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第70話

 大盛況のまま、花火大会は終了した。

 ユメカの事情を知るのはほんの一部の人間だけな上、ユメカもすぐに平気そうにしていたため、結局それ以上は誰も詮索せずに、楽しくイベントは続いたのだ。

 観客席にいたみんなと合流したセイガ達は、海里達も含めた大人数での最後の夜を海沿いのレストランでの宴で過ごした。

 とても充実した、大切な思い出。

 総勢20人以上の大宴会は夜遅くまで続いた。

 そして……


 ようやく静かになった白妙(しろたえ)の浜へと続く道を歩くふたりがいる。

 セイガとユメカだ。

 ユメカが心配だったセイガが、ユメカを海に誘ったのだった。

「あはは、こう静かだとあの喧騒が嘘みたいだね」

 道端には所々、カップルらしき影は見えるが、主に静かにしているので、波音だけがふたりの耳には届いている。

「ああ、何ていうか……良かった」

 周囲の雰囲気から、ここに誘ったことに照れ始めていたセイガだったが、ひとまず思った以上にユメカが元気そうだったので、それが嬉しかった。

「うふふ、セイガは私のコトが心配だったんでしょ?」

 くるりと、セイガを見上げながらユメカがいきなり核心を突く。

「……気付かれてしまったか」

「そりゃあね、でもありがと……もう今は大丈夫だよ、むしろまた心配かけちゃってゴメンね」

 お互いに照れ笑いひとつ。

「今回はイケると思ったんだけどねぇ、やっぱり攻撃が出来ないや」

「きっと……ユメカは戦闘には向いていない、心根が優しいからだろう」

「それは多分違うかな……ふふ、私結構攻撃的な女だよ?」

 ユメカが即答すると、浜へと続く階段を先に登った。

「思い出したくないだけで、きっと理由はあるんだと思う……多分、前にいた世界の私にはね」

 ユメカが再誕する前の世界。

 なんとなくセイガがいた世界よりも文明が進んでいることは聞いてはいた。

 しかしユメカからそれ以上の話をしたことは今まで一度も無い。

 だからセイガも気遣って聞こうとはしなかった。

「ありゃ?」

 不意にユメカが素っ頓狂な声を上げる。

「ありゃ!?」

 そして同じく浜辺の方からも声がする。

 そこには偶然、浜辺に佇む海里の姿があった。


「ははは、まさかこんな所でふたりに会うなんてね……」

 海里は変な所を見られたような素振りで、セイガ達に近寄ってきた。

 寝る前に出掛けたのっか、シンプルなパジャマ姿である。

 ユメカの方も髪を三つ編みにして、お気に入りの寝巻に上着を羽織っていて帰ったらもうすぐ寝るといった感じだ。

「海里も…おさんぽ?」

「ああ、ははは何かあんまりサウスビーチ(ここ)が楽しかったんで…少し淋しくなっちゃったみたい」

 似合わないと思ったのか、頬をかきながら海里が恥ずかしそうに告白した。

「そうか」

 セイガとしては、そんな風に考えてくれるのは、とても嬉しい。

「俺も、本当に楽しかった……ふたりともありがとう」

 頭を下げた時に改めて、瞳に込み上げるものをセイガは感じた。

 そして顔を上げた時に、見えたのはふたりの笑顔。

「ふふ、変なのっ♪」

「頭を下げるようなコトじゃないって」

「ちなみに海里は何が印象に残ってる?」

「あ~~~、そうだなぁ、やっぱりビーチで遊びまくったコトかなぁ、景色も良かったし、夜の神社も良かったな☆」

 そう言った海里が悪戯っ子の笑顔でウインクを送る。

「夜の神社?そんなトコにいつ行ったの?」

 ユメカが遠くの海の上に見える神社を不思議そうにみつめる。

「ははは、ひみつ~♪」

 さすがに海里もバラすつもりは無いのだろう、口に指を当てて口角を上げた。

「え?まさか今さっき?」

 ユメカはついひとさし指を海里と神社に向けてしまい、あわあわとする。

「だから秘密だってば~」

 そんなふたりの会話をセイガはドキドキしながら聞いていた。

「ユメカさんはやっぱさっきのアレが楽しかった?」

 花火大会のことだ。

「ああもうっ それはもうイイってば!」

 ふざけられる位には、ふたりにとっても楽しい思い出になったらしい。

「結局水着コンテストはユメカさんの優勝で終わっちゃったもんなぁ」

 そう、アレから最終集計が行われて、正式に『第1回!最強水着コンテスト』はユメカの水着が受賞したのだ。

 あくまで『水着』のコンテストなので、讃えられるのは水着なのである。

「うふふ、ホントは誰にも見せないつもりだったんだけどなぁ?」

 今度はユメカがセイガの方を見てにんまりと微笑む。

 セイガはどうしてもあの時のことを思い出してしまう。

「セイガ氏は? ナニが一番嬉しかった?」

 ぎゅっと距離を詰め、海里がセイガを見上げる。

「あ~~~」

 どうにか他のいい思い出をセイガは思い出そうとするが、それ以上に鮮明にふたりとの思い出が頭から離れない。

「ハンバーグが、美味しかったな」

「いや、アンタこっちに来てからハンバーグ食べてないやん!」

 海里がセイガの頭に軽くチョップをする。

「あはは♪」

 海里も自分達にすっかり心を許してくれている、セイガにはそう思えた。

 その分、隠し事をしているのが心苦しくもあった。

「でも、楽しい旅行はまだ終わんないよ♪」

 ユメカが指を大きく天へと向けた。

「へ?」

「うふふ、学園郷での滞在はもうすぐ終わっちゃうけれど、家に帰ってからもイベントはまだ残ってるんだからね☆」

 そう言って、ユメカが今度は自分を指差す。

「そう、私の記念すべき初ライブがあります!」

『わ~~♪』

 思わず拍手をするセイガと海里、ユメカには内緒にしているが、海里はユメカの歌の大ファンなのだ。

「いっぱい練習して、私のできる最高のライブにするから、楽しみにしててね♪」

「あはは、調子に乗って歌詞を忘れたりしないでね」

 誰のことかや、海里が笑いながらユメカの背中を叩く。

「大丈夫、少しの間違いならそのまま間違ってないフリして歌っちゃうもん」

 大丈夫なのかはさておき、ユメカは自信満々だ。

「俺も楽しみにしているよ」

「ワイもワイも……ふふふ」

 海里は不意に、何か良い手をを思いついたような笑顔になった。

「?」

「確かに、海里達が第6リージョンに帰るまでにはまだ時間があるから、俺達もそれまで一緒に楽しめたらいいな」

「そうだね」

「よろしく頼むぜ、大将☆」

 3人の笑顔が重なる。

 満天の星の下、セイガは大きく息を吸う。

 この一瞬がずっと続けばいいのに、そう感じながら…… 

 サウスビーチでの旅は最後、ちょっとだけ心配はしたけれど、結果としてユメカも元気になったようだし本当に良かったと思う。

「あっ、流れ星!」

 ユメカのゆびさきが星をなぞっていく。

 こうして、セイガ達にとって忘れられない大切な夏の思い出がまたひとつ増えたのだった。

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