第22話
自由行動、それは偶然を生みやすい、そんな時間。
上層のサウナ室に意外な二人が並んで座っていた。
片方はエンデルク、腰にタオル、細いながらも均整の取れた美しい肉体に、汗をにじませる姿も何処か絵になるような姿である。
もう片方はフラン、サウナウェアからでも豊満な胸元がわかるので外から入って来た人からみたら女性がいるようにしか見えないだろう。
緑色の長い髪は頭の上で大きく丸められている。
「…」
「……」
ふたりは最初にサウナ室で鉢合わせた時も無言だったが、ふとフランは気付いた。
「そういえば、お供のふたりは一緒じゃないの?」
フランの中では3人はセットみたいな印象だったのだ。
「今はいない、それぞれ自由にしている」
「ふ~~ん、そうなんですね」
フランがじっとエンデルクの姿を見る。
とても魅力的な体をしていた。
(でも、フランはもっとワイルドな方が好みかなぁ?)
筋骨隆々で傷なんかも所々にある大きな体、そんな男性をフランが妄想する。
「ちなみに、エンデルクさんはフランの体を見て、そそられたりはしません?」
ちらりと、胸元の布をフランが引っ張る。
しっとりと汗に包まれたその姿は、男性だと分かっていても欲情的で艶めかしい色気に満ちていた、しかし
「無いな」
エンデルクはハッキリと言い放つ。
フランもまじまじと観察していたが、確かに彼に変化は見られなかった。
「そっか、残念」
「だが、内に蓄えられた巨大な力は見て取れる。我は興味が無いが或いは…」
目を閉じて、思案するエンデルク、その顎から汗が落ちる。
「?」
「いや、杞憂だろうな」
そう言うと、エンデルクは先にサウナ室から退出した。
昼過ぎのショッピング街を不揃いの男女が並んで歩いている。
身長188cmのJと145cmのルーシアだ。
Jは流石に上半身裸だと咎められたのか、黒いスーツだけボタンを留めて羽織っていた。
「いやはや、助かりましたぞルーシア嬢」
「いえいえ~おやくにたてたのならよかったです♪」
ひたむきに上を向くルーシアの姿は外から見ると苦しそうにも見えたが、いつも背の高いふたりと共にいるからだろう、ルーシア自身は大丈夫だった。
「お礼に、ワガハイの部屋でアフタヌーンティーでも如何ですかな?」
「おちゃですか?」
紅茶には詳しいルーシアなので、興味で目をキラキラさせている。
「ハイ、ワガハイのお気に入りをシックストから持参しております故、こちらではお目にかかれない桃源郷にご案内致せますぞ?」
にやりと、Jが微笑む。
「とーげんきょーですか? それはなんだかすてきなお味ですね」
自分の知らない銘柄と聞き、俄然気になるルーシア
「あ~~…うちのメイドさんに手を出すのは止めて頂きます?」
その声と共に颯爽と現れたテヌートがメイド服のルーシアの手を引き、Jから引き剥がす。
「おっと、アナタは確かルーシア嬢の同僚の庭師殿でしたかな?」
「本名は『テヌート・キープ』です、別に覚えて貰わなくて結構ですがね」
元々薄目だが、目を細めながらJを見るテヌート、身長はほぼ一緒なので正面から視線を刺すかたちとなっていた。
「ああ、きちんとなのってなかったかもですね、『ルーシア・ルミナ・ニーラウス』がふるねーむですよ~」
「うむ、ルーシア嬢に似つかわしい可憐なお名前ですな」
「いや、そうではなくてですね」
テヌートは、いつものように立ち回れないからか、本調子ではなかった。
(全く、天然は苦手なのですがね)
「貴方のことは調べさせて貰いました、女性のストライクゾーンは0歳から上限なしだそうですね」
「すとらいくぞーん?」
ルーシアはテヌートの言っていることの意味が分からず小首を傾げる。
「ふっふっふっ お褒めに預かり恐悦至極」
「褒めてません、ルーシアさんにお茶を飲ませていかがわしいことをするつもりでしたね?」
「ハイ、勿論♪」
最早清々しいまでの笑顔だ。
ひとり事情の分かっていないルーシアだったが、ふたりの間にある不穏な空気には気付いていた。
「なかなかの情報網のようですな、こりゃ今後は気をつけないと」
引く気はないのか、Jがそう宣言する。
「他は知りませんが、ルーシアさんに手を出すと僕が我が主に殺されますので、『今後』など無いと分かって貰えませんかね?」
敢えて笑顔を作り、テヌートが釘を刺した。
「…戯れで人が死ぬのも悲しいですからな、他をあたりましょうかね」
それが本気かはテヌートにも読めなかったが、Jは大仰に手を振ると来た道を帰って行った。
「さよならです~」
そう言って手を振り返すルーシアに、テヌートは呆れつつも握っていた手を離すとルーシアの頭をポンポンと軽くたたいた。
「?」
「ダメですよルーシアさん、いかがわしい人に付いて行ってはいけないとエンデルク様から言われているじゃあないですか」
3人の中では、200歳以上と最年長のルーシアだが、聖竜族としてはまだ子供だからか精神年齢は見ためと同じくとても幼い。
「でも、Jさまはおきゃくさまですよ?」
「お客様でも危ない時はあるのです、すぐに僕かエンデルク様に相談しないといけませんよ、分かりましたか?」
「はい、ごめんなさい」
テヌートが本当に自分のことを心配しているのが伝わったので、ルーシアは素直に頭を下げる。
「分かればいいのです、そろそろエンデルク様の所に戻りますか」
「……はい♪」
そうしてふたりは、サウナから出たであろう主の下へと向かった。




