文明的なレベルが進んだ環境だから、自然の豊かな、あとファンタジックな名所辺りが喜ばれるんじゃないかしら?」

 先にセイガ達も聞いていたが、第6リージョンは科学と独特な魔法体形が融合して発達した世界らしい。

 勿論第4リージョンにも学園など高度な技術を持つ場所はあるが、どちらかというとここの住民の多くは自然と共生しながら一部魔法や科学を取り入れた近代的な生活を好む傾向があった。

「あとは、夏なんだしそれに合わせたイベントがいいんじゃないかぁ」

 メイの言葉、セイガに於いては何だか昨日の夏の予定の話を思い起こさせた。

(水着はふたりともNGなんだよなぁ…)

「それではそうじゃのう……海」

「ボク、水着は恥ずかしいから絶対嫌だよ?」

「ではなく、海に囲まれた特別な島に行ってみるというのはどうじゃ?」

 メイをやんわり抑えながら店主が提案したのは

『特別な…島?』

 セイガもユメカも訳が分からず困惑していたが、レイチェルだけはどうやら店主の意図を悟ったのか、にんまりとしている。

「その名も百龍島(ひゃくりゅうとう)と言ってな、かなり大きな島じゃが一番の特徴はな……」

 そう溜めながら店主がマウスをクリックすると、モニターに緑豊かな島の空中写真が浮かび上がった。

「ここが……はじまりの学び舎、『学園郷』なのじゃ!!」

 両手を上げ、大きくアピールする店主、だがセイガ達3人はあまりピンと来ていない様子だ。

「私が代わりに説明するわね、まずこの第4リージョンでは学園という大きな組織が再誕してここで生活している人達の教育、補助をしていますね」

 流石学園の教師、レイチェルが先生モードに入って詳しく教えてくれた。

「その、最初の学園が設立され、今なお学園の力が一番大きいのがこの学園郷なのです、歴史的にも見るべきものが多いですし、風土もまたとても優れているの」

「最適な理由があるから、この島が最初に選ばれた訳じゃ」

「ええ、四季折々、自然が豊かなのは勿論、幾つもの龍脈が交わる霊的楽園、それが百龍島なの、見所もいっぱいよ♪」

『へぇ~~~』

 3人は感心の声を上げるが、同時に思ったこともあった。

「ふふ、なんだか、ちょっとお堅いイメージもありません? 真面目なばっかりだとお客様も飽きちゃうんじゃないかなぁ、あはは」 

 代表してユメカが指摘する、自分達はともかく、遊びにきた客人をもてなすにはどうかと思ったのだ。

「ははは、まあ学園郷なんていうとそうも思うじゃろうな」

「でも、ホントに面白い所なのよ?見てみて?」

 そう言いながらレイチェルが幾つもの場所や情報を提示する。

 すると、セイガ達3人の表情も次第に変わっていった。

「これは……」

「でしょ♪」

「ボク、ここ行ってみたいかも…ううん、楽しそう♪」

 セイガとメイの心が騒いでくる。

「あ、でもここってココから結構遠かったよね? …ライブ、どうしよ?」

 ユメカはまだ決めてはいなかったが、そろそろ初ライブの計画を練らないといけないのだ。

「いっそのこと学園郷でライブをやってもええんじゃないかい?」

「えええ!?」

「それもイイかもですね、学園郷の住民はそういうのに興味ある人多いですよ」

「あはは、でも?」

 戸惑うユメカ

「それに、折角ならシックストからの客人の方々にもユメカの初ライブは見て欲しいな」

「セイガまでっ?」

「ああ、俺はユメカの歌ならば、自信を持ってお薦め出来るよ!」

 セイガの熱い瞳に、ユメカの頬が赤く染まる。

「ゆーちゃんなら絶対大丈夫だよ、ボクもライブ楽しみだなぁ♪」

「ううううう」

 顔を真っ赤にしながらユメカが俯く。

「ああもうっ 学園郷でやるかはラザンと相談してからだけれど…うふふ、ライブは確かにお客様が居るタイミングでやればいいんでしょ!」

 半ば自棄になりながら、ユメカが右腕を大きく掲げた。

「あはは…いい切っちゃったよ」

 それを見て、みんなが拍手を送ったことは言うまでも無いだろう。

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