第62話
炎天の下、二日目のビーチも大賑わいだった。
セイガを含めた有志はマリンアクティビティを楽しむために専用のエリアに移動しているのだが、ビーチに残っている面々も多かったりする。
ハリュウは何故か、フランとふたりで砂浜を歩いている。
ちなみにこの日のフランは周囲に止められた結果、緑色の肩紐は無いが胸を隠しているワンピースの水着を着用している。
コレならば一般の人からは可愛い女の子にしか見えない。
上:7点、本人は乗り気でないようじゃが、非常に可愛いのは宜しい
ハ:7点、股間の盛り上がりを気にしなければ充分に魅力的
J:7点、一見普通のワンピースだが、色やデザイン等細かい所の拘りが見える
「ね~ね~、フラン可愛い?」
何度目かの質問、
「おう、お前は確かに可愛いよ」
ハリュウもある程度慣れたのか、普通にフランの頭を撫でている。
「えへへ♪」
そうやってふたりが歩いていると、前方にハリュウの見知った顔が見えた。
しかも
「うわ! リチアさん、また派手にやりましたねぇ」
そこにいたのはリチアなのだが、昨日と少しイメージが違っていた。
水着は赤いビキニのままなのだが、それを飾るように体や水着のあちこちにアクセサリーが加えられていたのだ。
あまり多いとゴテゴテとしそうだが、そこはアクセサリー職人でもあるリチアだったので、上手くマッチしていた。
上:9点、アーマー追加は男の浪漫じゃのう
ハ:8点、露出がちょい減った感もあるけどエロさは健在、さすが姐さん
J:10点、芸術点、完成度共に高し、素肌と金属の調和は見事
「あはは、折角だから一晩掛けて装甲を厚くしてみたぜ」
「装甲って、鎧じゃないんだから」
隣りのレイチェルは昨日と同じ青いビキニ姿だが、今日は陽が一段と強かったので、大きな麦わら帽子を被っていた。
「水着で競うってんならコレは一種の戦闘服、だぜ?」
リチアが胸元のアクセサリーをかちりと摘まむ。
「そうそう、これで今の暫定トップはリチアさんの変更になりましたからね♪」
デレデレとふたりの美女に目を向けるハリュウに対して、フランはつまらなそうに口を尖らせる。
しかし
ふと視線がふたりの後ろに向けられると同時に、フランは硬直した。
「…」
「……ってうわ、アルザスもいたのかよっ」
そこには筋骨隆々、巨大な姿を誇る男の姿があった。
『アルザス・ウォーレント』、『剣聖』の称号を持つ、ワールドでも屈指の実力を持つ戦士だ。
今は剣も持たず、珍しく殺気も放っていなかったのでハリュウ達もその姿を確認するのに一瞬の間があったのだ。
「ハリュウか、元気そうだな」
日に焼けた黒い肌、所々に傷跡が見える。
引き締まった体に黒い海水パンツを姿、そこには不思議と彫像のような美しさが秘められていた。
「まさかこんな所でお前さんと会うとはな、遊びにでも来たのか?」
何となく、ハリュウはアルザスが苦手だった。
兵士として尊敬出来る面もあるのだが、どうにも素直に称えることが出来ない。
「遊び、そういうことになるのか」
「アタイが呼んだんだ、ちょうど近くにいるって聞いたから美味しいもんでも食べさせてやろうと思ってね☆」
リチアがばしばしとアルザスの肩を叩く。
どうやら、アルザスとリチアは知り合いのようだった。
「彼女には鍛冶屋として世話になっている」
だから断れない、そんな風にハリュウには見えた。
「……」
「ハリュウ君はアクティビティの方には行かなかったのね?」
レイチェルが不思議そうに訊ねる、確かにセイガもユメカもメイもそちらに行っているので、自分だけビーチにいるのは不思議だったのだろう。
「はは、オレは水着コンテストの審査員ですからね、ビーチを離れるわけには行かないのですよ♪」
そう言いながら、ハリュウがレイチェルをじっとみつめる。
本当に美しいスタイル、魅力的なものが目の前にある。
これを至福と言わずに何を言えばいいのか。
「もう、ハリュウ君たら」
「………」
レイチェルが恥ずかしそうに自らの体を手で隠す。
その仕草が寧ろ情欲を搔き立てると気付いているのだろうか?
「ははは♪」
と、ご満悦のハリュウだったが、その時ようやく異変を察知した。
「…………」
それは自らのすぐ傍、フランの様子がおかしいことだった。
無言で、まるで動く素振りが無い。
「おい、フランどうした?」
最初は美女達にデレデレの自分に腹を立てているのかと思っていたが、どうもそうではないらしい。
「お~~~い」
ハリュウがフランの体を揺する。
レイチェル達も異変に気付いたのか、心配そうにフランを見守る。
ただ、アルザスだけは様子が違った。
即ち、
「離れろ」
「は?」
臨戦態勢、だった。
その手に大剣を握るアルザス、同時にフランが遠吠えを放つ。
『おおおおおおおぉぉん!』
咄嗟にハリュウ、レイチェル、リチア共にビーチに散らばり、関係のない通行人が近付けないように人を払う。
その辺りは皆、経験を積んだ者達だ。
周囲の海水浴客は悲鳴を上げながら逃げ去り、平和だったビーチは戦場と化した。
フランは
「……オマエ、ダレダ?」
以前の毛むくじゃらの魔獣ではなく、アルザスと同じほど、2m程の人型、両手を硬く鋭い刃と化した緑の巨人になっていた。
「自分はアルザス、ただの戦士だ」
「アルザス……フラン、オボエタ」
そう告げると、アルザスまで一気に近付き、その右手…剣を突き出す。
「ふんっ」
アルザスはそれを自らの剣で止めると、続いて繰り出された左の刃を肘で叩き落とす。
「グワッ」
体勢が崩れたフラン、その隙を逃がさずアルザスが大剣を振り上げる。
轟音と熱風が生まれ、フランは大きく宙を舞った。
アルザスはそれでも止まらない、フランの予測落下点へ向けて動こうとする。
しかし
「待てや」
その間にはハリュウがいた。
ただ立っているのではない、両手で木槍『風林火山』を構え、隙なくアルザスを捉えている。
静かな、しかし強力な気合でアルザスを制止した。
「ほう」
アルザスの瞳が愉しそうに光る。
同時にフランの巨体が砂浜に落下して、大きな音を立てた。
「フラン君、大丈夫!?」
ゆっくりと変身を解いていくフランにレイチェルが駆け寄り、その傷を絶対領域で治していく。
どうやら、思ったよりフランの方も平気そうだ。
「……強いな」
アルザスが剣を虚空へと還す、戦闘は終わったと判断したのだ。
「まあ、オレもフランも只者じゃあ無いんでね」
同じく槍を仕舞って、ハリュウがアルザスを睨む。
ハリュウもまた、ホストである自分の役目に責任を持っていた。
「自分はこれ以上、ここにはいない方が得策だろう」
後ろを向くと、アルザスが悠然と去って行く。
遠巻きに見ていた群衆も、アルザスの迫力に道を開けていく。
「これに懲りずにまた来いよな~」
リチアの声を聞いてか知らずか、ただ手を上げて、アルザスの気配が断たれた。
「全く、アイツが関わると大体こうなるよな」
ハリュウが悪態をつきながらフランへと近付く、フランはどこか、拍子抜けた様な表情をしていた。
「大丈夫か?」
ハリュウが手を差し出す。
「うん……ごめん、ハリュウ」
フランがその手をゆっくりと握る。
「謝ることもないさ」
「ううん、ごめんなさい……フラン、ハリュウのコトは今でも好きだけどね」
フランは水着ではなく、いつものミニスカート姿に戻っている。
「フラン、恋、しちゃった」
「……は?」
そのまま両手で顔を隠す。
フランの赤く染まったその姿は、確かに恋する少女のようだった。




