第50話
いよいよ明日からサウスビーチへと出発するという日
セイガは任務が終わって学園の隠れ亭に帰ってきていたハリュウと食堂で談笑していた。
「ま、オレにかかれば今回の任務も大成功間違いなしだったんだけどな」
「ははは、それにしては随分負傷しているようだが大丈夫か?」
良く見ると、肩や腕、太腿などハリュウの体のあちこちには打ち身や切り傷が残っていた。
「あ~~~、コレは任務じゃなくてタラちゃんと戦った時のダメージだわ」
ヒリヒリしそうな傷跡を擦りながらハリュウが愚痴をこぼす。
「タラちゃん?」
「そうそう、戦次長は『ナターリヤ』って名前なんだがオレは愛を込めて『タラちゃん』って呼んでんだわ」
「なるほど……確かずっと特別訓練を受けていたよな」
ハリュウの特別訓練の件はセイガも聞いてはいた。
戦次長とはあまり面識は無かったが、大佐とセイガ+DZMS連合で戦った時に、前衛を務め鬼のような猛攻をしていたのは覚えていた。
「それは……大変だったな」
「ふっふっふっ、それもあって今のオレはかなーりパワーアップしてるぜ!」
そう言ってハリュウは右腕の力こぶを見せつける。
「そうか、でも俺だってシオリさんとほぼ毎日試合をしているから、双剣の方もかなり戦えるようになったよ」
セイガも両手にウイングソードを持ち、軽く構える。
そうしてお互いに実力をはかっていると、ちょうど話に出ていたシオリが食堂に入ってきた。
「あら、おふたりとも精が出ますね」
うふふと笑いながらシオリがセイガ達ふたりに冷たい紅茶を淹れてくれる。
今はもう、いつも通りのシオリだった。
「ありがとう、シオリさん」
「流石、気が利くねぇ♪」
「完璧なメイドさんですから」
そんないつものやり取りが嬉しいセイガだった。
「ところでセイガ様にひとつお願いがあるのですが」
シオリはテーブルの脇に立ったまま、セイガをみつめる。
「何でしょう?」
「その、恐縮ではあるのですが、私明日からのリゾートエリアへの小旅行へは同行しなくても宜しいでしょうか?」
それは突然の提案だった。
ほんの数日前まで、どんな水着を披露するか等、セイガをからかいながらも小旅行をシオリも楽しみにしていたはずだったのだ。
「ええと、何か用事が出来たのですか?」
「…はい、さして大きな案件では無いのですが、ちょっと時間が掛かりそうなので私はここに残った方がいいと考えました」
何か、歯切れの悪い感じがした。
しかし、セイガが無理に連れて行く権利はない。
「そうですか……残念ですが仕方ないですね」
「え~~~~~? シオリさんの水着姿も見たかったっすよ~~!」
明らかに残念そうにハリュウがこぼす、セイガもこんな風に素直に言いたかった。
「すいません、水着がご所望でしたらそうですね『メイドさんの水着感謝デー』でも今度お作りしてメイド服風水着で給仕しましょう♪」
「おお、それは最高っす!」
「ははは」
セイガは笑いつつも、何かしこりのようなものを感じていた。
どうしても脳裏にJの姿が思い浮かんでしまうのだ。
「それでは、私は失礼します」
そう言って、シオリが踵を返す。
「……あ」
「セイガ様、どうかしましたか?」
思わず声が出てしまったが、セイガは何を言うべきか分からなかった。
「…いえ、なんでもないです」
「…そうですか、ではまた」
そしてシオリは去って行った。
「……なあ、なんかシオリさんってあんなに色っぽかったっけ?」
ハリュウは学園郷への滞在中も、任務や特別訓練があり、時々家を空けている。
だからだろうか、シオリの変化を感じていた。
「…どうだろう」
「元々綺麗な人だったけどよ、なんていうか妙に艶やかというか、えっちぃオーラがオレには見えるんだよ」
ハリュウの審美眼は鋭い。
「そうかな?」
「もしかしたら誰か好きな人でも出来たんじゃあないかなぁ?」
「……そう、なのかもな」
セイガはそう答えるしかなかった。
「ふ~~ん、ちなみにシオリさんが好きになる可能性が一番高いのは、セイガ、お前だぜ?」
「はっ!?」
ハリュウの言葉に過剰に反応してしまう。
「ははは、まああまり気にしない方がいいぜ? 明日からは折角の水着回なんだからさ、とにかく楽しもうぜ!」
そう言ってハリュウがバシバシとセイガの背中を叩いた。
「そうだな」
自分でも、どうしてここまでシオリのことで心を痛めているのか分からなかったが、明日へ向けて気持ちを切り替えよう、そう思うセイガだった。




