第34話
皆の食事が終わり、この日はまず学園郷の中心部、4―01支部を見学することになっていた。
「しかしすまないねぇ、本来なら私が直接見せてあげたかったのだが…」
申し訳なさそうにしているのはラプラス教授だ。
元々は昨日、彼が学園を案内をする予定だったのだが、セイガ達の到着が遅れ一日ずれたうえ、急遽教授の方も仕事が入ってしまったのだ。
「教授はお忙しい立場ですから、仕方ないですよ」
それがよく分かっているレイチェルの言葉、同じ教師でも学園郷は規模が大きすぎるため成さねばならない仕事も多いのだ。
「ご安心ください教授、皆様のお相手はこの私が完璧に務めてみせます」
メイド服姿のシオリが恭しく頭を下げる。
既にここにいる全員がシオリの正体に驚いた後ではあるが、そのメイドとしての有能ぶりも朝の時点で再確認していたので、安心ではあった。
何せ、朝食の準備から今日の時点の全ての家事を既に済ませて、今朝決まった案内の方もプランを完成させているというから驚きだ。
「シオリさま……すばらしいです」
特にルーシアは感動し、尊敬の目でシオリの傍に付いている。
「それでは、行ってきますね」
セイガ達は教授に別れを告げて、学園へと向かった。
「ほぇ~~~~、これはまたスゴイ綺麗な建物だね♪ふふふ」
ユメカの言葉通り、一行の前には宮殿のように大きく、見る者を圧倒させる装飾の施された白い建物が広がっていた。
「厳密に言うと、このイーストアカデミア全体が学園の敷地なのですが、学園の理念と象徴のために作られたのがこの『はじまりの学び舎』です」
大昔、この第4リージョンに初めて降り立った存在。
F Rがこの広いワールドの中で最初に作った学園がこのはじまりの学び舎だった。
因みに、FRは7人いて、それぞれ第1から第7リージョンへと再誕したと言われている。
「第4リージョンのFRである『知恵の魔女』様がこのワールドの在り様として求めたのが再誕した人達が互助するための『学園』という概念であり、それに賛同した人々の尽力もあり学園はこのワールド中に広がったのでした」
ワールドにとって、学園という存在はとても大事だとセイガも思っている。
その原初の場所、そう考えるだけで胸がワクワクしていた。
「まあ、確かに『学園』は第6リージョンにもあるけど、ここまで大きいとやっぱり壮観だねぇ!」
海里が両手を伸ばす、素直に喜んでいるようだ。
「勉強する学校というより、なんだかお城みたいだね♪ カッコいいから私はこっちの方が好きかなぁ」
瑠沙も自分が通っていた学校との違いに驚きつつも感動していた。
「あーー、私は学校、嫌いだったな」
同じく昔を思い出したのか、海里の表情に苦みが見える。
「プレイヤーにとっては、学校など無意味ですからな」
Jの言葉に海里達はそれぞれ複雑な反応をした、海里は冷たく、瑠沙は無表情、フランは怒りのようなものを滲ませている。
「学園と学校は違うのですか?」
再誕してまだ日が浅いセイガが聞いた。
「ワガハイが言う『学校』は第6リージョンの未成年が集まる教育機関ですな、法律上義務化されているのですが、我々再誕した者からしたら特に必要のない場所なのですよ」
それは何となくセイガにも理解が出来た。
再誕した人の多くは前の世界で既に学んだ知識や経験がある。
「レプリカントの教育には丁度良いのでしょうがね……や、失敬」
海里がJを睨んでいる、Jもそれ以上何も言わなくなった。
「そんなのはどうでもいいから早く中に行こうよ♪」
明るく笑う瑠沙に手を引かれ、セイガは歩き出す。
一行がそれに続く形で建屋へと入っていく。
はじまりの学び舎の中は沢山の人々がいた。
セイガ達の通う学園と同じく、多種多様、老若男女、それだけでこのワールドが沢山の枝世界から色んな人が訪れているという事実が分かる。
だから、個性豊かに見えるセイガ達一行も、そこまで目立つ存在ではない。
「ここ、4―01支部は知恵の魔女様の影響からか魔法に関する研究に携わる者が多いという特徴があります、街のあちこちに見える三角屋根の建物は基本的に学園の許可を受けた研究塔だったりします」
広い廊下を歩きながらシオリの説明が続く。
「ああ、アレが全部そうなのですね……それは凄いな」
セイガは今朝、シオリと見たイーストアカデミアの街並みを思い出していた。
確かに三角屋根の大小の塔のような建物が乱立していて綺麗だった。
「ふふ、レイチェル先生、何だか説明を全部シオリさんに取られちゃいましたね」
セイガの後ろにいるユメカが、そのさらに後ろにいるレイチェルへと振り返りながら囁く。
「ええそうね、何だかもどかしい気持ちもあるけれど、シオリさんの話は勉強になるわ」
「あの、レイチェル先生はここには来たことはあるんですか?」
ユメカの隣りにいたメイの素朴な質問、本当はもっとセイガに近付きたかったがその隣は瑠沙と海里が取ってしまっていたのだ。
「何度か、仕事の関係でね、個人的にはいつ来ても教師として身が引き締まる感じがするわね」
「ふふふ、レイチェル先生は真面目だなぁ♪」
「職業病かしら、うふふ」
そんな会話をつい聞いてしまうセイガだった。
「この先には学園の創始者、知恵の魔女様の石像があります、お祈りすると願いが叶うと信じられているので観光名所にもなっていますね」
確かに、シオリの指差す方、道の少し先から、人の密度が増えている。
おそらくその向こうに石像があるのだろう。
「お祈りってのは眉唾もんだけど、どんな石像かは見てみたいね♪ふふふ」
ユメカを始め、前列の女性陣は大体興味を示している。
「有名な彫刻家が作成したものですから、似ているかは別として、とても素晴らしい作品ですよ」
「魔女というくらいなので、魅力的な女性像だと嬉しいですな」
Jがやや下卑た笑みを浮かべている。
因みに、後列にいるエンデルク達やハリュウ、それにフランはそこまで興味が無いのだろう、ほぼ無言でついて来ていた。
「ハリュウさんはシオリさんのような女性もお好みかと思ってました」
ふと、からかうようにテヌート、ルーシアは本当はシオリの隣りにいたかったが、エンデルクの乳母である自分を律して後ろにいるのだった。
「ま、美人ではあるよな、ただちょっと…いや、何でもない」
珍しくハリュウが言い淀む。
「ハリュウさま?」
「や、同じメイドならルー嬢ちゃんの方が可愛いってな☆」
ハリュウの冗談、だがエンデルク達には効かなかった。
「わたしは乳母ですよ、わすれちゃ、めーっです」
「我の部下に手を出すことは、許さん」
「はははは、誤魔化し失敗ですね」




