第43話
セイガがリンディと別れて帰宅すると、シオリより先に海里が出迎えてくれた。
「おかえり♪ …それで、どうだった?」
「ただいま、ラスは結局みつからなかったよ、大佐とひ…核熱の魔女も諦めて帰還するようだよ」
その言葉を聞いても海里は無表情だが、安心しているようにセイガには見えた。
「ね、ちょっとだけお話、しない?」
海里は着替えていて、今は派手な黒い革のジャンパーを着込んでいる。
真夏だから暑そう、というか下に着たTシャツは少し汗ばんでいた。
「ああ、いいよ」
「それでは、お茶でもご用意しましょうか?」
ちゃっかり背後にシオリがいつも通りのクラシカルなメイド姿で佇んでいる。
「あ、いやお茶は結構っす」
海里はそう言うと、セイガの手を引き、自分の部屋へと招き入れた。
「それで、話っていうのは?」
海里の部屋は、白い壁紙を新たに貼ったようで、真新しい清潔感のある空間になっていた。
これも新たに買ったらしい黄色のふかふかのソファーにふたりは並んで座りながら目を合わせる。
「ま、セイガ氏には迷惑掛けちゃったし、ホントのコトを話とこっかな…とね」
海里の表情は読めない、けれども正直に話してくれるようだった。
「まずは…アレだ、……ほんっとスンマセンでした!」
ソファーに顔がつくくらいの土下座だ。
「ええ!?いや別にそこまで……」
「や、最初から説明すると実はこの前キマイラをけしかけたのって私なんだよね」
…
「は?」
予想外の言葉にセイガが固まる。
「ちょっとセイガ氏達の実力が知りたくて~ある所を経由してキマイラを使って~データ収集をしてたってワケ、だから直接キマイラを作ったわけじゃないけどキマイラの原因は私なんだ……ゴメンね」
データ収集というくらいだから、あの戦闘についてはセイガの家が全壊したことも含めて海里は知っているのだろう。
まさかそんな目的でキマイラが襲ってきたとは…場合によっては死者が出てもおかしくないくらい、アレは強かっただけに流石のセイガも顔をしかめた。
「それは……なんて言ったらいいか難しいけれど、正直に話してくれたから、もういいよ」
ゆっくりと顔を上げる海里、その瞳はキラキラしていた。
「はぁ、スッキリした~ ま、それでね、私とキマイラ使いの間を取り持っていたのがラスなんだよね」
「……なるほど」
「ラスは本当にヤバい奴だし、あちこちにパイプがあって、裏の世界では有名なの、だからまあ、正直セイガ氏とは合わないというか会わせない方がいいというか…危険な人物なのは確かなのよ」
これは本当にセイガを心配しているのだろう。
「それでは、大佐と核熱の魔女が疑っていたように……」
「うん、今回も私がラスから情報が欲しくて会う話になったんだよね」
「ラスを逃がして時間稼ぎをしたってのも……」
「うん、本当、ラスの気配を残したのも私の<呪文>の力だしね」
「おおう…」
セイガは頭を抱えてソファーに蹲った。
結局ラスを野放しにしてしまったのは、自分にも責任があったってことだ。
「セイガ氏は私は悪くないって信じてくれたのに、裏切る形になってゴメン」
セイガの後頭部に温かい何かが触れられている。
「ただ、信じて欲しいのは最初からセイガ氏を嵌めるつもりは無かったってコト」
元々、セイガがあの場にいたのは偶然、海里をみつけたから。
「だから、セイガ氏が私をここまで信じて、庇ってくれたのは……嬉しかった」
さらに何かが押し付けられる、柔らかいいい匂いのする……
「やっぱり私……シたいかも」
セイガの心臓の鼓動が速まる。
「海里……」
「お礼ってコトで……ね?」
「いや、でも」
この流れはいけない、そうセイガが思った時、鍵を掛けたはずのドアがゆっくりと開いた。
『え?』
「これは『メイドは見た 昼下がりの情事編』でしょうかね?」
セイガと海里、ふたりが驚いて振り返るとそこにはニヤニヤとしながらシオリさんが覗き込んでいた。
『シオリさん!』
「ごめんなさい~ つい好奇心が限界突破してしまったもので、テヘ☆」
そんなこんなで、結局色々あったものは全て有耶無耶になったのだった。




