第65話
待つと言っても、イベントが始まってしまうと暇を感じることは無かった。
何故なら
「さあ、今年も始まりました~♪
サウスビーチ花火大会
司会はあたし『ウッドバーグ王国の家出姫』こと
セクレア・オルツ・ウッドバーグがお届けしまっす!」
セスはこのための衣装、黒いビキニに白いレース状の羽織りものを身に纏った水着を用意していた。
上:7点、ちょっと大人びている感もあるが、清楚と高貴さは十分ある
ハ:8点、周囲の視線を集めるが上手い、黒は単純にイイ
J:8点、高級なものなのがすぐ分かる、水着に着られている点が少々減点
観客の大歓声、さらに可愛いセスの軽快なトーク
随所で打ち上がる華麗な花火
さらにステージでは歌やダンスやオーケストラの演奏が続き、花火と共に会場を華々しく彩っている。
「うわぁ……綺麗だねぇ」
メイのうっとりとした声、準備室からは直接ステージは見えないが、大きなモニターで会場の様子は確認できるし、花火は直接見ることができる。
それはとても楽しい時間だった。
そして、あっという間にセイガ達の出番がやってくる。
「次はいよいよ
いやホント全部メインと言ってもいいのですが
その中でも今回のメインイベントと言ったらやっぱりコレ!
『魔法VS科学 伝統の花火三番勝負!』ですよね~?」
セスの煽りに会場も大歓声で応えている。
本当に皆が楽しみにしている企画のようだ。
「これまでの成績は10対10でま~さ~に互角!
因縁の対決に終止符は打たれるのか?
まずは魔法花火軍団の登場です!」
「行くぞっ」
歓声を浴びながらカラメッテを先頭にセイガ達がステージへと移動する。
セイガは、こんな風に大人数の好奇の視線を受けるのは、大レースの表彰式以来だったのだが……やはり慣れるものでは無かった。
隣りのメイもかなり緊張している。
ハリュウは肝が座っているのか、平気そうだし、ユメカに至っては表情が寧ろ普段より輝いて見えた。
(やはりユメカには戦いよりもこういう場の方が似合うな)
セイガはそれが嬉しくもあり、眩しくもあった。
「カラメッテ博士、今年の戦力はどうですか?」
「うふふ、今年は大当たりを引いたよん♪」
モニターにセイガ達の顔と名前が表示され、会場のボルテージも上がる。
「噂の『スターブレイカー』に
それからデズモスの構成員とか
コレってホントに一般客何ですか?」
どっと会場から笑いがこぼれる。
「ちゃんとビーチに遊びに来ていた所で声を掛けたんでセーフだよん☆」
「確かにそうですね
それから女性陣は美少女枠ってコトですか?」
「モチロン、重要な要素だよね~」
セイガ達はホテルに戻る前に確保されたので、まだ水着に上着を足しているだけの姿だったが、その開放的な姿が寧ろ大衆の心を掴んでいた。
メイは特に視線を感じてしまい、照れながら俯く。
(うううう、恥ずかしくてもう……ダメかも)
「続いては科学花火軍団の登場です!」
拍手と音楽に合わせて、ウブスキーが登壇する。
その後ろにいたのは……
「うえ~~~~~い!」
皮手袋をした片手を高らかに上げて、赤いドレスを翻す女帝、海里の姿があった。
「やっぱり……」
メイの溜息、セイガも何となくだがこうなる予感はしていた。
海里に続いて、水色のフリフリ多めの浴衣を着た瑠沙、いつもの恰好のフランとJが集結する。
「へへへ、今年は何と第6リージョンからの観光客を捕まえたぞい
こりゃわいらの勝ちは確定じゃあ!」
「ワイ等がこの場をいただくで~~!」
海里の声に会場もさらに盛り上がる。
「なんと!
まさかのシックストからの刺客ですか
確かに科学とは縁が深そうな場所ですからね
これは面白くなりそうだぁ!」
セイガ達と海里達、8人が向かい合い、その闘志に火をつける。
内容は事前に聞いているので、段取りは分かっているが、それでもこれから始まる展開にセイガの気分も高まっていた。
「まずは第一番勝負!
どちらがより高くまで花火を打ち上げられるかっ
『最高到達点対決』~~~♪
これはそのまんま、お互いに自慢の花火を打ち上げてその高さを競います
高度の判定は公平を期すため、運営が用意した計測装置を使います♪
打ち上げ担当は……
ハリュウ選手と
海里選手!」
セスの紹介に続いてハリュウと海里にスポットライトが落ちる。
「これは勿論、各陣営の花火の性能も大事ですが
上手く打ち上げるための調整も重要です!
その細かい手順が勝敗を分けるのではないでしょうか!」
セスの解説、その間にふたりがセッティングに入る。
セスの言う通り、セイガ達の魔法花火も使用者の集中力や照準によって結果が変わるような仕様となっている。
ちなみに、選手については両博士の意思が反映したものとなっていた。
それは単に誰が最適か、というばかりではなく、イベントの盛り上がりも考慮したものとなっていた。
ハリュウは手順通りに準備をしながら少し前の準備室での会話を思い出す。
「魔法花火って一体どんなんなの?」
それはメイの素朴な疑問から
「花火ってアレだよね、大きな玉に小さな火薬の玉が沢山入ってるやつ?」
「ユメカさんの言っているのは科学花火だよん、魔法花火って言うのはね、色や運動等の特性をつけた沢山の火球を操る魔法、あるいはその魔法を簡単に扱えるように作った装置の事をいうよん♪」
そう言うとカラメッテはアロハのポケットから色と模様の付いた紙を取り出した。
『これは?』
ハリュウ以外の3人の声が被る。
「これが魔法花火の術式、これの起爆点に手を添えて魔力を送ると魔法花火が飛び出すんだよ~ん」
紙の中心に目立つ印が記されている、これが起爆点らしい。
「触ったら爆発しちゃうの?それは絶対怖いなぁ」
「触るだけじゃあ起動はしないよん、キチンとイメージしながら魔力を注入しない限り安全装置が働く仕組みさ」
ハリュウの目の前には2m四方の大きな紙が敷いてある。
ここはステージ最後方、海に近く屋根も無い、少し周りと隔てた場所だ。
ハリュウはゆっくりと屈み、その術式の起爆点、青い文様に手を置いた。
「さあ、準備が整ったようですね
まずは魔法花火軍団の挑戦です!」
セスの声に合わせて、BGMが緊迫したものとなる。
周囲が静まる中、ハリュウが術式を起動させ、すぐさま後ずさった。
大きな紙は光り、文様を浮かばせながら大きな一つの火球となる。
そして、勢いをつけて、一気に天空へと打ち上げられた。
『おおお~~~~!』
位置的に、観衆のほぼ真上に打ち出された大きな火球は、その姿が点になるほど高くへと至り……
大空に青く大輪の花を広げた。
夜空に浮かぶ巨大で丸い花火、ちらちらと残り火を落とし、消えた。
余韻と共に感嘆の声が上がる。
「お、測定結果が出たようですね♪
只今の記録、1210m!!
ちなみにこれは炸裂した時の高度ではなく
花火全体で一番上まで行ったものの高さです!」
「よっし!」
想定以上の結果だったようで、ハリュウが拳を握る。
こういう繊細で細かい調整ならば、おそらくセイガ達4人の中ではハリュウが一番得意と言えるだろう、いい判断だった。
「かなりいい成績が出ましたねぇ」
「ふっふっふっ、今年の術式はさらに改良を加えた最高傑作だからね」
「ふん、あの程度で吼えるようじゃこっちが困るわい」
口ではそういきがっているが、ウブスキーの表情には焦りが見える。
「ささ、続いては科学花火軍団の番ですね~
配線は終わりましたか~?」
科学花火の方の発射台は流石にステージ上ではなく、海辺の特設場にセッティングされている。
制御盤がステージに置かれていて、そこから発射信号を送る仕組みだ。
「私はコレ、ただ押せばいいんだよね?」
花火自体の細かい調整は発射台の方にいる専門のスタッフの仕事なので、実際のところ、海里がすることはボタンを押すくらいなのだ。
「一応風向きとか気圧、発射装置の出力だとかの情報がこのモニターに随時映ってるから最適な瞬間に押してくれい」
ウブスキーが示すモニターには、多くの情報が目まぐるしく飛び交っていた。
「は? コレ……スロットみたいにクルクル回ってるんですけど?」
「一番いいタイミングで押してくれい」
グッドサインを送るウブスキー
海里は押し黙る
「では、科学花火軍団の挑戦です!」
「ポチっとな!」
『……あ』
BGMが変わる暇も無く、海里は即座にボタンを押した。
静寂の後、海辺の発射台から最大級の大きさの花火が射出される。
それは会場からでも判別できるほど大きい、科学花火はその仕組み上、大きなものほど高く上げることが可能なのだ。
そして皆の期待が膨らむ中……
不意に花火が炸裂した。
「えっ?」
想定よりも遙かに低い高度で破裂した花火の衝撃は会場まで届く。
『わぁぁぁ!!』
火球が地上に着くくらいの巨大な花火は迫力というか、凄まじかったが……
「記録、463mでっす」
「ナニよ今の!」
「いやあ、不具合というか、想定よりも早く炸裂しちゃったようやな」
「何か私がミスったみたいになっちゃったじゃない!」
海里が会場を指差す、凄い花火ではあったが、凄く残念な花火だった。
そう、会場の雰囲気が告げている。
「ワイは悪くなーーーい!」
「あっはは、さて気を取り直して次の勝負に行きたいと思います♪」
「だからっ私は~」
「はいはい、カイリたん大人しく帰ろうね~」
海里が瑠沙に引き摺られて退場する、代わりに登場したのが……




