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第56話

 日が少しずつ沈みはじめたそんな時間、セイガはひとり、ビーチからは少し離れた海岸沿いの道を歩いている。

 明日のマリンアクティビティの場所を下見して、その帰り道……

 ふと見知った人影をみつけ、セイガは声を掛ける。

「レイチェル先生、こんな場所でどうしたのですか?」

 それはレイチェルだった。

 昼間と同じく魅惑的な青い水着姿、日焼け防止のためか白いプリムのついた帽子とシャツを身に着けている。

 今は人通りの少ない道路だったが、道行く人がつい振り返るだろう、とても綺麗な姿だ。

「ふふ、この辺りにも古い波良辺(はらへ)神社があるというから見に来たの」

 レイチェルが指差す先、道路から野道に入った所に苔生(こけむ)した鳥居と社殿が微かに見て取れる。

 百龍島で有名な海の神、それを祀るのが波良辺神社であり、白妙の浜の海上にある大きな社殿がその神宮だった。

 レイチェルは元々、この周辺の歴史的遺産を見たくてこの旅を企画した面が強く、ひとり嬉々として観光しているのだった。

「なるほど……ここは今は使われてはいないようですね」

 ふたりは静かな細い参道を歩く。

 蜘蛛の巣などは払われているが、今は管理するものがいないのだろう、神社は遺跡のように寂れた様子だった。

「そうね、ワールドでの神などへの信仰は年々薄れているというか、形骸化している傾向があるわね、おそらく神に頼らなくても学園や『真価』の力を使えば生きていけるからでしょうね」

 少しだけ寂しそうに、レイチェルがしゃがみ込み石畳の苔に触れる。

 神という言葉を聞いて、セイガは少し前に出会った二柱の神を思いだしていた。

「私はね、そんな失われつつあるものも記録していければ…そう思っているの」

 レイチェルの指先が光り、『記』の『真価』が現れる。

 レイチェルには今のこの光景だけではなく、かつて此処にあった歴史も見ることができた。

 それらをしっかりと覚えるように、目を閉じる。

「素敵ですね、レイチェル先生の活動はこのワールドに暮らす人達にとって、とても助かるというか、感謝でいっぱいです」

 学園の教師、再誕した者を導く役目、そしてワールドの歴史の記録、レイチェルはいつも、この世界にいる誰かのために働いている。

 セイガはそんなレイチェルのことを心から尊敬していた。

「私は別に、したいことをしているだけよ?」

 レイチェルが立ち上がり、木陰へと背を向ける。

「それでも、俺は素晴らしいと思いますよ」

 そうして、セイガはずっとレイチェルをみつめていたのだが……

 不意に恥ずかしくなって俯いてしまった。

「……どうしたの?」

「いや、スイマセン……凝視し過ぎました」

 そう、あまりに真剣に見ていたので、ついその姿…豊満なのにスタイルは抜群のボディラインとか、美人以外に上手く表現すら出来ない綺麗な顔立ちを意識してしまったのだった。

「やだ……セイガ君ったら、そんな風に先生を見ていたのね」

 レイチェルも意識したのか、伏し目がちしてにセイガを見やる。

「ごめんなさい…俺、すごく……ドキドキしています」

 鼓動が速まるのを抑えられない。

「私も……緊張しちゃう」

 レイチェルが両手を胸元に当てる。

 とくんと、揺れて高まりを意識してしまった。

「先生も、そうなのですか?」

 セイガにとっては意外だった。

「それはそうですよ、私だって女ですもの」

 ちょっとだけ、拗ねたような口ぶり。

 そんな仕草もとても可愛らしい。

「……教えて、欲しい?」

 レイチェルのその唇が、そう動いた。

 セイガはどきりとしつつも、無意識に

「はい、教えて欲しい……です」

 言葉にして頷いていた。

 セイガとレイチェル、ふたりが同時に硬直する。

(私ってば何を言っているの!?)

(俺はレイチェル先生に対してなんてことを!)

 無言、そして

「だったら……」

 レイチェルがゆっくりと近付く。

 しかし、その瞬間、レイチェルの肩に木から落ちた水滴が触れる。

「きゃあ!」

 思わずセイガの方へと倒れ掛かり、セイガもそれを咄嗟に受け止めようとする。

『……あ』

 セイガの左手がレイチェルの青い布地、右の乳房を掴んでいたのだ。

 セイガの想像以上に柔らかく、温かいそれは…片手では支えきれない程大きく、美しかった。

 手を離そうと理性では思うのだが、手が言うことを聞かない。

「……んっ」

 吐息と共に漏れる嬌声、それをきっかけにセイガはどうにかその手を離す。

「すいませんっ!!」

 左手を震わせながら、セイガが目いっぱいの謝罪をする。

 レイチェルはパレオの部分を両手で埃を取るように軽くはたくと、後ろを向いた。

「今のは、不運なアクシデントですから、気にしていません」

 レイチェルにとっても、異性に胸を触られるなんて、何十年ぶりかのことだったので、正直困惑が大きかった。

「私は大丈夫です、セイガ君も今のは忘れてください」

「は、はい」

 セイガは反射的に頷くが、忘れることなど出来そうになかった。

「そ、それじゃあ、折角だからもう少し神社を見ていきましょうか」

 ぎくしゃくした足取りでどうにかレイチェルとの間隔を開ける、そうでもしないとまた意識してしまいそうだからだ。

「そうですね、まだ他にも旧家跡や祠もこの近くにはあるようですよ?」

 レイチェルはそそくさとシャツのボタンを閉める。

「へえ~~、それは楽しみですね♪」

 そうして、やや余所余所しいまま、ふたりは楽しい散策を続けたのだった。 

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