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第40話

 共に暮らす人が多ければ、その分起こる出来事も多いのだろう。

 セイガ達の中でも様々な思惑があるのだろうが、それぞれが学園郷での日々を楽しんでいた。

 そんなある日のことだ。


 セイガは日課のシオリとの鍛錬を終えて、イーストアカデミアの街中をひとり歩いていた。

 それは特に何とはない、ただの散歩だったのだが…

 ふと視界の先に見知った人物を認めて立ち止まる。

 それは海里だった、いつもと少し雰囲気の違う目立たない服装でキャップとサングラスをしている。

 セイガは声を掛けようとしたが、その前に彼女は狭い路地へと姿を消した。

(……?)

 ハッキリとは言えない何か、嫌な予感がした。

 何も無ければいいが、追いかけて一度話をしたい、そうセイガは思った。

 ちらりと見た海里の表情、瞳はサングラスで見えなかったが、愁いを帯びているように感じたのも大きい。

 尾行となると失礼だとは思ったが、杞憂なら謝ればいいとセイガは判断した。

 そして、海里の気配を手繰った。

 これは少し前、鍛錬中にシオリに教わった方法である。

(人が人に感じるイメージ、そこから得られる気配を見るのです)

 心を研ぎ澄ませれば、探す人の動きが糸のように見えるのだという。

(その気配、糸を掴み、引き寄せていけば、相手の場所も行動も自ずと分かる筈ですよ)

 路地に入り、微かに海里の気配の残り香のようなものをセイガはみつけた。

 目の前には薄暗い通路が続いている。

 先程の嫌な予感が一層大きくなるのを感じながら、セイガはゆっくりとその先へと進んだ。 


 何かの倉庫なのだろうか、開けた空間に海里は立っている。

 その視界の先には、小さな影がひとつ。

「こちらの希望に合わせてくれて、感謝するわ」

 影に向かい、海里が軽く礼をする。

『構わないよ、これも依頼主に対するサービスだ』

 影からの声、加工しているのか妙に心を掻き乱されるような音質だった。

「その割には正体を見せる気が無いようだけれど?」

 闇に浮かぶ小さな影

 それは声と同様に何らかの細工をしているのか、姿をうまく認識できない。

『その点は失礼するよ、正直に言えば僕はあまり表に出ない方がいい存在なんだ』

 くつくつと笑いながら影が蠢く。

「正直に…ね、それじゃあこちらも正直に言うけど……実は私には貴男のその正体が見えているんだよね」

 海里がサングラスを外す、黄色と青の澄んだ瞳……

「私の『真価』……『見えないものは見える』のよ」

 きらりと、海里の目が輝く、影の方は思ったより驚いていないようだった。

『その正直さは評価するよ、ただ……僕を見ない方が幸せな一生を送れたのかも知れないから、その点は同情したいね』

 海里には、『彼』の動きが見えた。

 だからこそ、その言葉の意味もまた、理解できた。

「ま、他言無用にしておくわ」

『それが賢明だね、さあ早速君の要求を聞かせて貰おうかな?』

 この会談は、海里から願ったものだ。

「私の要求は簡単よ、『世界王』に関して……貴男が知っていることを全て教えて頂戴」

 サングラスを直しながら、海里が詰め寄る。

 その表情はとても固かった。

『世界王……そんな人いたのかい?』

(とぼ)けないで!同じ『狂った未来』の人間でしょ!?」

 癇癪を起こしたような海里に対して、影は揺らめくのみ。

『ははは、随分と冷静さを欠くじゃあないか、そんなに彼が嫌いなのかい?』

「そんな次元の話じゃない……」

 全身の毛が逆立つような怒りで、海里は影を睨んだ。

『冗談だよ、彼も君のような綺麗なお嬢さんにそこまで想われているなら本望だろうね、はい、これ』

 影の中から、黒い水晶のような物体が生まれ出る。

『ここにある程度のデータは乗せておいたから、見てみるといいよ』

「……感謝するわ」

 手荒く海里がそれを手にすると、物体は青く光り、さらさらと消滅した。

 同時に海里の頭の中に知識が流れ込む。

「うぷっ……気持ち悪い」

 その内容と、入り込んだ時の感触に海里は嘔吐しかける。

『話は以上かな?』

「待って、まだ聞きたいことがある」

 しかし、影は応えない。

『どうやら、君の跡をつけた者がいるよ……残念だ』

 海里もその気配に気付いてハッとする。

「……逃げて!!」

 それは誰に対する言葉だったのか、

 影は闇に溶け込み、その姿を消失させた。

 海里の残響だけが広い倉庫を包む……

 そして、セイガが倉庫の入口に姿を表した。

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