第60話
「それで着いたと思ったら、セイガ氏がいきなり柱に寄り掛かって眠っちゃうからビックリしたんだよね」
高速剣は使用すると『その行動量に比例した体力を一気に消耗する』ので、おそらく一気に酔いが回ったのだろう、セイガはダウンしたのだ。
セイガは今まで、正体が無くなるまで酔ったことは無いと思っていたので、ビックリしていた。
「というわけで、今回私はわるくありませ~ん♪」
豪華客船での夜のことだろう、あの時は海里の<呪文>で眠らされてしまったわけだが、確かに今回はその感触も無いし、自分が取っていた行動も…
全然覚えがなかった。
しかし、何となく海里の言うことは事実だという確信があったので、とても恥ずかしくもあった。
「ちょっと強引なセイガ氏もカッコよかったよ?」
項垂れるセイガを見て、海里がフォローを入れる。
「なんか、色々とすまなかった」
今夜はダメダメだ、そうセイガは反省する。
「うふふ、ダメな時はダメでいいんじゃない?」
セイガの心を見透かしたように、海里がするりと近付いてくる。
目の前の海里の、圧倒的な美しさにセイガは動けない。
「どうしたの?お姉さんの、あまりの美しさに参っちゃった?」
実際には海里よりもセイガの方が年上なのだが、海里の甘く、包容力のある雰囲気にセイガは飲み込まれている。
「……」
海里は考える。
このままなら、セイガの隙に付け入ることは可能だろう。
ただ、それを良しとするかは、また別問題だった。
「海里……」
セイガの、いつもよりも弱弱しい瞳が目の前の海里に注がれる。
海里は静かにその細く柔らかい指先をセイガの頬へと近付ける。
そして
「うわっ!」
くしゃくしゃとセイガの髪を両手で掻き毟った。
「あはは!、面白い顔♪」
本来ならば神社の厳かな空間の中、海里が社殿をみつめる。
「信じるって……ナニ?」
信仰の中心である御神体の傍で、そう海里は独り言ちる。
セイガもここに来てようやく、今自分のいる場所を冷静に再確認した。
「そうだな……俺は誰かの信仰心を否定はしたくないと思っている」
人は弱い。
信じる心は、生きていく上で、とても大事な力にもなる。
けれども
「信じることは自由だけれど、責任は全て自分が負うべきだと、俺は思っているよ?」
「だから裏切られても平気なの?」
「いや、平気じゃないよ……辛いし、苦しいし、死にたくなる時だってある」
それでもセイガが信じていたいのは、相手の心だった。
「俺は正義が嫌いだ、でも正義を信じる人を、単純に否定するのも良くないとは思っている、どこで線を引けばいいのか自分でも分からないけどね」
「私も正義って嫌い、神様なんて糞喰らえって思ってる」
どれだけ祈っても、救われないのならば……
「ははは、神様には神様の悩みがあるらしいよ?」
前に出会ったニ柱の神、彼も彼女も完璧な存在では無かった。
「俺が思う信じるっていうのは…無償の想い、みたいなものかな?」
それが、セイガなりの答えだった。
「そっか、……何となくセイガ氏の思っていることは理解出来たよ」
(人間はそんなに奇麗なものじゃあ無いけどね)
海里の考えは変わらない。
それでも、きちんとこうやってセイガと話が出来たことには意味がある。
それが海里の目的だから。
「それで、なんだかすっかり真面目な話題になっちゃったけどさ……さっきの続き、スル?」
海里が胸元をちらつかせながらスカートの裾を持ち上げる。
「え?いやそれは!?」
正常に戻っていたセイガには非常に刺激的な光景だったが、何とかすぐに躱すことが出来た。
脳裏にユメカの姿が浮かんだからである。
「さあ、寒くなって来たしそろそろホテルに帰ろうか」
「ちぇ~、やっぱりさっきのうちに食べておけば良かったかにゃあ?」
このまま帰るのは癪だったので、海里がセイガの腕に寄り掛かる。
「おお?」
「これくらいならいいでしょ? 寒いんだし」
確かに海上の風は薄着では少し肌寒い。
「でも、少し不謹慎な気もするな」
一応、ここは神社であり、もしかしたら禁域だったのかもしれない。
そう思うと改めて、セイガは悪いことをしたと思った。
「神様だってこれくらい多めに見るよ、……それにおぶって貰わないと私浜辺まで帰れないし~」
「海里なら飛行魔法とか普通に使えそうだけど」
「あは、どうでしょううね~?」
「まあいっか、それじゃあコレを持って」
セイガが、いつの間にか取り出したウイングソードの片方を海里に渡す。
セイガにくっついたまま、海里がそれを受け取ると、ふたりの体が羽のようにふわりと浮いた。
セイガと海里、それぞれが持つ剣が翼となり、セイガ達は砂浜へと飛翔する。
「わぁ!すごーいっ♪」
神社から大鳥居を越えて海、夜空と白い砂浜を見渡しながら……
ふたりの逢瀬は暮れていったのだった。




