第23話
「それはまた、災難だったな」
出航から二日目の夜、ハリュウはセイガの話を聞いていた。
よく見ると確かにセイガにはいつもとは違う疲れが見て取れる。
朝方まで帰って来なかった時には少しだけ心配はしてたのだが、自分が関与していない所でそんなことがあったとは……
羨ましい、もとい大変だったなぁと感じていた。
「慣れない状況が続いたとはいえ、悪いことをしたとは思う」
「ははは、疲れてんだろ、今夜はさっさと寝ろよ?」
ハリュウはセイガやユメカのことよりも、海里の行動の方を気にしていた。
(何が本当の目的かは知らないが、警戒はした方がいいな)
「ああ、そうだな…俺はもう休ませてもらうよ」
セイガが、2段ベッドの上方へと手を付く。
「ところで、セイガはその…海里のことはどう思ってるんだ?」
「どうというと?」
一瞬、セイガの体が震える。
「女性として、どう思っているかというコトだよ」
「綺麗な…女性だと思う」
最初に逢った時から、周りに照らされて妖しく光る月のような美しさをセイガは感じていた。
それから、強い面、気さくな面、それから可愛らしい面もセイガには見えた。
「あと、何か昏いものを隠しているようにも見えた、かな?」
その点はユメカに通じる所でもあった。
だからか、体の関係は拒みながらも海里に対して何か力にもなりたい…
そんな想いがセイガの中に確実に芽生えつつあった。
「あ~~~……まあ、いいんだけどな…」
セイガの表情から、ある程度読み取ったのだろう、ハリュウが溜息をつく。
(このお人好しめ)
「人を疑わないのはお前の美徳であるとは思うけれど、あの女はまだ信用しない方がいいとオレは思うぜ?」
「うん……ハリュウが言いたいことも分かる」
先日のキマイラの襲撃と急な第6リージョン、しかもそこの実力者の訪問。
どちらもセイガ達4人がターゲットだ。
海里は性的パートナー探しと言ってセイガ達をはじめ周囲を驚かせたが、それが真の目的とはセイガにも思えなかった。
「海里は何か重大なことを隠している、俺もそう思っているよ」
ただ、ハリュウが考えているような不吉なものではない、甘いかも知れないがセイガはそう信じたかった。
「少なくとも今はまだ、心を許し過ぎないでくれよ?大将」
敢えて、責任を押し付ける言い方をハリュウはした。
セイガには、その責任があるからだ。
「そうだな、俺は選ばないと……大事なものを守らないといけないよな」
「そゆことだ、頼むぜ……それにメイも結構心配してたようだしな?」
確かに、昼間もすごく助けて貰っていた。
「ああそうだ……メイにももう一度会って、感謝しないと」
ユメカのことが気掛かりだったから、もしかしたらメイへの感謝が疎かになっていたのではとセイガは思った。
「だったら明日にでも動物園に誘ってやれよ」
「この船には動物園なんてものまであるのか!?」
「ああ、正しくは室内に林のようなエリアを丸々作って動植物を観賞できる広場のようだがな、面白そうだから連れて行ってやれよな」
それは確かに楽しそうな案だ。
「わかったよ、ありがとうハリュウ」
「どういたしまして☆」
頭を下げるセイガを見ながら、ハリュウはひとまず、メイへの援護と海里への牽制はこれくらいでいいかと判断した。
「それじゃあ、寝る前にちょっとメイと話してくるよ」
そうして、セイガは部屋を出て行く。
残ったハリュウは大きく背伸びをして、これから自分はどうしたらいいものか、ひとり思案するのだった。




