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第81話

 日が沈むのが、少しだけ早くなった気がする。

 そんな風に感じながらセイガは目の前のメイを見ていた。

「あ~~~~、遂にコレが最後の荷物かぁ…」

 前を歩くメイの手には小さな手提げ籠がひとつ。

 ユメカの家から新居へと生活用品を送る引っ越し作業は、この日で終了となる。

 つまり、メイの新居の完成、新生活のはじまりが来たのだ。

 先程まで、ユメカと泣きながらの挨拶をしていたメイ。

 勿論、これが今生の別れという訳ではないのだが、期間としては短くともお互いに親友のように、家族のように一緒に暮らしていたので、別れるのはとても寂しいものだったのだ。

「えへへ、変ですよね、明日だってまたゆーちゃんと会えるっていうのに」

 熱くなった目頭を擦りながらメイがはにかむ。

「いや、メイ達の寂しい気持ちは俺にも分かるよ」

「ありがとうございます……あ、勿論さみしいけど、新生活にワクワクもあるんですよ? だって……きっと絶対楽しいもん」

 メイが潤んだ瞳でセイガを見上げる。

 新居はセイガの家の隣、本来ならばセイガと一番近い場所での暮らしだったのだが……

(まさかシオリさんが同居するなんて思わなかったよぅ)

 シオリという伏兵もあって、メイの計画は色々と変更を余儀なくされていた。

「本当に、最後まで手伝ってくださって……セイガさんには感謝してもし足りないです!」

 今セイガが一緒にいるのは、荷物を運ぶのを手伝っていたからだ。

「はは、もう今日だけで既に何度も感謝されているから、メイの場合気にしすぎなくて大丈夫だよ?」

「もう、そんなコト言わないでくださいよぅ」

 本当ならば、感謝にかこつけて、食事を作りに行ったり、自分の部屋に招いたりしたり、あまつさえ珍しいからとセイガの家の露天風呂を使わせて貰ったり……

 そんな夢のような生活をメイは妄想していたりもしたのだが、流石にシオリさんが近くにいると恥ずかしすぎて実行には移せない。

 そんなメイだった。


 今日も日中は日差しが強かったので、メイは麦わら帽子をかぶっていた。

 それを恥ずかしそうに直しながら、メイはてくてくと歩く。

「あ、公園ですよセイガさん☆」

 何となく、余韻を楽しむように最短距離ではない道のりを歩いていたふたりだったのだが、そんな中でメイの目の前には小さな公園が待っていた。

 ユメカの家の近くにある、自然豊かな広い公園とは趣の異なる…

 近所の子供が集まって遊べる、柵に囲まれて、幾つかの遊具が置いてある…

 見渡せるくらいの広さの公園。

 不思議とどこか懐かしさを感じる、そんな場所だった。

「わは~♪ こんなのエルディアにはなかったなぁ」

 メイは近くのブランコに早速腰掛けると、勢いよく漕ぎだした。

 風を感じながら、ブランコはどんどん動きを上げていく。

 ひらひらと、帽子と白いワンピースが揺らめいている。

 セイガはそんな光景を微笑ましく眺めていた。

「え~~~い!」

 タイミング良く、メイがブランコから飛び立ち、放物線を描いて地面へと見事に着地する。

「おお、見事だね♪」

「えへへっ☆」

 腰を落とすと地面につきそうなほど長いメイの黒くて長い、綺麗な髪。

 メイは黒髪を靡かせながら次の遊具へと移動する。

 そこは、ちょっと変な形をした滑り台だった。

「これはタコ…なのか?」

 小山状の赤い塊のあちこちが繋がっており、登ったり滑り降りたり出来るようになっている。

 メイは足下の丸い穴からするすると中に入っていく。

「わぁ、セイガさん、これ中も面白いよぅ?」

 メイの呼ぶ声にセイガも窮屈ながらタコの中に入ってみる。

 すると中は存外と広く、不思議な波型の模様とスロープが上へと続いていた。

「へぇ……確かに楽しそうだ」

 セイガも童心に帰って遊びたくなる。

 メイはセイガの方を向きながらお尻をついてのしのしと上へと向かおうとした。

 しかし

「あっ」

 ある程度勾配が急になっていたため、ちょっと手が滑って体が前へと、滑り台を降りるような形となった結果、スカートが捲れてしまった。

 当然目の前にはセイガがいる。

「やだ、見えちゃう」

 メイが赤面しながら慌ててスカートを押さえるが、そうなるとさらに支えを失ったメイの体はずりずりと前へ進んでしまう。

「あうあう」

 メイのつまさきがセイガの足の外側へと流れる。

「わわ」

 結果、またを開いた状態で屈んだセイガに抱きかかえられるような(もつ)れた体勢にふたりはなってしまった。

 吐息が届きそうなほど近くにセイガの顔がある。

 メイは慌てて手を動かした。

「あの、ごめんなさい」

「こっちは大丈夫、メイは怪我とかは無いか?」

 セイガがどうにか立とうとしながらメイに手を差し出す。

「はい、ボクはだいじょうぶ…デス」

 メイも手を取り、立ち上がろうとするが

「痛っ」

 メイに気を取られていたセイガは後頭部を壁にぶつけてしまった。

「うわ、平気ですか?」

 起こされたメイの方は背が小さいのでどこもぶつけずに済んだ。

 ふたりは目を合わせると

『あはははは♪』

 笑いながら遊具の外へと出た。

「大人が遊ぶのは絶対危ないですね」

 スカートの裾についた砂を払いながらメイが微笑む。

「そうだね、気をつけないとダメだな」

 横を向きながら後頭部をさするセイガ、ちなみに……

「あの、そういえば……見えてない、ですよね?」

 メイの白いワンピースはシンプルな作りなので、ちょっとした隙や、見る角度によってはどうしても隠せる場所に限界があり……

 実は『今も』含めて色々と見えてしまっていたのだが、セイガは笑って誤魔化すことにしたのだった。

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