第61話
サウスビーチでの2日目の早朝
セイガはハリュウと波止場にいた。
「うは~~~、ねみ~~~……けどこの時間の方が釣果がいいんだよな~」
首は動かすも、竿は動かさず。
ハリュウが提案して、ふたりは釣りに来ていた。
「釣りは子供の頃以来だな」
「オレは結構暇つぶしにやってるぜー、地下基地の周辺は海だからな」
こうやって、のんびりと世間話をしながら釣りをすること一時間余り。
まだお互いにヒットは無い。
周囲には、他にも釣りを楽しむ人達がいるが、基本的には静かだ。
次第に明るさを増す海に向かいながら、時が緩やかに過ぎていく。
セイガも、ハリュウも心をからっぽにして、遠くの雲を眺めていた。
「……なあ」
波音に溶けてしまいそうな程の声のハリュウ
セイガは確認するように振り向く。
「うん?」
「あ~~~、いやその何だぁ……」
いつも言いたいことをすぐに口にするハリュウにしては珍しく、首の後ろを掻きながら、
「セイガに頼みたいことがあるんだよ」
そう、少し恥ずかしそうにしながらハリュウが呟く。
「ああ、分かった。別に構わないよ」
「おい、まだ内容を言って無いだろうがよ」
即答するセイガにハリュウがすかさずツッコむ。
セイガはそんな気構えしなくていい空気が好きだった。
「どんな話にせよ、ハリュウの本気での頼みならちゃんと聞くさ」
それがセイガの素直な気持ちだ。
一方ハリュウは何か深く悩むように頭を抱えている。
「あ~~~、も~~~~……お前はそういう奴だったな」
ハリュウは一瞬、大きく口を開けるが、何かに気付いて再び口をパクパクと開け閉じする。
「?」
「いいや、何でもない……頼みというのはさ、そう遠くないうちに」
そこでハリュウは大きく息を吸う。
「オレともう一度、本気で戦ってくれないか?」
普段は見せない、まっすぐな視線でセイガを捉える。
「ああ、勿論構わない、というよりも俺もハリュウと戦いたいよ」
セイガもまた、晴れやかな笑顔だった。
「ただ、もうユメカを賭けるとかそういうのは無しにしてくれよ?」
「え~~~? 何か賭けた方が面白いしやる気が出るじゃんよ~」
不満げにしながら竿を上げるハリュウ、すると糸の先には大きな魚が掛かっていた。
「おお♪ナイスタイミング~」
「うわ、すごいな」
急いでセイガが取り網を用意した。
「ヨシ、これでオレの昼飯は確保できたな」
「みんなのお昼ご飯を賄うにはまだまだだけどな」
今日のお昼は海鮮バーベキューだとハリュウが皆に宣言していたのだ。
ちなみに、このエリアでは自由に海産物を獲ってよいことになっている。
セイガ達は釣りがある程度終わったらその後も素潜りをするつもりだった。
「……楽しみにしてるからな」
セイガの無邪気な言葉
「オレの圧倒的に強くなった姿を見て驚くなよ?」
「俺だって、強くなったさ」
「オレの方がスゴイです~、なんせターラの訓練は本当にスゲーからな」
「それを言うならシオリさんも凄い人だからな」
「秘密の技だって幾つもあるんだぜ」
「新しい技ならば、俺も負けるつもりはない」
「地獄から帰ってきた男の力を思い知らせてやんよっ」
「地獄という意味なら、俺も大佐と戦っているから」
「うわ、大佐のコトは言うなよ、ずっちぃぞっ!?」
両者、笑いながら竿を置き、寝そべりながら空を仰ぐ。
今日もきっといい日になる、そう予感させる爽やかな蒼天だ。
「・・・・・な」
ハリュウが息を吐く。
「何か言ったか?」
セイガには聞こえない、改めて話すつもりもない、他愛のない一言。
「なんでもないよっ」
そうして、ふたりは朝食の時間まで釣りを楽しんだのだった。




