第47話
「えへへ、ごはん美味しかったね~♪」
笑顔満面の瑠沙がセイガの手を引きながら夜の街の喧噪の中を歩く。
そう、セイガの元に訪れたのは瑠沙だった。
良さげなお店をみつけたので、よかったら一緒に行かないかという食事のお誘い、セイガは気分転換も兼ねてふたりで夕食を食べに行ったのだ。
「ああ、ここのハンバーグもとても美味しかったよ」
華やかなメニューと、明るい瑠沙とのおしゃべり、そのお陰でセイガの心もだいぶ落ち着いてきていた。
「セイガくんって、ハンバーグが好きなの?」
「ああ、そうだなぁ……大体初めてのお店でハンバーグがあったら頼んでいる気がするよ」
「そっかぁ、ちょっと意外というか実は結構おこちゃま舌なのかな?」
面白そうに下から瑠沙がセイガをみつめる。
改めて近くでみると、やはり瑠沙はとても可愛らしい。
今日もこの夜のためにおめかしをしているし、くるくる回る表情も見ていて飽きない……きっと凄くモテるのだろうなぁとセイガは思った。
「ははは、そうかも知れないな……本当に今日は夕食に誘ってくれてありがとう、少し落ち込んでいたからとても助かったよ」
気付けば瑠沙は自然と横に並び、手を繋いできている。
セイガとしてはこれだけ近いと少し落ち着かない面もあったが、瑠沙の傍は心地よいのも事実だった。
「ううん、セイガくんが楽しかったんなら私も嬉しいな♪ 最近あまりこうやってセイガくんとお話出来なかったから、寂しかったんだよ?」
思わず意識してしまいそうな瑠沙の言葉。
セイガもどきりとしたが、そこは見せないようにしていた。
「それにしても、夏だからか夜も結構街に人が出ているなぁ」
通りには、セイガ達以外にも沢山の人々が往来している。
セイガの朧げな記憶では、元の世界ではお祭りでも無い限り、そこまで夜は出歩かないイメージがあったので、このワールドに来てからの日々は新鮮だった。
「そだね、デートしてる人達も多いけれど……周りから見たら私達も恋人同士にみえるのかにゃあ」
その言葉と共に、瑠沙がきゅっと繋いでいる手を握る、どうしてもその感触を意識せざるを得ない。
セイガがどうしようか思案していたその時。
「あ、アレはなんだろう?」
瑠沙が左手でとある場所を指差す。
そこは狭いけれど綺麗な通路の先、ひっそりとした場所に不意にある扉だった。
看板も標識も無く、壁に浮かぶように取り付けられた扉。
不思議と興味を引く存在だった。
「……何だろう?」
そのままふたりは扉の前に立つ。
それはまるでふたりを招いているように、佇んでいる。
「誰かの家…って感じでもないよねぇ?」
「そうだな」
「……開けてみよっか☆」
「いや、流石にそれはいけないよ」
何も書いていないということは自由に入っていいお店などではない場合もある。
勝手に入るのはマナー違反だろう。
「ええ~~?…もしダメだったら謝ればいいんだし、気になるよぅ」
そして、セイガが止める間もなく瑠沙はドアノブに手を掛けた。
『あ!』
そして、扉を開けた瞬間、中から白い光が溢れ、セイガ達は気を失った。
続いて、セイガが意識を取り戻した時、ふたりは立ったまま、その部屋の中央に立っていた。
「……ここは?」
何故立っているかも分からなかったが、まずは周囲を見渡す。
白い壁で囲まれた少し広めの部屋。
壁際には綺麗に整えられたベッドがある。
そのベッドの周辺と頭上には鏡が取り付けられている。
天井に照明はついていなかったが、魔法の力だろうか、部屋の中はうっすらと明るく不思議と何かいい匂いがする。
そして驚くべきは
「ドアが……無い?」
四方の壁のどこにもドアが取り付けられていなかった。
代わりに、ベッドのある壁から反対側の壁に大きなボードのような物が掛けられていた。
「むにゃ……ここは…どこ?」
瑠沙も目を覚ましたらしい。
「分からない、けれどどうやら俺達はここに閉じ込められてしまったようだ」
この状況、まずはそれをセイガは警戒した。
「閉じ込め……ってどうして?」
瑠沙も不安を感じながらセイガの後ろに隠れるように立つ。
「これは一体…」
危険が迫るようなら破壊してでもここから脱出するしかない、そうセイガが判断したその時、ふたりの目の前、ボードに何やら文字が浮かび上がってきた。
「セイガくん、あれ……」
うっすらと現れた文字を『世界構成力』で解読する。
このワールドの住人は知らない文字言語でも、『世界構成力』を使えば判別することが出来るのだ。
「…ええと……」
瑠沙も同様に文字を確認する。
そこには……
『○○〇しないと出られない部屋』
そう、確かに書いてあったのだった。




