第78話
お互いに、本気の勝負だった。
だからこそ、セイガはシオリに勝てて嬉しかったのだが……
「……どうしましょう?」
実は勝てると思っていなかったので、何をお願いするか考えていなかったのだ。
「ふふ…変な人ですね、あなたは本当に」
シオリがゆっくりと立ち上がる、その時、最後の一撃で微かに破れた懐の辺りから、何かが滑り落ちる。
それは
「主からの、お守り……」
あの夜、主から貰った自作のお守り袋だった。
シオリが再誕した際に、このお守りと着慣れたメイド服、それから恩師より賜った双剣も一緒に身に着けていたのだった。
「……あれ?」
シオリが手に取った時、袋の口が少し開いていて、中に何かあるのが確認できた。
お守りの中身は、なんとなく見ない方がいいと、シオリは考えていたので今まで開けたことは無かったのだが。
「……この紙は、手紙?」
そこには小さく折りたたまれた紙片が入っていたのだ。
シオリがゆっくりと、その中を開く。
『シオリへ
あなたがこれを読んでいる頃にはきっと
わたしはあなたの傍にはいないでしょう
だから大切なことだけ
ここに書いておきます
どうか、わたしがいなくても元気でいてください
わたしのことは忘れて新しい主をみつけてください
でも、時々わたしのことも思い出してください
はじめて会った時
わたしはあなたに同情していました
でもずっと一緒にいて、それは間違いだと気付きました
あなたはわたしにとって
とても大切な存在になったのです
だからわたしはあなたに生きていて欲しいのです
離れてもあなたをずっと想っています
シオリ 大好きよ
ヒナキより』
「ううう……」
声が出ない、涙が止まらない。
「あ~~~~~ん!うあ~~~~~~~ん!!!」
シオリは号泣した。
大切で大切で、自分の命よりもずっと大事だった主。
その想いにシオリは初めて触れた気分だった。
それから数分後、ようやくシオリは泣き止む。
「ああ、ここが閉鎖空間で本当に良かったですよ」
真っ赤になった目元を指で擦る。
ここにはほぼ全壊した学園の隠れ亭とセイガしかいない。
泣き声を聞くのもセイガだけ、そう、セイガだけ
「シオリさん……俺、願いが決まりました」
泣き腫らし、座り込むシオリにセイガが手を差し出す。
「……どうするのですか?」
ちょっと拗ねたような表情でシオリはセイガを見上げる。
まさに泣きっ面に蜂といった風だった。
「俺は正直、シオリさんの主になれる自信がありません」
「……そうですか」
「でも決めました、シオリさん、本当に俺があなたの主に相応しいかどうか、近くで見ていて貰えませんか?」
…シオリは、おずおずとセイガの手を握る。
温かくて、しっかりした手、戦う男の手だ。
「それって」
ゆっくりと立ち上がり、息が届く程近くでセイガをみつめる。
「シオリさんさえ良ければ、俺達と一緒に来てください」
「………はい!」
そして、セイガは新しい仲間
『完璧なメイドさん』を手に入れたのだった。




