第59話
話は少し戻って、サウスビーチ1日目の夜の始め
セイガはハリュウに連れられて、酒場に来ていた。
「おお、儂等はもう始めておるぞい♪」
そこには上野下野とレイチェル、リチア、それに
「わお、セイガ氏も来たんだ、嬉しいねぇ!」
海里とJも同席していた。
「それじゃあ、みんな揃ったことだし、もう一回乾杯しましょう♪」
レイチェルの声に、早速ビールの届いたセイガ達も立ち上がる。
『かんぱ~~~い!』
そうして、大人メンバーの酒盛りがスタートしたのだった。
「明日は、負けませんからね~」
「あたいも2位に甘んじるつもりは無いからね、やるならトップを頂くよ」
「ははは」
セイガはそんな女性3人が騒いでいる様子を、楽し気に眺めていた。
どうやら、レイチェルはお酒を飲むペースを抑えているのか、まだそこまで酔っている風では無いが、海里とリチアの方はかなりハイテンションになっていた。
「うはぁ、これはみんなの明日の水着も楽しみだなぁ☆」
「この分だと、熱気に当てられたユメカさんも勢いで参加してくれるやも知れないからのう」
「それもそうですな、ワガハイも興味津々ですぞ」
水着コンテストの審査員である3人も上機嫌だ。
「ははは、ユメカは負けず嫌いな所もありますからね」
セイガは、そう笑って返してはいたが、心中は少し複雑だった。
「おう、ここにいない女の話をするなんて、野郎どもは野暮だねぇ」
リチアが挑発的な瞳でセイガ達を軽く睨む。
同意なのか、口にはしないがレイチェルと海里の表情も疎まし気だ。
「いやいや、モチロン今はこんな美人のお姉さん方と一緒にお酒が飲めて、最高の幸せであります!」
「ハリュウくん、それは本心でしょうね?」
レイチェルがハリュウを覗き込む、近付くとどうしてもその揺れる悩ましい体の様子に目が行ってしまう。
「当り前じゃあないっすか!」
「ええ~、でも明日は私に高得点……入れて欲しいな」
すっと、ハリュウの背中越しに海里がもたれかかる。
「うひょ~~~!なんですかこの至福の時間はっ」
前門のレイチェル(+リチア)、後門の海里に囲まれてハリュウは見るからに呆けて溶けていった。
「ははは……」
セイガが次のお酒を頼もうと顔を上げた時、ふとJと目が合った。
「……どうしましたかな?」
Jは努めて紳士的にセイガに接している(但し上半身は裸にニップレスだが)
それでも、今のセイガはJを真っ直ぐ見ることが出来なかった。
「……あの」
「ワガハイから言うのもお門違いかも知れませんが、シオリ嬢について、もしセイガ殿が心を痛めているのならば、敢えて気にしないのが一番彼女のためだと思いますぞ?」
図星だった。
どうしてもあの朝の光景がセイガの脳裏から離れないのだ。
「彼女は悪くない」
それは分かっている。
自分が口を挟む筋合いが無いのも分かっている。
でも
「セイガ殿もお酒を注文するのですかな? ワガハイはこの『特注大ハイボール』を頼むつもりですが」
「ああ、俺もそれでお願いします」
セイガは基本的にはビール党だが、Jへの対抗心なのか、普段はあまり飲まない量を頼んでいた。
それからも宴は進み……
「あれ??ここはどこだ?」
セイガは夜の中、静まり返った空間にいた。
夜風が火照った体に心地良い。
近くにあった手摺りに掴まり、ゆっくりと周囲を見渡す。
「あ、起きたね♪」
そこには、松明の灯りに照らされて、赤いドレスを纏った海里が立っていた。
妖艶で絢爛、セイガの目もすっかり覚めた。
「ええと……俺は、一体?」
「あはは、やっぱり覚えて無いんだ、やけに積極的だとは思ってたんだよね」
海里が言うにはこうだ。
「ねぇ!あそこ、あそこに行ってみたい!」
皆がべろべろになるまでお酒を飲んだ後、セイガはホストとして海里を部屋まで送り届けようとしていた。
どうせならとの海里の提案で砂浜をふたり、並んで歩いていたのだが
「私、どうせならアレの中に入ってみたいな」
海里が指差したのは大鳥居の向こうに控える、白妙の浜のシンボル、海上に浮かぶ大きな波良辺神宮の社殿だった。
微かに松明の光からその荘厳な姿が見えるが、人の気配は感じない。
「風があるのに松明なんて、火事になったりしないのだろうか?」
ふとセイガが疑問を口にする。
「どうなんだろ? 何となく<呪文>に近いものをあの神社からは感じるからきっと大丈夫なんじゃあ無いかなぁ?」
海里の方は、他の面々よりは飲んで無かったようで、本来白く綺麗な顔は真っ赤だが、そこまで酔ってはいないようで、綺麗なままだった。
「それじゃあ、行くか」
セイガは、海里に近付くと両手を前に差し出した。
「えっと……セイガ氏?」
「掴まれ」
珍しく、強い口調のセイガ、海里はゆっくりとセイガに体を預ける。
セイガは海里を両腕で抱えると、高速剣を使い一気に社殿へと
夜の海を飛び越えたのだった。




