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第35話

 開けたその場所に、知恵の魔女の石像は鎮座していた。

 ローブを纏い、杖を掲げた髪の長い女性、理知的な顔は天を仰いでいる。

 神々しさと美しさを湛えた圧巻の姿に見る人はみな心奪われていた。

「うわぁ…凄いですね」

 セイガもまた、芸術と言われるとよく分からない方だったが、この像の持つ迫力に心躍っている。

「ワガハイはもう少しエロスが欲しい所ですが、これはこれで妄想が捗りますな」

「コラコラ」

 海里は頬を赤らめるJをツッコミつつ、瑠沙と共にポーズをまねて写真を撮ったりしている。

 ユメカも何か琴線に触れたのか、いい構図を探して何度も写真を撮っていた。

 メイやエンデルクは静かに眺め、ハリュウはその場にいた若い女の子達に頼まれ写真を撮ってあげたりしている。

 セイガはずっと感慨深く見つめていたが、ふと何かを感じた。

「セイガ様、如何されましたか?」

 それに気づいたシオリがセイガの脇に近付いた。

「あ、いえなんていうか…この方と似たような誰かを俺は見たことがあるような気がしたのだけれど……思い出せないので多分気のせいでしょうね」

 そう、ハッキリとは言えないが、既視感のようなものをセイガは感じていたのだ。

「そうでしたか……ふふふ、セイガ様ならばもしかしたら本当にお会いしているのかも知れませんね♪」

 シオリが無邪気に微笑む、今までとは違う表情にセイガは少し驚いた。

「そうですかね?」

「ええ、あの方もまた強い力や存在に惹かれるというか縁が深い人でしたよ」

 素直に聞いていたセイガだったがふと違和感に気付く。

「あれ?何だかシオリさんは知恵の魔女のことを良く知っているような?」

「はい、昔の話ですが一時期お仕事を手伝っていたことがあります」

 …

「あの知恵の魔女と会ったことがあるんですか!?」

 セイガの声に合わせて、周囲の視線がシオリに集中する。

「はい」

 湧き上がる歓声と共に胸を張るシオリ、ちょっと自慢げにも見える。

「はぁ~~~、凄いですね」

 改めて、このワールドでは見た目と生きてきた年月とは一致しないことをセイガは実感した。

「あ、因みにご主人様だったわけではなく友人としての関係です、私も既に何十年もお会いしていないのですがあの方はきっと相変わらずでしょうね」

 知恵の魔女はかなり前から公の場には現れていないという。

 ただ、その存在は伝説的な意味で今でも広く知れ渡っていた。

「学園を作った人かぁ……私もちょっと会ってみたいかも、うふふ♪」

「きっと相当に面白い人生を送ってそう、ふふふ」

 ユメカと海里が顔を見合わせて微笑む、それを見たセイガは何となくだがいい気分になった。

「セイガくん、すごく嬉しそうだね」

 ひょこっと瑠沙が下から覗き込む。

「ああ、こうしてみんなが自然に笑い合えるのは、仲良くなっている証拠に思えるから…多分それで嬉しい顔になったんだと思う」

「私がみんなと仲良くなっても嬉しい?」

「ああ、勿論」

「そっか、じゃあ私もここの生活を思いっきり楽しんじゃうから、セイガくんもちゃんと私を見ててね☆」

 瑠沙はぎゅっとセイガの両手を掴むと、魔女の像へと近付いた。

 メイは、そんな光景を黙って見ていたが…

「……えいっ」

 と、セイガの背中にいきなり飛び掛かった。

「メイ、どうした?」

 セイガの体は、日々の修行のお陰か見た目よりもずっとがっしりとしていて、メイがぶら下がる程度ではびくともしない。

「えへへ、みんな仲良く、でしょ?」

「あ~~、私も乗りた~い~」

 そうして、何故かメイと瑠沙を背負いながら、セイガは知恵の魔女を眺めることになったのだった。


 続いて、セイガ達が訪れたのは、とても広い空間だった。

「ここは世界図書館と呼ばれています」

 シオリが手招きをしながら一行を導く。

 広いエントランス、それを円で囲むように大きな本棚が並んでいる。

 さらに本棚は上空や外周に何十段も続いており、青い照明に包まれた静かな空間には本を探す人々と大量の本棚が行き来していた。

 そして最も上、遥かな天井には円形の大きく光るものが見える。

「あれは……もしかして」

 セイガもそれを感じていた。

「はい、上空にあるのは昇世門です、ここは第4リージョンに於けるネットワークの中心であり、枝世界やワールド全体の情報を集めた場所なのです」

 本だけでは無い、ここはワールド中のデータを集積している、まさに世界の図書館、知識の倉庫なのだ。

「ほえ~~~、ここの本は一生かかっても読み終わらなそうだね、うふふ♪」

 ユメカが文字通り、天を仰いだ。

「ここでは自ら本棚を見て歩いたり、検索して欲しい情報や本を手に入れることもできます、そしてこれが皆さんのために用意したパスです」

 シオリが額窓を開くと、同時にこの場にいる全員の額窓がそれぞれ出現した。

「へぇ、これは相当な権限があるみたいだね」

 表示された情報を確認して、海里が面白そうにしている。

「はい、ラプラス教授の指示で皆様には学園の上級教師と同等のものを付与しました、これでこの図書館の情報の大半や、周囲の研究塔や学園施設の使用が可能となります、使い方は今から説明しますね」

 そうして、シオリはセイガ達にまずは世界図書館の使い方をレクチャーする。

「なるほど、これならば比較的早く情報が揃いそうだな」

 エンデルクが満足そうに頷く。

「はい、今日は簡単な説明だけで終わりますが、以降は皆様がそれぞれ自分の使いたいようにこの学園郷をお楽しみくださいませ……まあ、レイチェル先生は既に同等の権限をお持ちでしょうから蛇足になってしまいますけどね」

「いえいえ、私も学園郷(ここ)に来るのは久しぶりなので、折角の機会ですし色々と学ばせていただくわ♪」

 レイチェルとシオリ、綺麗で背の高いふたりが並ぶと、場がさらに華やかになるように見えた。

「それでは、我等はここから別行動に移らせて貰おう」

 エンデルクはそう告げると、供のふたりと共にエントランスに備わる浮遊する床に乗り込んだ。

「エンちゃん達はここで調べたいコトがあるんだっけ?」

「そうだ、我が学園郷まで足を運んだのは、『メレフ』に関する情報を探すためだからな」

「……めれふ?」

 首を傾げるユメカにエンデルクが自嘲気味に微笑む。

「それが何なのか、全く分からないものだ。ただひとつ言えるのは……我等が元の世界に帰るためにはその正体を知らないといけないという事だ」

 溜息をつくエンデルクを見ながら、ユメカが少しだけ寂しそうにしている。

 エンデルク達は、そう遠くない未来に、ワールドから去るであろう。

 その事実を実感したからだ。

「そっかぁ、うふふ、早くみつかるといいね」

「はい、わたしもそうねがってます」

 ルーシアが小さく頭を下げると同時に、浮遊床が動き出す。

 そうして、セイガ達は去って行くエンデルクを見送った。


「続いてのおススメはこちら☆ 魔法食堂でございます~」

 学内の一画、昼時ということで沢山の人々が広いテーブルで食事を取っている。

 内装は普通のお洒落なレストラン、といった感じだ。

「ここは飲食だけでも沢山の施設がございますが、特徴的といったらまずはここが一番なのですよ」

 そう言いながらシオリが全員を手近なテーブルに座らせる。

「メニューは?」

「ありません」

「店員さんは?」

「いません♪」

 シオリの返答に海里も瑠沙も困っている。

「皆様、早速ですが、何が今食べたいか、頭の中でイメージして貰えますか?」

 シオリの突然の提案に戸惑う一行

「出来れば細かい方が分かりやすいですし、特定のお店の好きなメニューなんてのも良いかも知れませんね」

 セイガは何となく、前にユメカと一緒に枝世界で食べたハンバーガーのことを思い出していた。

 すると、セイガの目の前に、ポンと音を立てて、小さな紙片が現れた。

 手に取ってみると、そこには文字と写真でハンバーガーのセットが表示されている。

「はい、注文票が出てきた方~♪ それでオッケーならばその紙をテーブルの上に載せてください、イメージと違った方は軽く破って貰ってもう一度イメージしてみてくださいませ」

 セイガは見た感じ、問題が無さそうだったので、おもむろにテーブルの上に紙片を置いた。

「……ん!?」

 紙片から小さな煙が生まれる、そして次の瞬間には

「おおっ!」

 セイガの目の前に写真と寸分違わぬハンバーガーのセットが出現したのだ。

「はい~、魔法で一瞬のうちに望んだ食事が出来る!これがここが魔法食堂と呼ばれる理由です♪」

 そうして、皆の元にも次々と料理が並んだ。

 天ぷらにサラダに大きなシチュー、各自が望んだそれぞれのメニューでテーブルがいっぱいになった。

「うわ~、ははは、これはエンちゃん達も一緒に来ればよかったのにね♪」

「そうですね、コレは絶対面白いですもんね!」

 ユメカの前には独特なソースの掛かったカツ丼、メイの前には具が山盛りになったラーメンがあった。

「皆様揃いましたか~ それでは♪」

『いただきます!』

 そうして、賑やかな昼食の時間が過ぎたのだった。

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