第36話
楽しい昼食を終えた一行は、ひとまず「はじまりの学び舎」を出て、魔法の絨毯を使って街中へと移動していた。
「車もありますがこちらの方が気分が出るでしょ?」
というのがシオリの弁だ。
「そういえば、レイチェル先生も前に絶対領域で即座に料理を作り出していましたね?」
それは、セイガが初めてワールドに辿り着いた一日目、最初の夕食のことだった。
「ええ、そうね……でもアレは自分が作った事がある料理を再現させる方法だから、魔法食堂の方が高度な魔法と言えるかもですね」
レイチェルは恥ずかしそうに謙遜したが、セイガとしては今でも忘れられない、とても美味しい食卓だった。
「へぇ~、私もレイチェル先生のお料理、食べてみたいな♪ ふふ」
「ありがとう、どうせなら学園の隠れ亭でそれぞれ料理を作って振舞うというのも良いかも知れないですね♪」
「面白そう! ちなみに私は魚も捌けるぜぃ」
「ルゥは……ん、みんなが喜んでくれるならがんばるよ☆」
「ボクだって結構料理は出来るんだから……ってハリュウその目は絶対信じて無いでしょ!」
「あら皆様、それは『完璧なメイドさん』である私への挑戦状とみてよろしいでしょうか?」
女性陣の楽しそうな声、その中にフランが交ざっていないのがセイガ的には少し気になったが、つまらなそうな様子とも違うようだったのでまずは様子を見ようと思っていた。
ハリュウとJも鼻の下を伸ばして楽しそう…いや、自分も充分に楽しんでいるとセイガは実感した。
「さて、そろそろ次の目的地、私セレクトの面白研究塔に着きますよ~♪」
シオリが遠くを指差す、街には大小のとんがり屋根の塔が立ち並んでいる。
なんでも学園に正式に認められた研究者には研究塔が与えられていて、その際に統一性を持たせるために三角のとんがり屋根を最低1つはつける必要があるのだという。
確かに、様式は各戸色々違うが、てっぺんに分かりやすい屋根があるから遠くから見てもそれらは同じ研究塔だと分かる。
その中でも、一際派手というか、妙にビビッドなデザインの塔に、セイガ達は降り立った。
「ここは『魔法心理学』の研究者であるカラメッテ先生の研究塔です、それなりに偉い先生なのですが、非常にあほらしい…失礼、独創的な実験や開発をする事でも有名な方だったりします」
「ふふ、確かに私もお噂は色々聞いていますね」
レイチェルの言い方にも何か含みがある。
「なんか…絶対変な実験とかしてそうな雰囲気だもんね」
先頭を歩くメイ、気付けば扉の前には先客がいた。
「あれ?君たちはもしかしてさっきぶりじゃないか!」
メイを跳ね除けてハリュウがそのふたり組の前に立つ。
『あ~、さっき写真を撮ってくれたおにーさんだぁ♪』
同時にしゃべったふたりは同じ背格好、お揃いの服を着た十代の女子だった。
「あなた達もこちらの研究室の見学に来たの?」
レイミアの問いにふたりは同時に頷く。
『わたし達っ……』
ふたりは一瞬顔を合わせると、まずはセイガ達から見て右側の子が話し始めた。
「わたし達、次のシーズンから学園郷の共同学校に入るんですけど~折角だから休みの間にも色んな研究塔を見たくて~」
続きを左側の子が引き継ぐ。
「ネットの情報だとココが有名だったし、わたし達、あ、わたし達きょうだいなんですけどまだ『真価』を持ってないからコレから?を考えて今日は見学しに来たんですよ」
『ね~♪』
最後は一緒に締め括った、どうやら双子らしい。
「なるほど、子孫の子達だったのね」
レイチェルは納得していたが、セイガには少しピンとこない点が幾つかあった。
「子孫というのは何ですか? それと共同学校というのは学園とは何かが違うのですか?」
わざわざ子孫という言葉を使う以上、何か特別な意味があるようにセイガには思えたのだ。
「そうね、まずここで言う『子孫』、というのは一般的な意味ではなく、このワールドで生まれた子供達、つまり再誕者と区別する意味での言葉ですね」
こうなるとレイチェル先生の本領発揮だった。
「子孫はある程度年齢を経てから『真価』を取得できます」
「うん、タクトも子孫だよね」
タクトというのはメイの知り合いで、セイガ達も何度か会っている、とある少数部族の子供だ。
「それに子孫は再誕者と違ってまだ知識や経験が未熟な面がありますから、そういう子孫たちを集めて教育を行う施設があるの、それが共同学校」
そこでレイチェルが人差し指を軽く振る。
「学園が運営するものや国家、個人で運営するものなど種類は多いのですが、この学園郷はワールドで一番最初に発展した都市だけあって共同学校の数も一番多くて内容も充実しているの、だから子供たちを学ばせるために一時期ここに住む家族も多いと聞いているわ♪」
「なるほどです」
セイガが納得して頷くと同時に周囲から自然と拍手が起きていた。
「残念、説明役を取られてしまいました、流石説明お姉さんの地位は強固ですね」
「あはは、シオリさんの役を取りたかった訳では無いの、性分というか…ね?」
「存じております、私も精進しないといけませんね」
ふたりはそのまま柔和に微笑む、どうやらお互いに自分の仕事に誇りがあるからだろう、セイガには眩しく見えた。
「私達のトコ(シックスト)にも学校はあるけど、ちょっと意味合いは違うかな……牢獄というか、私は好きになれなかった」
海里もどうやら学校に通っていたようだが、その表情はあまり明るくない。
「私も、退屈であんまり行かなかったかなぁ」
瑠沙もつまらなそうに呟く、それを見て双子の表情が少し曇っている。
「ま、まあコレから入るんなら、自分なりに楽しめるよう頑張ればいいもんね……あはは♪」
場の雰囲気を和ませようとするユメカ、それに被せるようにハリュウが双子の前に躍り出る。
「ちなみにふたりの名前は何ていうの? オレはハリュウ! 短い間かも知れないけどよろしくな♪」
眩しいくらいの笑顔で双子に近付くハリュウ。
『あははっ』
双子はひとしきり笑うと
「わたしは『マリナ』♪」
「わたしは『カリナ』だよ♪」
とそれぞれ自己紹介をした。
「ボクはメイ、わぁ、何だか不思議と親近感が沸くよ~」
メイが早速双子と握手を交わす。
「そりゃ歳が近いからだろ?」
メイも再誕者だが、覚えている限り、生まれて今までの年月は17年とまだまだ子供であり…
「あ、そっか☆ キミ達は何歳? え?16歳、それじゃあボクより年上だね」
メイの体は、ワールドに来た時の14歳のまま、成長はしていないのだ。
そんな複雑な事情はさておき、セイガ達一行は双子と仲良く研究塔へと向かうのだった。




