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第71話


 第3章



 サウスビーチ3日目、この日は前日の大宴会のダメージが皆残っていたのか、午前中は比較的おとなしめに各自過ごしていた。

 午後は昼食とお土産探しで街中を散策、あっという間に帰宅の時間となっていた。

「さあみんな、準備はいいかい?」

『は~~い!』

 行きはハリュウのウイングで移動したのだが、帰りは学園郷を縦横に結ぶ高速鉄道を利用するとのことで、大きな駅に一同が集結していた。

 主に自動操縦とはいえ、ハリュウだって疲れたので休みたいというのがその理由だった。

 大きな荷物は別に配送したので、身軽になっている面々はホームに既に停車している高速列車の前にいるわけだが……

「なんでメイ坊はそんなに大荷物なんだよ」

「むぅ、だって美味しそうなお土産があんなにあったら絶対買っちゃうじゃん」

 メイの両手は幾つかの紙袋で埋まっている。

「全くもう…ユメカさんもそう思いますよね?」

「……あはは」

 見るとユメカの手にもお土産の詰まった大きな鞄がある。

 というかレイチェルや海里、瑠沙にキナさんなど殆どの女性陣が大荷物になっていた。

 セイガもその光景に驚きながら、ドアの開いた車内へと皆を誘導する。

 まとめて席を取ったので、この車輛はセイガ達の貸し切りになっていた。

「すごくひろいです~」

 軽装のルーシアがきょろきょろ見回りながら席へと着く。

「フランはアルザスの隣、いいでしょ?」

「構わん」

「はは、妙にお似合いのカップルだねぇ」

 フランとアルザス、アルザスは強引に同行させられたのだが、ふたりが並ぶ様子を反対の席でリチアが楽しそうに眺めていた。

「あと5分程で出発するから、みんな気を付けて!」

『は~~~い!』

 セイガは一番出入口に近い席の脇に立ち、全員の様子を確認、問題は無さそうだ。

「ふふふ、こうしてると何だか修学旅行みたいだなあ」

 そんなユメカの言葉に

「修学旅行?」

 セイガは額窓で確認

「うん、同じ学年の学生が揃って旅行するんだよね」

「そうか、確かにこれも修学旅行みたいなものかも知れないね」

 4‐17支部の所属が多いのだから。

「そうしたらセイガは引率の先生かな?」

「ユメカさ~ん、先生は私ですよ~?」

 こっそりお昼からお酒を頂いているレイチェルが楽しそうに手を振る。

 その手には缶ビールが握られていた。

「セイガ先生、この人酔っぱらってます~」

 そして何故かまだいる上野下野がその相手をさせられていた。

 こうして、そんな楽しい雰囲気のまま、高速列車はセイガ達をイーストアカデミアまで送り届けた。

 ちなみに、殆どの生徒は道中すっかり熟睡していたようだった。


「おかえりなさいませ、皆様お疲れでしょう、夕涼みでも如何ですか?」

 学園の隠れ亭では、メイドのシオリさんが何故か水着で出迎えてくれた。

「何故水着!?」

 紺色のワンピース型、ヘッドドレスも付けており、見方によってはメイド服にも見えそうなデザインだ。

(わたくし)の水着姿にも需要があると思いまして……ぽっ」

 相変わらずの彼女に、セイガは少し安心した。


エキシビジョン

上:9点、メイド愛と情熱を感じる、サプライズとしてもグッドじゃの

ハ:9点、なんか凄くエロい気がするのは俺だけだろうか、疲れてるから?

J:10点、困りました、非常に善い水着だと思います


「セイガ様はもう水着はお腹いっぱいですか?」

「あ、いやそういう訳ではないのですが……」

 いつもとちょっと違うかもしれない。

 近付いてきたシオリの呼気から、微かにいいお酒の香りがしていた。

「お庭にさっぱりとしたお食事と足湯をご用意しましたから、皆様こちらへ♪」

  

「はぁ~いいお湯でしたね~♪」

 そう言いながらユメカが硝子のお猪口に入った日本酒を飲み干した。

 ここは学園の隠れ亭一階、食堂の隣りにあるバーカウンター。

 照明の明るさを少し落としたゆったりした雰囲気、壁際の棚には沢山の銘柄のお酒が各種並んでいる。

 酒好きのシオリさんが毎夜お酒を提供してくれるので、セイガも何度かお世話になったことがある場所だ。

 今夜はみな疲れていたので、今回はユメカとセイガ、それからラザンがシオリのお客様だった。

「さあさ、もう一杯♪」

 シオリが自分のグラスに注いでから、ユメカに先程とは別の日本酒を振舞う。

 余興の水着姿ではなく、いつものクラシカルなメイド服姿だ。

「うふふ、ありがとうございましゅ~♪」

「おいおい、あんまり飲み過ぎて明日からのスケジュールに穴を開けるなよ?」

 缶ビールを飲みながらラザンがユメカの肩を揺らす。

「おととっ」

 余談だが、ユメカはお酒を飲んでいい、そうこのワールドでは認められている。

 その辺りは各自の額窓で証明することができるのだ。

 まあ、そもそも自由度の高いこのワールドでは誰がお酒を飲んでいても咎める者など殆どいなかったりする。

「やだなぁ、ラザンったら……この程度で私は潰れたりしないのでございますよ? うふふ☆」

 酔いが回っているのかユメカは上機嫌だ。

「まあ、コイツはコイツなりに頑張ってるから許してやるかぁ」

「ラザンさんから見て、ユメカのライブはどうなのですか?」

 ちょっと小声でユメカ越しにセイガがラザンに尋ねる。

「あ~、悪くは無いぜ、てゆーか俺が絶対に成功させてやる」

 飲み終わった缶を潰しながらラザンが断言する。

「姐さん、今度は生ビールひとつっ」

「はいはい~」

 おそらく予想していたのだろう、即座にラザンの前に冷えた生ビールのジョッキが届く。

「サンキュ~♪」

「本当に楽しみにしています、ライブって……凄く熱いですよね」

「そう! ライブは戦場なんだよ!」

 そんな大きな声の後、ちょびっとお酒を口にするユメカ。

「戦場……か」

 確かに、自分の知っている戦場と、ライブの空気には、少しだけ似ているものをセイガも感じていた。

「メイドにとっては家こそ戦場ですけどね」

 シオリはウイスキーを舐めながら、対峙する3人を見回す。

「私は、歌手として、こうやって歌うコトができて……幸せだなぁ」

 微妙に噛み合っていないが、ふたりは親愛の握手を交わす。

「ところで、シオリさんはどうしてメイドになったんですか?」

 ユメカの澄んだ瞳がシオリに注がれる。

 シオリのプロフェッショナルな所を、ユメカはかなり尊敬しているのだ。

「ええと……話せば長い話になりますよ?」

 やんわりと、シオリが話を切り上げようとする。

「それでも聞きたいです!」

 珍しく、ユメカが食い下がる。

 正直な所、セイガもシオリの過去が知りたくなっていた。

 どうしてフリーのメイドをしているのか

 そしてどうしてあんなことまで平然とできるのか……

 きっと過去にその秘密がある、そうセイガは思っていた。

「……」

 そんなセイガの視線を感じたのか、シオリは溜息をひとつ吐くと、棚にある一番アルコール度の高いお酒を一気に飲み干した。

 *危険ですので絶対に真似をしないで下さい*

「………いいでしょう」

 眠たげな瞳、細い指がカウンターをなぞる。

「冥府魔道、略してメイドに堕ちたいと言うならばお聞かせしましょう」

 そして、シオリの昔語りがはじまった。

 それは、セイガ達の想像以上に、悲しく苦しい話だった。

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