第67話
「さあ!
花火三番勝負、伝統の最終戦はこちらっ
『フィールド花火コンバット対決』でっす!」
セスの宣言に合わせて観客のボルテージも一気に上昇、どうやら言葉の通り恒例の競技らしい。
「これから各軍代表による、一騎討ちバトルが行われるわけですが
戦場はこの特設フィールドとなります!」
勇壮な音楽に合わせて、ステージの先、海上に立方体の透明な力場で形成された特設フィールドが出現する。
「おお」
話には聞いていたが、実際に見るとさらに迫力を感じて、さすがのユメカも驚きの声を上げてしまった。
「武器は各軍、特殊な花火を用いた物のみ
『真価』や『固有能力』は一切使用禁止となります
花火による攻撃で、フィールド外へ出た選手の負けとなり
残った選手の陣営がこの三本勝負の勝者となります♪
果たして、勝利の栄冠を得るのは科学か、魔法かっ!」
特殊な花火というのは、熱さやダメージを極力抑え、選手を弾く衝撃だけを残したものとなっており、防げなかった場合、かなり派手に飛ばされるという品だ。
ユメカには魔法花火を直接射出するステッキと、魔法花火によるシールドを展開するリングと、移動のための魔法花火を揚力に充てた箒が手渡されている。
「ふぅ……やはり緊張するね、はは」
ステッキを軽く振りながらユメカの苦笑い
セイガとしては本当ならば自分が代わりに出たい位だったが、ここは最初から決まっていたカードだったのだ。
カラメッテとウブスキーの狙いは
『可愛い女の子によるポップなバトル』なのである。
結果、各軍で一番身体能力の低く、かつ可愛らしさを重視してユメカと瑠沙が選ばれたのだ。
「それではまずは魔法花火軍団の代表は~~
ユメカ選手!!」
歓声に応える形でユメカが両手を振りながらステージ中央へ躍り出る。
ポニーテールが揺れ、紫色の毛先が風を纏う。
「続いて科学花火軍団の代表
瑠沙選手!!」
瑠沙も可愛らしくぴょぴょんと跳ねながらユメカの隣りに出る。
改造された浴衣はとても似合っていて可愛らしい。
一方のユメカもパーカーとホットパンツをつけているが、下は水着姿であると想像されるため、観客は期待を持ってユメカをみつめていた。
「お互いに握手をお願いします!」
「……よろしく」
「はい、よろしくだよ☆」
視線を交わしながら、ふたりの手が触れ合う。
その刹那、瑠沙がユメカにだけ聞こえるように呟いた。
「……ユメカさんには負けたくないです」
その真剣な瞳に、ユメカも驚く、ユメカから見て瑠沙はいつもどこか装っているイメージがあったのだ。
ただ、それは本当に一瞬のことで、瑠沙はすぐさまいつもの営業スマイルに戻ると手に持った剣、ライトセーバーを振り回しながら
「よ~~し、やっちゃうよ~~!」
と観客にアピールをした。
臨戦態勢だからか、いつもの銃とは違う剣を主武器としているからか、瑠沙の口調は少しだけ普段と違って聞こえた。
「うふふ、私も頑張ります!」
ユメカも負けじとステッキをブンブンと振り回しながらステージ奥まで瑠沙と共に移動する。
「両者が遂にバトルフィールドへと移動します!」
透明な力場の床がふたりを特設フィールドまで運び、薄く発光する壁を抜け、フィールド内の中央、床面まで到達した。
ユメカ的にはガラス板の上に乗ったような気分、高所恐怖症では無いけれど、周囲が透けて空中に立っている感覚は、少しだけ怖かった。
けれど、それ以上にワクワクというか、楽しみが上回り、ユメカの戦意を向上させていた。
「よっし、大丈夫……」
「このライトセーバーの餌食にしちゃうよん♪」
ふたりの声はマイクにより会場にも届いている。
「どうやら、準備が整ったようですね
それでは~~~
最終戦~~~
レディ~~~
ファイト!!」
セスの掛け声を皮切りに、戦闘曲が流れる。
まずはお互いにメイン武器から花火を出し合う。
「おおっと
花火の応戦だぁ!」
ユメカは初撃を避けながら瑠沙へと花火を打ち続ける。
瑠沙もそれらを躱し、時には剣で薙ぎ払いつつ花火を返す。
フィールドはお互いの放つ花火で七色に輝いていた。
「なぁ……この勝負どうなると思う?」
そんなキラキラと鮮やかな戦闘を眺めながら、ハリュウが隣りのセイガに尋ねた。
「そうだな、瑠沙はやはり運動能力を『真価』か『固有能力』で底上げしてたんだろうな、本来の動きじゃないよ」
セイガは豪華客船「ティル・ナ・ノーグ」号で瑠沙と行動を共にした時があり、その際に瑠沙の意外と俊敏な動きを見ていた。
ハリュウも彼女のステルス能力を高く評価している。
それと比べると確かに今の瑠沙の動きは緩慢で、歳相応の女の子のように見える。
「だよな、とはいえ戦闘経験が段違いだからなぁ……」
ユメカも最近はライブに向けてランニングを日課にしていたり、学園で護身術の講義を受けていたりとかなり体力向上に努めてきた。
しかし、戦闘競技であるWCSの上位プレイヤーである瑠沙とは、そもそも実力が違うのだ。
「それそれ~♪」
最小限の動きで回避しながら攻撃する瑠沙に比べて、カンでどうにか躱しているユメカの方はどうしても疲労が大きかった。
「はぁはぁ……うりゃあ!」
大きく飛び退きながらユメカが大きな花火を射出する。
しかしそれも炸裂する前に瑠沙のサブ武器、片手花火銃で撃ち落されてしまった。
「しかも射撃の精度も段違いなんだよな」
めったやたらとステッキを振り回すユメカに対して、瑠沙の花火は確実に標的を狙って打ち出されている。
たまに見当はずれの方向にも撃っているが、それは寧ろ、瑠沙のサービスなのか敢えて無駄玉も交えているようにセイガには見えた。
「正直、このままだと難しいかも知れない……でも」
「でも」
セイガは力強く頷く。
「俺はユメカの想像力と負けん気を信じる、ユメカはそう簡単には負けないよ」
ユメカの笑顔は、まだ消えてはいなかったのだ。
そんなユメカは、かなり興奮していた。
(ナニコレ……キッツいけれど、楽しい!)
大観衆に見られる中、全力で動き、ただ闘う。
それを繰り広げているうちにユメカのテンションはMAXになっていた。
「えいや!」
前のめりになって花火を躱すと、ユメカはそのままステッキを振り上げて攻撃をする。
それはあっさり防がれてしまうが、その隙に何度も花火を出して追撃をした。
(ヤバい、これはおだっちゃうかも?)
攻撃に集中した瞬間、瑠沙からの花火が弧を描くように飛んでくるが、それはなんとか指輪からの花火シールドで相殺できた。
「いっけーー!!」
何とか、瑠沙の攻撃は見えている。
今のユメカはある意味絶好調だった。




