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第32話


 第2章



 港に、豪華客船「ティル・ナ・ノーグ」号が停泊している。

 世界中を周遊している「ティル・ナ・ノーグ」号にとって百龍島は寄港地のひとつに過ぎないのだが、今回船体のダメージが大きく、修理や今後の調整のために通常よりも長い停泊になる予定だった。

 午前中は色々な処理に追われ、船内外で大騒ぎだったが、午後になってから少しは落ち着いているようだ。

 結局、オーレリアの件は自然災害という扱いになった。

 人為的だったとはいえ、オーレリアは消え、イーカルに責任を負わすのも忍びないということで船長も納得してくれたのだ。

 それから、謎の義援金もあり、会社としてもどうにか負債を免れた点もあったのだろう、最後に会った時、イーカルはとなりの彼女と共に笑って見送ってくれた。

 そうして、セイガ達は旅の続きを楽しむこととなったのだが…


「結局飛行機も使うんだね、ふぅ」

 真下に見える百龍島の景色を眺めながら、海里が溜息をついた。

「ま、空から見る天海山も見事だろ?」

 この飛行機、ウイングの持ち主でありパイロットであるハリュウが自慢げにそう言った。

 朝、最初に見た大きくて綺麗な山は天海山といい、百龍島の中心に聳えるこの島で一番高くて有名な山である。

 標高は5000m程、ウイングはそのさらに上空を現在飛行していた。

 遠くには青い海岸線と緑の山々、それから海沿いには都市部も見えている。

 確かにそんな様々な形の景色を見ているのも楽しいものだ。

「今から向かうのは島の東部、イーストアカデミアになります」

 セイガが予習してきた内容を説明する。

「学園郷には魔法を中心に発展してきた東の01支部と科学を得意とする西の02支部の2つの学園が存在していて、俺達がお世話になる宿があるのがイーストアカデミアなんだ」

 飛行機の進行方向には広い平野が広がっている。

「勿論、滞在中は他にも様々な場所に行ってみる予定だけど、イーストアカデミアからなら比較的簡単に移動可能だし、やはり一番最初に出来た都市である分、長期の滞在にも向いているから、今回滞在するのはここになりました」

 百龍島は他にも北部の自然地帯や南部のリゾートエリアなど見所の多い場所だ。

 セイガとしては各自の好みや予定に合わせつつ、案内が出来ればいいなと考えていた。

 セイガ自身もまた、したいことが沢山ある。

「ふあぁ~あ、そのお宿には今日中に着くんですよね?」

 見回りで起きるのが早かった分、メイはかなり眠そう、というかつい先ほどまで眠っていたようだ。

「うん、もうすぐ空港だし、お宿の人が迎えに来てくれるって話だよ~」

「私の知り合いで、恩師にもあたる方ですね、待たせてないといいのですが」

 ユメカとレイチェルの脇を通り過ぎ、ハリュウが頷いた。

「そゆこと、オレもそろそろ操縦室に戻るかな」

「ああ、フランも行ってみたい~」 

 席で大人しくしていたフランがぱたぱたと手足を動かした。

 今回は総勢12名ということで、客室ユニットはシートが並んだものとなっていて、全員静かに席についていたのだ。

「んん…もうついたのですか?…うふふ♪」

 眠い目を擦りながらルーシアが体を伸ばす。

「まだだが、もう少しだ」

「それでは、ちょっとだけやす……すぅ」

 やはり皆疲れているのだろう、静かな時間が流れる。

「さて、それでは皆様、もう少しだけ空の旅をお楽しみくださいませ」

 そう言い残して、ハリュウとフランが操縦室へと消えた。

 ちなみに、その間もずっと瑠沙はセイガの肩に体を乗せて眠っていた。


「久しぶりだねクロックハート女史、お元気そうで何よりだ」

 イーストアカデミアの空港でセイガ達を出迎えてくれたのは、初老の紳士だった。

「ラプラス教授もお変わりなく、また会えて嬉しいです」

 レイチェルはそのまま教授と親愛のハグをする。

「紹介するわ、彼は学園4‐01支部の『アルフレッド・ゼム・ラプラス』教授よ、さっき言ったように私の先生でもあった方なの」

 白髪交じりの整った髪に見事な口髭、温和そうな笑顔に眼鏡が似合っている。

「はじめまして皆さん、話は彼女から聞いていましたが、特に第6リージョンからのお客様と会えるとは光栄の限りです♪」

 そうして挨拶を交わす一行、教授は背もそれほど高くはなく、小太りなため、愛らしいというかサンタみたいなイメージをセイガは持った。

「教授、というのも学園の教師のひとつなのですか?」

 気になったことをレイチェルに小声で聞いてみる。

「そうよ、教師にも幾つかランクがあって、教授と呼ばれる方々はその中でも最高級、学園長にも匹敵する権威を持っているわ」

「へぇ、それじゃあこの人、相当のお金持ちってコトだよね?」

 隣りでこっそり聞いていた海里が口を挟む。

「まあ、持ち家を長期間貸してくれるってんだからかなりのモンだろうな」

 さらにハリュウまで、そして瑠沙が

「私はお金のある人より頼りになる人の方が…好きかな♪」

 そのままセイガの腕に抱きついた。

(…セイガは金もあるんだがな)

 ハリュウはそう思ったが言わないことにした。

「これからどうしますか、予定では先に学園を案内する筈でしたが……皆さんアクシデントもあってお疲れでしょう?」

 昨夜の一件は既にレイチェルから教授に伝えられていた。

 時間もすでに予定よりかなり遅れていて、もう夕方だ。

「そうですね、学園に行くのは明日にして、今日は宿に帰ろうと思います」

 セイガが代表して答え、教授は満足そうに頷く。

「宿では既に夕食の用意をしていますから、早速行きましょうか」



 まだ日が沈まない、そんな時間。

 一行はラプラス教授の別荘だという屋敷に到着した。

 綺麗で歴史を感じる洋風の建物、敷地もかなり広く、これだけの人数が滞在しても問題は無い、とても快適そうな場所だ。

 夕雲の下、影を落とすその館を見て、一行は歓声を上げた。

「皆さん、『学園の隠れ亭』へようこそ♪」

 先頭の教授が入口を指し示しながらそう告げた。

「その名前は?」

「ははは、折角長期間滞在して頂きますからね、ただ別荘だ、宿だというよりは名前があった方がいいだろうと、ここの管理を任せたメイドが名付けたのですよ」

 今回、一行が来るにあたって、家の管理をするため有能なメイドが雇われているという話はセイガも聞いていた。

「なかなか面白い名前ですね、とてもいいと思います」

「ちょっと言いにくい気もするけどな、『隠れ家』の方がしっくり来そうだし」

 ハリュウの指摘に、教授も微笑んだ。

「どうにも『亭』は入れたかったようですよ?『かくれてー』と本人は言ってましたよ」

「ははは、お茶目な人なんですね、そのメイドさん♪」

「ふ…ふんす!」

 ユメカは好感を持ったようでニコニコしている、さらにルーシアに至っては同じ職種とあってか、期待に(小さな)胸を踊らせていた。

 その時、大きなドアの向こうで、物音がする。

 確かに、誰かがドアの向こうにいるのだろう。

 それは勿論…

「も~~!早くみんな上がんなさいな!」

 おばちゃん、だった。

 年の頃なら50歳前後くらいか、皺の多い顔立ちにTシャツ、ジーパン姿、元は白かっただろうエプロンを掛けている。

「ホラホラ、早くしないと美味しいばんごはんが冷めちゃうよう!」

 バシバシとセイガの肩を叩くと、一行を瞬く間に食堂へ案内して適当に席に座らせていくおばちゃん。

「おっと、自己紹介がまだだったねぇ、わっちはシオリだよ♪シオリおばちゃんでもいいけどオバはんは勘弁だよ?」

 何が違うのか分からなかったが豪快に笑うシオリさんを見て、セイガも疲れが取れる気がしていた。

「さあさあ、いくよ『いただきます!』」

『いただきます!』

 その場の雰囲気に飲まれ、皆の声が重なる。

「ハイハイどんどんお食べ、早く食べちゃわないと新鮮過ぎて溶けちゃうよ?」

 またガハハと笑いながらシオリさんは止まることなく給仕を続ける。

 最初は戸惑う一行だったが、実際食事はすごく美味しく、丁度良く出されたお酒もビールも美味しいとあって、すぐに楽しい宴と化したのだった。

「アンタはハンバーグが好きなんだって? コレも食べなさいな」

 いつの間にかセイガの後ろにいたシオリさんが大きなお皿をセイガの前にどすんと置く、そこには大きくてジューシーなハンバーグが鎮座していた。

「おおお♪」

 箸で簡単に割れたハンバーグを口に入れると、今までにない強烈な味わいがセイガの舌に溢れた。

「んんん……美味しい! …です、シオリさん」

 今まで食べたハンバーグも勿論美味しかったが、シオリさんのハンバーグは味が違うというか形容しがたい旨味があった。

「嬉しいねぇ、イケる口なんだろ、お酒も飲みな♪」

 結局その夜はセイガを含め皆シオリさんに圧倒されっぱなしだった。

 そして、お陰で皆スッキリと休めたのだった。

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