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第7話

「あれ?ハリュウは?」

 学園長との会談を終え、男女それぞれが私用(トイレとも言う)で分かれていたのだが、中央棟の外でユメカ達を迎えるセイガの隣りにハリュウの姿は無かった。

「ああ、何でも急用が出来たとかで…走って行ったよ、ウイングを呼ぶのにも学園の外の方がいいからね」

 ウイングというのはハリュウの愛機の飛行機のことである。

 直立、停止飛行が可能で滑走路を必要としない高性能な戦闘機だが、安全面を考えて学園の敷地から離れたのだった。

「ふ~~~ん、そっかぁ」

 メイはそれ以上興味は無さそうに空を見上げる。

「うふふ、ハリュウには悪いけれど予定は私たちで決めちゃってもいいよね?」

 ユメカが嬉しそうに両手を振り子のように前後に振っている。

「大筋を決めてから、ハリュウ君には伝えても問題は無いと思うわ」

 その隣のレイチェルも楽しそうだ。

 実はガイドは4人と指定されているのでレイチェルは対象外なのだが、学園とセイガ達とのパイプ役として、レイチェルも行動をほぼ共にする話となったのだ。

 そんなわけで、セイガ達は楽多堂で今後の予定を計画する話となった。

 何故、学園では無いかというと、そちらの方が皆にとって都合が良いから…

 楽多堂というのはセイガ達の知り合いが経営するお店で、様々な情報や旅に必要なアレコレ、さらに美味しいお菓子や寛げる場所まで提供してくれる、とてもセイガ達にとっては心地の良い場所なのだ。

「わぁ、どうしようねぇ? 別のリージョンから来た人たちをおもてなしするのって…大変だけどワクワクするね、ふふっ」

 全力でガイド役を頑張ろうとしているユメカの姿を見て、セイガもまた、有意義な時間にしようと心から思うのだった。


 一方こちらはとある場所に存在するデズモスの地下基地(ホーム)

 DZMS(デズモス)とは

「Dangerous Z-Dragonewt and his Modest Supporters」

 竜人である『大佐』を代表とした私設軍隊でこのワールドに於いて、相当な戦闘力を保有する組織だ。

 この地下基地の場所も秘匿されており、基本的に隊員はテレポートゲートを使ってここと外とを移動している。

(余談だが、ハリュウの場合ウイングのテレポート機能を使って地下基地へと帰投している)

 そう、デズモスの活動範囲はこのワールド全体なのだ。

 活動目的も、世界平和と大きく銘打っている。

 そのため、大佐を敵視する存在も少なくは無いが、彼は圧倒的な力を持っているので、大佐とデズモスの活躍はいい意味でワールドに広く知れ渡っていた。


「ハリュウ・Z・K・エクレール 入ります!」

 デズモスの最深部、中央作戦室(セントラル)の自動扉が開き、デズモスの軍服に着替えたハリュウがやや緊張した面持ちで入室する。

「おお、待ちかねたぞ」

 大きく、力ある声……そこには立てば身長5mほどの、ドラゴンを人型の骨格に移し替えたような姿の鎧を着た男が胡坐をかいていた。

 長い首、黒い肌には所々黒い鱗もある、背中には大きな翼を持ち、角のある顔つきは正に勇ましい竜のものだが、不思議と温かみも感じる表情だった。

 彼こそが竜人、このデズモスの代表を務める『大佐』だ。

「スンマセンっ オレから要望を出しておいたのに申し訳無いです!」

 ハリュウが大きく頭を下げる、ハリュウにとってはこのワールドでもっとも尊敬する存在がこの大佐なので、大佐にだけは殊勝なのだ。

「ははは、冗談だ……連絡してここまで12分なら及第点だろうよ」

 大佐が大きな口を開けながら笑う、それだけでこの広い中央作戦室の空気が震えるようだ。

「それにまさか全員お揃いとは……マジ恐縮です!」

 ハリュウの視線の先、大佐の傍らには三者三様の女性の姿があった。

 それぞれデズモスの緑色の軍服を着こなしているが、その印象は全く異なる。


「あと3分遅れてたら、あたしの魔法でお仕置きする予定だったわよ?」

 左の女性は凄い毛量の黒髪に金のメッシュを入れ、軍服が弾けそうなほどの胸と大きなくびれ、男が悦びそうなムチムチの肢体を惜しげもなく見せている。


「あと2分早ければ、オレがご褒美をくれてやるはずだったのぜ?」

 右の女性は3人の中では圧倒的に背が高く、軍服を着ていても分かるほど強靭な筋肉を有していて、一部見える真っ白な肌には歴戦の傷跡が残っていた。


「この勝負はマーラーの勝ちなのですわ♪」

 中央の女性は見た目は10歳前後にしか見えない、とても小さく華奢で病弱にも見える灰色の肌、灰色の足元まで伸びる髪と理知的な金色の瞳が映えていた。


 どうやらハリュウがここに参上するまでの時間を賭けていたらしい、それぞれ値踏みするような瞳でハリュウを見つめていた。

 そんな特徴的な3人の共通点、それは美しい女性だということだった。

 タイプは違えど、それぞれが一目で分かる魅力を持っている、それは容姿だけではなくその内に秘めた力にも起因しているのだろう。

 彼女たちはこのデズモスの実質的な運営を担っている三次長。

 術次長、『サラ・(シアン)・グリードマン』

 戦次長、『ナターリヤ・ロマーノヴナ・ワシリエワ』

 策次長、『マーラー』

 つまりこの場にはデズモスの上層部が勢揃いしていたのだ。

 ちなみに、次長という名称は『大佐の次にその分野で優れている者』という意味である。

「さて、まずは『主役』くんの今回の希望を改めて聞きたいですわ」

 作戦の立案や任務の調整を担う策次長、マーラーが最初に口を開いた。

 大佐はただ、満足そうに頷いている。

 静かながらも、とても重く厳粛な空気が流れる。

 ハリュウは唾を呑み、大きく深呼吸をすると、意を決して今回の要望を声に出す。

「大佐っ!」

「おう」

 ハリュウの手に力が無意識に入る、足の震えも止まらない。

 だが、大佐の鋭い視線をハリュウは受け止めた。

「オレ……オレにも特別訓練をしてください!!」

 それ以上は直視できないのもあって、ハリュウは90度頭を下げた。

 一瞬の間、ハリュウのこめかみを汗が伝い落ちる。

『あ、それは無理だ』

 それだけで力のある大佐の言葉に、ハリュウがへなへなと頭から床に崩れる。

 特別訓練というのは、過去にセイガが大佐から直接受けた模擬戦闘のことである。

 そのお陰でセイガの実力は飛躍的にアップしたが、一歩間違えば精神か肉体、あるいはその両方に致命的な影響を及ぼしかねない危険なものだった。

 ハリュウは、その過酷な試練を望んでいたのだが……

『どうして、「主役(おまえ)」は特別訓練を望んだんだ?』

 大佐がハリュウを指差す、その返答によっては今後の自分の立場も変わるだろう、ハリュウは正直に自分の気持ちを口にする。

「オレは…このままセイガに負けたくないんですよ」

 声にして、改めて自分の不甲斐なさをハリュウは実感した。

「初めて、アイツと戦った時は正直……まだ自分の方が上だと思ってました、アイツは自分の力に悩んでたし、オレの方が手数や経験が多いから最終的にはオレの方がまだ強いと思ってたんですよ」

 でも、それからセイガは大佐の特別訓練や、数ある強敵との戦いで自分の力にも気付き……強くなっていった。

「オレの任務はセイガ達のサポート、それからユメカさんの護衛です。別にセイガの方が強くても任務には支障が無い……けれども」

 ハリュウは再び立ち上がって、大佐を見上げる。

「オレはセイガに勝ちたい! だから大佐、オレにも訓練をつけてください!」

『同じことをしたら、強くなれると甘く考えているのか?』

 凍るような大佐の言葉だった。

「いやっ、そうだけど……それだけじゃあ無いです!」

 ハリュウは自分の浅はかな考えが見透かされたようで、恥ずかしかった。

『ふ、言い方が悪かったな、実は「主役」に掛けてやれる時間が今の俺には単純に無いんだよ』

 大佐が優しく微笑む、デズモスの活動は多岐に渡るが、特に大佐でしか行えない任務が非常に多く、大佐はとんでもなく忙しいのだ。

 この会談自体、ようやく作ることのできた時間だった。

『俺も「主役」の覚悟は理解している』

「大佐……」

 尊敬する大佐にそこまで信用して貰って、ハリュウは正直泣きそうになる。

『それで、だ』

 改めて、大佐がその長い首を動かす。

 その表情は、なんだか楽しそうだ。

『代わりに三次長のうち、ひとりだけに長期間特訓が可能になるよう調整した』

「…え?」

 ハリュウの視線が自然と3人の美女に注がれる。

「ハリュウ、好きな娘を選べ!」

「えええ!?」

 自他共に認める女好きのハリュウとしては、この個人レッスンは願ったりというかとんでもなく魅力的な提案だった。

 しかも3人はそれぞれ、戦闘能力も桁違いだから、相当な効果も得られる。

 そう、その中からたったひとりだけを選ぶ…それはとても悩ましい選択だった。

「……」

 3人とも無言だが、自分を選ぶだろうという自信が見えている。

「……」

 ハリュウもまた、無言のまま、3人を見比べる。

 その姿はまるでちょっと妖しいお店で女の子を選ぶような…そんな雰囲気だった。

「どうすればいいか……分かってるわよね?」

 サラのまっすぐで艶やかな瞳

「マーラーには既にお見通しですわ」

 マーラーは軍帽を直しながら上目遣いで見上げる

「お前、強くなりたんだろ?」

 ターラが犬歯を見せながら見下ろしてくる

 それぞれの視線を感じながら、ハリュウは一瞬、大佐を見る。

 大佐はただ、座すのみだった。

(もう、行くしかない)

「……ヨシ、決めた!」

 ハリュウが大きく、自分の意志を見せるよう声をあげると…

 失礼かとちょっと戸惑ったが、思いっきり意中の相手を指差したのだった。

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