第63話
一方、様々なマリンアクティビティを楽しんできたセイガ達も白妙の浜に戻って来ていた。
「はははっ、あのロケットみたいに海に飛ばされるのっ ものすっごかったねぇ」
「うん、横から見たらホントに放物線を描いていてカッコよかったよ……ボクは怖くて絶対無理だったけど」
ユメカが体験したのは陸地から大きな機具により海上へと射出されるというまさに人間砲弾になれるアクティビティだ。
勿論安全性には充分に配慮しているので全員怪我ひとつ無い。
「ボクは魔法で海中でも自由に動けて息が出来るのが楽しかった♪」
メイのお気に入りは海中散歩、体験は激しいものばかりではなく、のんびり楽しめるものもあったのだ。
「亀さんとかエイとかイルカさんとかさわり放題なのも良かった~もふもふはしてなかったけどね☆」
瑠沙の言う通り、そのエリアでは雄大で綺麗な海中を満喫できた。
「凧みたいに空から海を見下ろすのもアリだったな~、今度はスカイダイビングもぜってーしようぜ♪」
海里の提案に
「ああ、それも楽しそうだね」
同じく興奮していたセイガも同意した。
ちなみに、アクティビティは専用のウエットスーツを着用しての体験だったので、ビーチに戻って来た面々は水着に着替えているわけだが……
「セイガさん、また遊びに連れて行ってくれる?」
セイガを見上げる瑠沙は昨日とは違う水着姿だった。
白いフリルのついたビキニに、両腕と右ふとももには白いシュシュをつけた清楚でありながら魅惑的なスタイルだったのだ。
上:8点、可愛いだけではない彼女の魅力が出ていて宜しい
ハ:8点、コレを待ってた、大きなバストをもっと強調してたら最高だったのに
J:8点、水着+アクセントを入れているのが良
「そうだね……そういうプログラムを組んでもいいかもな?」
時間的に学園郷からは去った後になるが、まだ海里達の滞在期間は残っているので新たに企画を立てる時間はあるのだ。
「うわ~い、約束、だよ♪」
瑠沙はアレから、過度にセイガに触れなくなったのだが、心の距離は寧ろ近付いている感じがして、セイガとしては寧ろ意識してしまう場面が多くなっていた。
しかも
「いいねぇ……ワイらをもっと楽しませてね♪」
海里も昨日とは違う水着、上はビスチェ風のデザインで下はスリットの入ったロングスカートの様な素材を巻いている青で合わせたものだった。
そんな姿も海里に似合っていて、セイガは視線が落ち着かないのだった。
上:9点、水着というよりドレスの延長のようだがとても似合っているのでヨシ
ハ:9点、スリット最強! スタイルも充分魅せているのが素晴らしい
J:9点、彼女のセンスが発揮されている、機能性は低いがそれは仕方ないか
「ふむふむ、これは最終結果が楽しみになってきたわい」
「あ~~~っ!、上野下野さんたらまたコッソリやってるなっ?」
ユメカが指差した方には店主の姿が、実は水着コンテストの審査員はこうやって情報を額窓で共有しているので、3人揃っていなくても採点は出来るのだった。
「ほっほっほっ、今回儂らの最大の仕事じゃからの、キチンと審査はするんじゃよ~~」
捨て台詞を吐きながら店主は人波へと消えていった。
「もう、油断も隙も無いんだから……」
ユメカは、自分のパーカーの裾を両手を組みながら触れている。
その視線の先にはなんだか嬉しそうにも見えるセイガの姿。
少しだけ、モヤモヤする。
自分だって、折角頑張ってこれぞという水着を選んだのに……
見せるのはやはり恥ずかしいけれど、このままでいいとも思えない。
だったら……
「……あのね?」
ユメカが、セイガの上に羽織ったシャツの背中の部分を引っ張る。
「どうした? ユメカ」
「ちょっと……いい?」
「ああ、構わないけれど」
セイガの返事を得た瞬間、ユメカはセイガの手を引いた。
「あ~、ちょっとセイガを借りるね、後はラザン任せた!」
ユメカは早口で用件だけ告げると、セイガを連れ去った。
「……はぁ?何を任されたんだよ、俺!?」
ぽかんと、実はずっと一緒にいたラザン他、アクティビティ参加者を置いて、ユメカはエスケープしたのだった。
それから数分後、セイガとユメカは白妙の浜から数km離れた、沖合にある小さな島の、岩陰に立っていた。
ちなみにここにはユメカの『真価』、<夢空>で作った自動操縦のボートで来ていた。
移動中もお互いに無言、セイガも何を話せばいいのか分からなかった。
周囲からは見えないその場所で、ふたりはみつめあう。
セイガは既に、心臓の音が自覚できるほど、緊張していた。
『……』
潮騒だけが、耳に残る。
ひとつひとつの鼓動が、吐息が、とても遅く感じられる。
このまま、世界にふたりだけ、そんな風にも思える、そんな時間。
「……ええと、ココはね、アクティビティをしてた時にふと見えた島で、なんか面白い形をしてるなって気になってたの」
ようやく口を開いたユメカは、言い訳するようにこの島の説明をする。
確かにここは小さい周囲を岩で囲まれていて、ドーナツのような形状をしていた。
「そう……なのか」
セイガも自然と周りの岩を見渡す。
波によってはセイガ達の足下の方にも海水は微かに流れ込むが、急に流されるような心配は無さそうな……
不思議な閉鎖感をセイガは感じていた。
閉鎖感……、そう考えると、さらに意識してしまい、セイガは唾を飲み込む。
「あは……」
ユメカは拝むように両手を前にして、口元を隠している。
ふと入り込む微風に、ポニーテールにした髪が揺れ、うなじがセイガの目に強調された。
「……あ~~今から変なコト聞くけど、いいかな?」
窺うように見上げるユメカの瞳
「……ああ」
セイガの声を確認すると、ユメカは軽く息を吸い、白いパーカーのフードの部分に右手を添えた。
「私の水着……見たい?」
「はい、見たいです」
セイガの即答、ユメカは噴き出してしまった。
「うははっ……早いし、どうして敬語?」
「ああ……いや、色々と集中していたようだ、スマン」
セイガにとっては臨戦状態ともいえる状況だったのだ。
「ふふ……そっか、私の水着姿……見てみたいんだね?」
あまりにセイガが慌てているので、少しだけ余裕の戻ったユメカだった。
「正直に言うと……ずっと気になっていたんだ」
セイガは良くないと思いつつも、昨日からずっと、ユメカの姿を目で追っていた。
なので、時々ちらりとパーカーの襟から見える赤い肩紐とか、不意に見えたりするお腹の部分だとか……そういうのを見逃がしてはいなかった。
「ははは、正直でよろしい」
ユメカもセイガの視線にはある程度は気付いていたが、悪い感じはしなかった。
だから
「見せて……あげるね」
自分でも大胆だとは思ったが、ここは隔離されているし、セイガしかいないし、見せたい気持ちも無いわけではなかったし……
ユメカはゆっくりと、首元のファスナーを降ろしていく。
「おお」
おそらく無意識だろう、セイガが声を上げる。
ユメカの真っ白な肌、それを隠すのはちいさな水着だけ。
赤い下地に、白、黄、青の横ラインの入ったビキニ
柔らかそうなお腹、すこし視線を気にしてか震えている。
「はぁっ」
ユメカはファスナーを降ろすと、襟を少し開いた。
その為、水着とうっすらと汗の滲む肢体がセイガの前に曝け出される。
ユメカは無言のまま、白地に緑の縦ラインの入ったホットパンツに手をかけ……
ゆっくりと脱ぐ。
セイガは再び喉を鳴らした。
下もまた、上と同じデザインのビキニのパンツ…
白い肌とその鮮やかな赤のコントラストにセイガの目は釘付けとなる。
それから、どれだけの時間が流れたのか、セイガには理解できなかった。
ユメカは岩場に背をつけて、セイガを見上げている。
その蠱惑的な眼差しに、はたして意味はあるのだろうか……
さらさらと毛先を紫にした髪が揺れている。
汗が一筋、ユメカのおでこから目元へ流れる。
こんな姿のユメカを見ることができるなんて、セイガには信じられなかった。
そして、もう限界だった。
「綺麗だ」
それを伝えるのがやっとだった。
「うふふ、ありがと」
欲望のままに、ユメカを抱き締めたい。
そんな野生もまた、ずっと暴れてはいたが、それ以上に目の前の大切な、壊れてしまいそうなほど美しいものを傷つけたくない想いがセイガを止めていた。
「でも……これ以上は俺には刺激が強すぎるようだ」
そう言うと、セイガは熱くなった体を抑えるように蹲った。
言われてユメカはすぐさま襟を直す。
「あっ、ははは……そうだよね、うん」
ユメカも真っ赤になる。
セイガならば大丈夫だろうと思っていたとはいえ、さすがに自分も恥ずかしいし、誘惑してるようにしか思えないこの状況は、色々とマズかった。
そそくさとホットパンツを上げて、ファスナーを締め、髪を直す。
「ふふ、もういいよ♪」
セイガはゆっくりと顔だけを上げる、そこには微笑むユメカの姿があった。
情けないが、自らの股間のことを考えると、このまま立ち上がれないのだった。
(はは、変なカッコ)
ユメカもそう思ったが、セイガの事情は理解しているつもりなので、口には出さずにゆっくりとセイガの回復を待った。
「あはは、どうだった?」
数分後、ようやく立ち上がったセイガにユメカが訊ねる。
「凄く、綺麗だった、水着も……それにユメカの体も」
「体は余計だよぅ、この水着はかなり真剣に悩んで選んだのでございますよ♪」
「ああ、凄く似合っていて、ユメカらしいと思った」
「そっか、そう思ってくれたのなら嬉しいな♪」
ユメカはぽりぽりと頭を指でなぞる。
「ただ、他の人……特に男には見せたくない気がしたよ」
自分だけが、ユメカの水着姿を知っている、その優越感は相当なものだった。
「あは、それはそれはだね、ちなみにめーちゃんとレイチェル先生は一緒に水着を選んだから知ってるんだけどね♪」
「そうか……それは残念」
「うふふ」
ひとまず、冗談が言えるくらいにはセイガも落ち着いてきたようだった。
「それじゃあ、そろそろ戻ろっか、急にいなくなったから誰か心配してるかもしれないしさ…うはは」
あの場の女性陣はなんとなくユメカの行動を理解してそうだが、ラザンとか店主のことは気になっていた。
「そうだな」
「さて、船はっ…と……あ、もう無くなってる?」
ユメカの <夢空>の効果は一定時間経つと消滅してしまうのだ。
「どうする?俺の剣でも飛行は出来るけれど」
セイガの提案に、一瞬ユメカは戸惑う。
今はこれ以上近くにいるのは恥ずかしい、けれど
「うん、じゃあそれをお借りしようかな? アレって結構疲れるんだよね……はは」
そう言って白く細い手をセイガへと向けた。
そうしてふたりは、手を取りながら白妙の浜へと戻って行った。
忘れられない思い出を、ここに残して。




