第28話
「<衛 兵 剛 壁>!!」
巨大な障壁が出現し、大津波を防ぎ、その勢いを止めた。
これは王技
『エンちゃん!』
エンデルクの技だった。
『ユメカさま、きこえていますか?』
ユメカの額窓に通信、ルーシアの声がする。
『「今から我等も加勢する」とエンデルクさまがもうしてます~♪』
嬉しい報せ、と同時に船体が大きく揺れる。
流石のエンデルクの技も完全に大津波を鎮めた訳ではなく、余波というべき津波が来たのだ。
操舵室の灯りも一瞬消え、周囲を不安にさせる。
『そっちは大丈夫か!?』
セイガの声がする、電気はすぐに復旧したが室内は混乱の度合いを増していた。
「うん、こっちは大丈夫、だからそっちはお願い、あとエンちゃんも!」
『「当然だ」だそうです~』
状況はいいとは言えない、しかしきっとセイガ達ならどうにかしてくれる。
そうユメカは信じて祈るのみだった。
大津波は防いだが、それでさらに怒りを増したかのように、複数の黒い竜巻が船首へと襲い掛かる。
セイガと瑠沙が身構える。
しかし、突如その全てが爆炎と共に吹き飛ばされた。
「これはっ?」
「サクリファイスだぁ!」
前を見て驚くセイガと対照的に、瑠沙が喜びながら背後を振り返る。
そこには
「さあ、ここで真打の登場だよ!!」
吹き荒ぶ嵐の中、赤いドレス、戦闘服姿に着替えた海里が高らかに立っていた。
「カイリたん♪」
「待たせたね、ルーサ―」
瑠沙の安心した笑顔をみて、セイガも心を再び燃やそうとした。
だがその時、セイガの額窓からこっそりと話し掛けてくる者がいた。
ハリュウだ。
『おい、セイガ……ここでアレは使うなよ?』
「ハリュウ…どうして」
ハリュウの様子に、セイガも小声で反応する。
『お前のアレは基本的に誰にも知られちゃマズい…しかも海里達は別のリージョンの者だ、例え今は仲間だとしても使うべきじゃない』
ハリュウの言葉にセイガはハッとする。
確かに、今咄嗟に使おうとしたあの力は、色々な意味で危険な技だ。
しかも、場合によってはセイガ達全員が隠さねばならない「制約」にも関わる場合がある。
いくら安全装置と言えるものがあるとはいえ、海里達には決して知られてはいけないのだ。
(それでも……)
セイガは躊躇う、今は沢山の命に関わる事態だ。
そこで全力を出さないというのは……本当に正しいことなのだろうか。
(正しいなんて……そんな言葉、使いたくなかったな)
唇を噛みしめ、セイガが黒い竜巻を見上げる、それは何かを覚悟した表情だ。
「セイガ氏、ナニを迷ってるか知らないけれど…このまま逃げる気かい?」
いつの間にかセイガの隣りにいた海里が右手の皮手袋を直しながら挑発してきた。
「ま、安心してよ、こんなの私達だけでも……跳ね除けてやるからさ!」
海里が腰から短鞭を取り出し、大きく振り上げる。
「いっけぇカイリた~ん!」
海里に迫る波風などの悪意を瑠沙の弾丸が防いでいる。
そんな中、真っ黒いステージで、海里は歌う。
それは圧縮された音色、<呪文>の歌声、情報の渦が黒い嵐とぶつかり合う。
「嵐なら、こっちにもあるんだっ……ゲイル!!」
海里の周囲に現れていた幾つもの銀色の人形、それらが弾けると共に海里を守るように強い突風が生じ、黒い嵐を打ち消すように広がっていく。
「アアアアアアアア!」
海里の声にならない声と、中心の黒い竜巻からの怒りがぶつかり合う。
激昂したように、再び眼前に巨大な津波が発生する。
しかし
「プロミネンス!!」
烈風を維持しながら海里が今度は立ち上る炎流を生み出し、津波へとぶつけた。
両者は相殺しながら蒸発していく。
それはまさに互角だった。
「セイガくん、今なら行けるよ!」
瑠沙の言う通り、黒い嵐の勢いが海里に押されている今ならば、あの中心に届くかもしれない。
「ああ、ありがとう!ふたりとも!」
最早躊躇している暇は無かった。
「やっちゃえやっちゃえ!」
ぴょこぴょこ跳ねる瑠沙を横目にセイガは黒い竜巻へと飛び立つ。
海里の烈風のサポートもあり、その勢いは止まらない。
(全力で……行く!)
ウイングソードがカチリと鳴り、一振りだったものが分離して片翼ずつの双剣となった。
「うおおおおおおお! ブレイクエンド!!」
双翼剣による、激しい連撃が竜巻の中心へと叩き込まれる。
それは一瞬でありながら全部が全力の攻撃、ウイングソードと共に習得したセイガの切り札だった。
「はぁぁぁあああ!!」
圧倒的な連続攻撃により切り裂かれた黒い塊、その先には人影、黒いローブを着た細い体つきの女性の姿……
真っ白い足まである長い髪と怒りに燃える赤い瞳が特徴的だった。
「…君が、オーレリア……か?」
問いかけるセイガ、しかし
『………』
驚いたような表情の女性は答えない、そしてタイムリミットが来た。
「あとは…任せた……よ」
セイガが脱力して、そのまま落下する。
ブレイクエンドはその一瞬に心技体の全てを放出するので、使った直後にセイガ自身も無力化するのだ。
「あーーーもう!」
セイガが海中に飛び込む寸前、白いアーマーを着装したハリュウが間一髪抱きかかえる。
「ふ……任された!」
その声は操舵室のあるブリッジの上、風を受けながらも雄々しく立つエンデルクだった。
セイガ達の作った絶好の機会
「王が、決めてやろう <暴 民 熱 束>!!」
黒い竜巻を貫くように巨大な金色の熱線が放たれる。
船体が傾く程の衝撃、嵐の勢いをも削ぐ絶大な一撃は瞬時に女性を中心とした黒い竜巻を打ち消した。
それと共に船を遮る波と風と雨が少しだけ弱まる。
「船長!」
「転進、このまま嵐を回避する!」
船体のダメージも大きかったが、それ以上の好機を得て、ようやく「ティル・ナ・ノーグ」号はその場を離れることに成功したのだった。




