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第31話

 嵐は、静かに、追いかけてくる。 

 セイガ達は船尾から荒れる海を見渡している。

 最初に襲われた時のような黒い竜巻は無いが、雨と風と波は絶えず船体に降りかかっている。

「オーレリアの気配は……殆ど感じないな」

 セイガは最初、黒い嵐を見た時から巨大なオーレリアの悪意というか気配を感じていた。

 しかし、今はそれが無い。

「もう……消えてしまったのでしょうか」

 イーカルが数歩、前に出る。

 セイガ達が見ている中、覚悟を決め、大きく息を吸う。

「父さん! 俺……結婚するんだ!」

 大切な報告、そのためにここまで来たのだ。

「父さんのしてしまったことは母さんから聞いたよ、俺の知っている父さんとは全然違くて驚いたけれど、本当だって分かった」

 セイガ達は静かに、イーカルを見守る。

「でも、だからこそ俺は彼女を大事にするから!」

 両手を口に持っていきながらイーカルが叫ぶ。

「俺は彼女を絶対守るから!!」

 その時、風が色を変えた。

『……だ』

 イーカルの前方、上空に突如黒い(もや)が現れる。

 それはゆらゆらと揺らぎながら形を変えていき

『………嘘だ!』

 黒いローブに白髪の霊体、オーレリアが浮かび上がった。

『タコロス! わたしはお前を許さない!』

 その赤い瞳は怒りに燃えている。

「オーレリア! 彼はタコロスじゃない、息子のイーカルだ!」

 そんなセイガの声も届かない。

『今度こそ…今度こそ死ね、タコロス!』

 オーレリアが右手を振り下ろすと、その背後から巨大な津波がイーカルへと放たれた。

「間に合って! シールド」

「ファイアウォール!」

 ユメカと海里がほぼ同時に障壁を張り、全員どうにか無事だ。

「イーカルさんは退避だよん!」

 瑠沙が手を引いてイーカルを遠ざけようとする。

 同時にハリュウとメイが牽制のためにオーレリアに攻撃する。

 しかし攻撃は(ことごと)くオーレリアの黒い雨風に防がれていた。

「聞いてくれ、オーレリア!」

 セイガがウイングソードを構えて一気に飛び立つ、今なら竜巻も無いので直接攻撃も、言葉も届く。

『うるさい うるさい うるさい!』

 髪をかき上げオーレリアが声を荒げる。

 セイガの前にも黒い波が襲い掛かったが、間一髪高速剣の移動で甲板へと逃げる。

「オーレリア! 俺達の話を聞いて欲しいんだ!」

 セイガの呼びかけ、その間にも嵐の勢いは強まっていく。

 このままではイーカルとこの船体自体が危ない。

「戦うしか、無いのか?」

 オーレリアの力が完全には復活していない今ならまだ、全員の攻撃を集中させてオーレリアを消滅させることも可能に思えた。

 しかし、セイガはそれをよしとはしなかった。

 このままでは…


「ところで、ハリュウは寝てたんじゃ無かったの?」

「あんなん狸寝入りに決まってるだろうが」

 メイは弓、ハリュウはライフルを持ちながら並んでいる。

「もう……悪趣味なんだから」

「でもナイスアシストだっただろ?」

 セイガ達ふたりがサロンを出た直後、ハリュウを筆頭にした有志はふたりをこっそり尾行していた。

 その際には瑠沙の能力が大きく役に立っていた。

「あのステルス能力は半端無かった…気をつけないとダメだな」

「なんの話?」

「いや、メイには関係ない、早くオーレリアを鎮めようぜ!」

 そうしてふたりは援護射撃を再開した。


 フランを除いた7名での戦闘、統率は取れているようで取れていない面があった。

 それは、オーレリアをどうするか、というその一点だ。

 セイガは迷っていて、それを察したユメカ達は迎撃に徹している。

 一方海里はセイガ達を盾にしながら力を蓄えている、瑠沙はイーカルの保護、Jは…何を考えているかよく分からない、ただ雨風に笑いながら打たれていた。

 残された時間はそう長くない…

 そうセイガが考えた時、船内から良く響く声がした。 

「セイガよ、オーレリアの心に訴えるのじゃ!」

 セイガが振り返ると、そこには説明爺が杖で体を支えながら立っていた。

「上野下野さん!」

「儂は説明爺じゃ(笑)、とにかく任せたぞセイガ……オーレリアを倒すんじゃない、成仏させてやるんじゃあ……ああ~」

 そう言い残して説明爺は船内へと消えてしまった。

「みんな、聞いてくれ! 上野下野さんの言ったように、俺はオーレリアも助けたい、これ以上悲しい連鎖を繰り返したくは無いんだ!」

「そうは言ってもアレが聞く耳持ってないじゃない!」

 海里の言う通り、オーレリアとの会話は成り立っていない。

「それでも、話せば分かるはず、そうだろオーレリア!!」

 セイガが大声でオーレリアを呼ぶ、それに合わせてユメカ達もオーレリアに呼びかけを始める。

「裏切られたのは辛いよね、でも今は目の前のみんなを信じて!」

「オーレリア! お前は本当は破滅を望むようなやつじゃ無いはずだ!」

『ううううう!』

 周囲の声に、少しずつだが、オーレリアが反応していた。

 そんな中、イーカルが瑠沙の手を離れ再び前に出る。

「父さんを許してくれとは言わない、でもこれ以上人を苦しめるのは止めてくれ、オーレリア!!」

「そーだよ、オーレリアが苦しむ必要なんて、無いよ!」

「因みに、50年間で実際にオーレリアの嵐で沈んだ船は殆どないそうじゃ、どうやら別の要因で死んだ悪霊達の怨念にオーレリアは染まっているようじゃな」

 こっそりと声だけ、上野下野も参加する。

『わたしは……わたしは…』

「大丈夫だよ、みんな絶対…許してくれるよ」

 その黒い勢いが急速に弱まっていくのを感じる。

 そして

『オーレリアーーー!』

 全員の叫びがオーレリアへと届く。

 無防備になったオーレリアの前へ、セイガが立つ。

「還ろう、空へ」

 セイガが両手を差し出す、オーレリアがおずおずとその手を握ると、急激に空に光が溢れ出し、オーレリアの着ていたローブも白い色に変わっていた。

 悪霊と化していた彼女が、浄化されたのだ。

 キラキラと輝きながら、オーレリアが空へと還っていく。

『…イーカル、ごめんなさい』

 その目から涙がひとつ落ちる。

『そして、ありがとう……みんな』

 セイガに寄り添い、そのまま抱かれるような形で光が消えていく。

 オーレリアは、もう、そこにはいない。

「終わった……のか」

 ゆっくりと甲板へとセイガが降りてくる。

「あ、日が昇ってるよ! ははは」

 嵐はすっかり去り、東の方角にはハッキリと島の姿が映っていた。

 綺麗な形の高い山の頂点から、朝日が顔を出している。

 それはとても神秘的で命に溢れる光景…

 ようやく、辿り着いたのだ。

 百龍島、太陽の登る島、はじまりの学び舎がある学園郷へと。

「ねえ、記念写真を撮ろうよ!」

 海里の朗らかな声が響く、遂に訪れた平穏と、新たな一日の喜びを感じながら、セイガ達は集合した。

 ここでまた、どんな冒険が始まるのか、オーレリアに心を寄せながらセイガは次なる出来事に興奮が治まらないのだった。

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