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第27話

「ハリュウ、みつけた♪」

 どうにか人の流れに逆らいながら進むハリュウ、それをみつけたフランが無邪気に微笑んだ。

「おう、フランは無事だったかっ…っておいどうした?」

 フランは今日も白いミニスカワンピース姿だったが、すっかりびしょぬれで灰色のきめ細やかな肌にぴったりと貼りついていた。

 翠色の長い髪からも水滴が落ち続けており、その様子は

「…エロいな」

 ハリュウの感想通り、男性であることが分かっていてもなお、官能的だった。

「くすくす、ありがとー、ハリュウが悦んでくれたんなら嬉しいな」

 そんな殊勝な態度をみて

(あー、コレでコイツが女子だったら良かったんだけどなー)

 そうハリュウは思っていた。

「さ、早くみんなの所に行こうよ」

「それはそうなんだがこの状況からどうやって外に出たもんか……」

 そこでハリュウは横にちょこんと立つフランを見やる。

「そんなに濡れて、まるで外から来たようだよな?」

「うん、フランは今さっき下層に着いたんだよ?」

 そう、その濡れ方は海、或いは暴風雨を抜けてきたようなものだ。

「それって、今すぐここから出ることも可能なのか!?」

「うん、いい出入口、みつけた」

「よっしゃ、フラン!オレをそこに案内してくれ!」

「勿論、だよ♪」

 そうして、フランに手を取られ、ハリュウ達は人のいない方へ走り出した。


「おいおい…ここかよ」

 そこは下層の一画、貨物の搬入出が可能な倉庫のひとつだった。

 嵐の影響か、それとも別の要因か、室内のコンテナの幾つかは崩れ、あちこちに海水が残っている。

「うん、フランはここを通ってきたよ」

「マジか」

 確かに理論上はここのハッチを開ければ外部に出ることが出来るが、外は嵐、しかもこの位置では波も届くだろうから無事に移動可能とは思えない。  

「大丈夫、フランに任せて」

 フランがハリュウから少しだけ離れる。

 すると、フランの緑色の髪が太く、長く伸び始めた。

 いや、髪だけではない、その体自体もみるみると大きくなり、メキメキと音を立てながらフランは変身していき……

 ハリュウの目の前にいるのは緑の体毛に覆われた体長4m程の猫背の怪物…

 顔は体毛で見えないがその大きな黄色い瞳が光っている。

 まさに『魔獣』を表す姿だった。

「…ヴァル!」

 フランが左腕をハリュウに差し出す、もしかするとこの姿の時は言葉を話せないのかもしれない。

 ハリュウが少しだけ警戒しながら近付くと、左手からさらに毛が伸び……するするとハリュウ全体を包みながら抱えるようにその巨体へ寄せる。

「わわわ」

 そして、右腕と触手のように動く体毛で器用にハッチを開いた。

 途端に風と雨と波がふたりを襲う。

 しかし、ハリュウは体毛に守られているからか全然平気だ。

 フランもそのまま外へと乗り出すと、足と体毛を上手く使い船体を登って行く。

 その間も大きな波が当たり、数m流されたりもしたが、それすら大した影響に感じていないのだろう、フランは見事船上の通路へと辿り着いた。

「おおお」

 その様子は体毛の隙間からある程度は見えていたので、ハリュウにも分かった。

 使ったハッチも脱出後に閉められていて、見事な手腕である。

 フランはハリュウを下ろすと再びその姿を人間大へと戻す。

 しかし、一つ違ったのは

「ふふふ、私、すごいでしょ?」

 その声、姿、形がユメカのものになっている。

 しかも、どういう原理なのか、濡れてはいるが、服は元のワンピースを着ていた。

「変身自在…ってことかよ」

 あまりに精巧に似せられていたので、良く知っているハリュウでも一瞬間違えそうになる、それほどの能力だ。

「フラン、ハリュウが望むなら、どんな姿にでもなれるよ?さあ、行こっ☆」

 フランがユメカの声質のままハリュウの手を取り、船首へと駆け出した。


 その船首側の甲板ではセイガと瑠沙が謎の黒い竜巻に苦戦していた。

「もーなんなの~~! この嵐、全然ルゥの攻撃が通じないんだけど!」

 瑠沙の銃から、今度は大きな弾丸が射出され、それは津波に当たった瞬間大きく爆発する。

 しかし、その奥の竜巻までは届かなかった。

「まだ確証は無いのだけれど、この海域には嵐を起こし船を襲うオーレリアという亡霊?の伝説が残っているんだ」

 乗船時に聞いたあの話とこの状況、しかも上野下野が絡んでいるとなるとセイガにはそれらが偶然とはとても思えなかった。

「じゃあ、これはそのオーレリアって人?のせいだってコト?」

『う~~ん、今船長から聞いた話だとオーレリアの『嵐』の力は相当凄かったらしいよ?ただ船を襲うというよりも近付かなければ良かったらしいんだけどね』

「でもぉ!今回は確実にこの船を狙ってるじゃん!!」

 ユメカの説明に対して悲鳴のように答える瑠沙

『確かにそうだよねぇ…何か理由があるのかも』

 そのまま無言、しかしその間も船には何度も津波が叩きつけられ、船体は確実にダメージを受け続けている。

「まずは、この正体、および力を削ぐのが得策ということだよな」

『うん、まだ避難も進んでないから時間稼ぎでもいいから攻撃の続行をお願い!海里さんやめーちゃん達も向かってるから…頑張って!』

「…了解」

 再び翼剣を構え、セイガが視線の先の黒い竜巻を睨む。

 明らかに意識のあるこの嵐、黒い竜巻への攻撃は悉く瞬時に形成される津波や暴風雨に止められてしまう。

 そしてこの海域全体を支配する圧倒的な力、果たしてそれを穿つことは出来るのだろうか?

 セイガは一瞬首を振ると、助走を取るために数歩下がった。

「瑠沙さん、俺があの竜巻に突撃するからサポートをお願いできるかな?」

「え? それは構わないけれど、セイガくんは大丈夫?」

 冷静な瑠沙の指摘、正直勝算は低かった。

 けれど遠くからの攻撃が効かないのなら、少しでも近付いた方がいい、それがセイガの考えだ。

「無理はしないよ」

「うん、分かったよ♪」

 セイガが気合を込め、走り出す。

 同時にウイングソードがセイガに翼を授ける。

「聖河・ラムル………参る!」

 そして甲板を蹴って嵐の空へと駆け上がる、それを見て左右から黒い津波がセイガへと迫る。

「させない!」

 瑠沙の弾丸、今度は壁のような力場をセイガを守るように展開させた。

 セイガは勢いをつけたまま体を一瞬捻り、最後の突進を試みる。

「ヴァニシング・ストライク!!」

 赤いエネルギーの奔流と、黒い重力の加速を纏い、セイガの渾身の突きが黒い嵐へと放たれる。

 しかし再び前方に現れた黒い津波と正面からぶつかり合う。

「おおおおおおお!」

 セイガは突破しようと力を込める。

 じりじりと、前へ

 しかし、嵐の持つ力は無尽蔵のように圧倒的だった。

「ああっ!」

 セイガは下から吹き上がる風に晒されると、船体の方へと大きく飛ばされた。

『セイガっ(くん)!!』

 ユメカと瑠沙の心配が重なる。

 セイガはどうにか甲板へと着地する、その姿は相当消耗していた。

「駄目か…」

 その言葉に呼応するように、黒い竜巻からも大きな音がした。

『……邪魔を……』

 いや、それは風の音だけではなく 

『邪魔を……するなぁ!!』

 確かに女性の声にも聞こえた。

 そして、その怒りの声と共に「ティル・ナ・ノーグ」号の左側の近くに船体をまるまる飲み込むほどの大きな津波が立った。

 これをまともに受けたら大変なことになる。

 その光景を見た全員が驚愕した、その時……

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