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第45話

 その日は一日、ユメカとラザンはそれぞれひとりきりになって作業を進めていた。

 セイガもふたりのことが心配ではあったが、自分が口を出すような問題では無い気がしたので、ユメカに声を掛けられなかった。

 そうして、夜になった頃、セイガの元に一通のメッセージが届いた。


「あは、ゴメンね急に呼び出したりなんかしちゃったりして」

 学園の隠れ亭の近くにある公園、街灯の照らすベンチにユメカは腰掛けていた。

「いや、俺もユメカと話をしたかったから……嬉しいよ」

 セイガはゆっくりとベンチに近付き、ユメカの隣に座った。

 ふんわりと、いい匂いがする。

「あはは、セイガにはさ……なんとなく今の私の気持ちっていうか考えているコトを聞いて欲しかったのでございますよ♪」

 照れくさそうにぷにぷにとほっぺたを触るユメカ、ちょっと弱弱しくもみえるその仕草にセイガは胸が締め付けられるような感じがした。

 自分の感情も見透かされているようで……

「俺も……いや、ゆっくりでいいから話してくれないか?」

「うん、それじゃあ話すね」

 ユメカは訥々(とつとつ)と、自分のライブに対する想いを話し出す。

 きっと自分の中でも迷っている部分があるのだろう、何度も言い直したり、つい声を荒げてしまう場面もあった。

 ただ、それでも、ユメカがどれだけ今度の初ライブに全霊を賭けているかよく分かった。

「お客様、というか人に歌を、想いを届けるのって本当に大変だよね、準備も勿論重要だけれど、どうすればいいのかなんて、全然わかんないもん」

 ユメカが街灯の光をみつめる。

「でもね、だからこそせめて、私は今の私の想いを大事にしたいと……きっと思ってるんだ?」

 まるで、それは告白のような流れで、セイガは緊張する。

「その……ふふ、私の今の想いっていうのはね?」

「うん」

「セイガの……ううん、みんなの負担になりたくないんだってコト」

「……え?」

 想像していた言葉じゃなかったので、セイガは困惑した。

「ほら、私って今は使えないけれど『W真価』のトリガーみたいな存在じゃない?その秘密と私自身を守るためにセイガをはじめみんなが頑張ってくれてるよね」

 本来、『真価』はひとりにひとつだけのものだ。

 しかし、ふたつの『真価』を持つものも存在して、その能力は圧倒的に高く、このワールド全体の存続にも関わるほど強力なものだった。

 セイガ達はかつて、そんな存在と出会い、さらにセイガ自身は『W真価』を体験した数少ない存在だった。

 だからこそ、この一連の事実を隠さないといけないことはよく分かっている。

 そしてユメカを守ることが自分の一番の目標というか、強くなりたい理由だった。

「そう言えば……守られているばかりは嫌だって、前にも言っていたよね」

 セイガには昔、ユメカを守りたい、その気持ちが先行しすぎて悔やんだ日もあったのだ、その時に確かにユメカはそう言っていた。

「うん、あと……それだけじゃなくて今はね、折角夢を叶えようとしてるんだから自分ばっかりじゃなくてみんなと一緒に、みんなの傍で進んでいきたい、そう思ってるんだよね、ふふふ♪」

 ユメカの柔らかな微笑み、だから無理してでも今回、ユメカは学園郷に来たかったのだとセイガは理解した。

「そうか、それでラザンさんの言うことが聞けなかったのか」

「うん、ラザンの言いたいコトは痛いほど分かる、けど今はやっぱり自分を曲げたくないんだ……ふふ、ワガママだよね、私」

 ユメカが立ち上がり、セイガの方を振り返る。

「だったらそれをラザンさんにもちゃんと伝えたらいいと思う」

「そうだね」

 もう、ユメカに迷いは無かった。

「うふふ、ありがとね♪、やっぱりセイガに話したらスッキリしたよ」

「それは良かった」

「ところでセイガも何か私に言いたい感じだったけど、何かあったの?」

 ユメカの素朴な返し、しかしセイガには答えられなかった。

 だって、自分の方は単純にユメカとラザンの距離が近くて、信頼関係が深くて羨ましいというか、嫉妬していただけだったからだ。

「いや、それはもういいんだ」

「え~~~~? なんかそんな風に言われると気になっちゃうなぁ、ふふ」

「本当に大したことでは無いんだ」

「あはは、だったら話してくれてもいいじゃん」

「いや…その」

 そうやって詰め寄るユメカに困りながらも、セイガは嬉しくなっていた。

 きっと明日はいい日になる、そう思えたから。


 次の日。

「昨日は言い過ぎたっ、歌い手の意思を尊重しないのはサポートとして失格だっ」

 一日考えて、頭が冷えたのか、開口一番ラザンが頭を下げる。

「うわ、そこまでしなくていいよぅ……ラザンが言っているコトだって間違ってないのは私だって分かってるもん…うふ」

 ユメカもラザンの手を引き、顔を上げさせた。

「これでひとまず解決かしら」

「そうですね、仲直りができて良かったです」

 ここは学園の隠れ亭の裏庭、心配だったレイチェルが立会人として来ていたがそれは杞憂に終わったようだ。

 セイガも大丈夫だとは思っていたが、気になるのでついて来ている。

「ラザンごめんね、それから……ありがとう」

 ユメカが手を差し出し、ラザンがそれに応える。

「ライブまであと少し、お互いに全力で行こうぜ、相模♪」

 やはり、その信頼関係は妬ましく思ってしまうセイガだった。

「だったらさ、ラザンもこっちに来ればいいじゃん♪ ふふふ」

「…はっ?」

 突然の提案に面食らうラザン

「馬鹿野郎っ、俺は自分の機材じゃないとダメなんだよっ」

「あはは、だったらそれもこっちに持って来ればいいじゃん、ねえねえ、一緒にバカンスしようよ~☆」

「バカンスなんてしてる暇は無いっ」

「え~~~~?」

 そんな押し問答の末、結局ラザンも学園の隠れ亭に滞在することとなり、後日大量の機材が部屋に届いたのだった。

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