第46話
いよいよ、この度のメインイベントのひとつ、サウスビーチへの小旅行が近付いていた。
それぞれが思惑を抱え、それとなくウキウキと心躍っている。
ハリュウは何故か上野下野とJと3人で話すことが増えていたり…
時々メイがセイガの方をこっそり物陰からみつめていたり…
海里とフランとルーシアが連れ立って買い物に行っていたり…
レイチェルやユメカが誰かと連絡を取り合っていたり…
そんな浮足立ったある日の朝、セイガは信じられないものを見てしまった。
「……おはようございます、セイガ様」
廊下で会ったシオリの衣服が乱れていた。
いつもメイド服をしっかりと着こなしているシオリだから、それはとても珍しいことだった。
さらに
「おや、セイガ殿も朝からお元気そうですな」
ドアを出たシオリの後ろから、スッキリとした表情のJが現れたのだ。
上半身裸のまま汗をかいており、息も少し荒い。
心なしか、シオリの方の吐息にも艶があるように思えた。
無言で、みつめあうセイガとシオリ……
それを見たJはにこやかに
「良かったらセイガ殿も如何ですかな?とても心地好いですぞ」
そう言い捨て去って行った。
…僅かな静寂
『……あの』
セイガとシオリの声が重なる。
「セイガ様からどうぞ」
俯き、しっとりとした銀色の後ろ髪を正しながらシオリが促す。
「あの……気のせいだったらいいのですが、Jさんに何か……その、良くないことをされたりしなかったですか?」
出来るだけ平静を装いながら、セイガはそう尋ねる。
間違いであって欲しい、セイガはそんな気持ちで一杯だった。
「……問題ありません、これもメイドの務めですから」
しかし、シオリから返ってきた言葉は一層セイガの不安を募らせるものだった。
「そうですか、ちなみにシオリさんは何を言おうとしたのですか?」
これ以上この話をするのは怖かったので、セイガは話題から逃げた。
シオリは俯いたまま、顔を紅潮させている。
「その、色々と支度があるので今日の午前の鍛錬の開始は少し遅らせても宜しいでしょうか?」
セイガは考えたくも無い妄想で赤くなりながら
「はい、大丈夫ですよ」
それだけ伝えた。
「それでは」
シオリがセイガの横を通り過ぎようとする。
しかし
「……あっ」
不意に力が抜けたように立ち尽くした。
「大丈夫ですかっ!?」
セイガが手を伸ばすが、シオリはやんわりとそれを返した。
「問題ありません、ではいつもの練習場で」
シオリは頭を下げると廊下を去って行った。
独特な匂いが、廊下には残っていた。
そして、その日の午前中、シオリは練習場に現れることは無かった。
セイガはずっとモヤモヤとしていた。
昼食で学園の隠れ亭に戻った時、シオリは屋敷にいたが、軽く謝るだけで、結局他には何も話してはくれなかった。
午後も鍛錬に誘おうとしたが、シオリは既に外出をしてしまっていた。
(絶対に、何かあったのだ)
セイガはJに問い質すことも考えたが…
あまりいい結果を想像できなかったので、そのまま自室に籠っていた。
しかし、頭を過るのは良くない想像ばかり、自分で自分が嫌になりそうだったその時、ドアをノックする者がいた。




