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第21話

「と、いうわけで今度みんなでビーチに行くことになりました」

「えええ~、私聞いてないよ~」 

「今朝一応話したじゃん」

「それはセイガさんだけこっそり誘って行く話じゃなかったっけ~?」

 ここは瑠沙の部屋、彼女はごろりと、ベッドで寝返りをうちながら不満げにしていたが、その間にも隙を見せずに敵を一人、撃破していた。

 可愛らしいピンクの寝巻にはちょっと似つかわしくないゴツいゴーグル一体型のヘッドセット、手には専用のコントローターを持って、海里との会話中でもずっとゲームに励んでいたのだ。

「学園のレイチェル先生が随分乗り気でさ、まあお陰でユメカさんの水着姿も拝めそうだし結果オーライだと私は思ってる」

 瑠沙からは海里の表情は見えないが、その声の様子から楽しそうなのは読み取れていた。

「ま~しゃないか~、カイリたんはユメカっち狙いでもあるもんねぇ、でもみんなで行って上手くいくのかなぁ? ただでさえ、こっちは戦法を変えないといけないのにぃ」

 考えながらも瑠沙はゲームを続ける。

 海里にとってはいつものことなので気にはならない。

「ルーサーの方はどうするか決まったの?」

「う~~~ん、セイガくんは強引に迫っても無理っぽいのは昨日のカイリたんの戦果から見ても明らかだしなぁ」

 ちょこんと座りながら、ゴーグル越しに天井を見上げる瑠沙、昨夜の海里のアレコレは既に朝食、といってもこの部屋にあるお菓子を食べながらではあるが、本人から聞いていたのだ。

「やっぱ別のキャラ…儚げでお淑やかな感じで今度は攻めてみるかにゃあ?」

 その言葉を口にした途端、瑠沙の雰囲気が変わる。

「海里さんは、どう思います?」

 そこには、清楚で純粋無垢そうな少女が確かにいた。

「それも有効だと思うけど、いっそ本性を見せた方がセイガ氏には響くかもね」

 海里のその言葉に、瑠沙はくしゃっと潰れる。

「えええ~? それはさすがに無理だよぅ」

 雰囲気も先程のぐうたらしたものに戻っている。

「そうかなぁ?昨日話して分かったけど、アレは結構人の本質を見るタイプだよ」

「…だったら尚更、だよ」

 瑠沙の声には拒絶の意思が見えた。

「どちらにせよ、ワイはルーサーがやりたいようにやるのが一番だと思うね」

 しょぼんと垂れ下がった耳飾りを海里が優しく撫でる。

「カイリたん………あ、トップ獲った」

 どうやらゲーム内で瑠沙が優勝したようでファンファーレが鳴った。

「…カイリたんはルゥの味方、だよね?」

 俯いて、ゴーグルをしているから瑠沙の表情は読めない。

「当たり前だろ? 味方じゃなかったら今回のことだって頼まないさね」

 海里はそのままくしゃくしゃと瑠沙の柔らかい髪を撫でる。

 感極まった瑠沙は海里に抱きつく。

「わ~ん、カイリたん大好き~~!」

 


 一方、セイガは女性ふたりの前で恐縮していた。

「聖河・ラムルさん、それでは以上の話は全て事実というコトでいいんだよね?」

「はい、その通りです」

 ユメカの口調が、セイガにはとても怖かった。

 ユメカの隣にいるメイも、ユメカの様子に戸惑っている感じだ。

 突然ユメカから呼び出されて、セイガもメイも不思議だったのだが…

 まさかその内容が昨夜の海里との一件とその後の顛末だったので、ふたりとも内容は違うが大きなダメージを受けてしまっていた。

「出来れば、もっと早く連絡して欲しかったかな」

 ユメカが怒っている、何を言っても言い訳にしかならないような状況だったので、セイガは自分の誠意だけでも見せたいと思っていた。

「はい、本当にすいませんでした」

「ええと、セイガさんもついさっき起きたばかりだっていうし、仕方無いんじゃないかなぁ?……ゆーちゃん?」

 ここは船内の中層の一室、談話室としてソファーやテーブルが並んでおり、壁際には本棚や自動販売機などが並んでいる。

 あまりにセイガが可哀そうに見えたのか、最初は怒りと驚きと悲しみが交じり合っていたメイだったが、気付けば養護していた。

「ありがとうメイ、でも俺の行動が軽率だったのは確かだから、本当にふたりには悪いことをしたと思う、ごめんなさい」

 再びセイガが頭を下げる。

 昨夜は海里から解放された後、結局興奮が治まらず、寝るのが遅くなってしまい、日課の鍛錬も出来なかったのだ。

 色々な罪悪感が重なり、セイガの表情もいつもより暗く見える。

 迷子になった子供のようだ。

 そんなセイガを見ながら、ユメカもまたモヤモヤとしていた。

(確かに、ここまで怒るのも変…だよね)

 セイガに落ち度があるのも事実だが、悪気があったわけではないし、プライベートな関係については…

(これはきっとヤキモチなんだ……セイガは大切な友達、なのに)

 とはいえ、一度高まった感情はなかなか抑えられない。

 ユメカはぶすっとした表情のまま

「それで結局、私達もビーチには行くコトになったんだけど、セイガの言ってたのってこの場所でいいの?」

 額窓を呼び出し、画像をセイガ達に見せる。

「学園郷の南部、サウスビーチにある白妙(しろたえ)の浜、そうそう、ここで合っているよ」

「うふふ、そっかじゃあレイチェル先生もそこに行きたいからプランを立てるって言ってたよ」

 無理矢理笑ってみるユメカ。

「そうか、ならそちらはレイチェル先生に俺からも聞いてみるよ」

「うん……楽しみ、だね」

 少しはユメカの機嫌も良くなったように見えて、セイガはホッとした。

 のだが

「ところでセイガさん……昨夜は海里さんの部屋にふたりきりで、一体何をしてたの?」

 メイからの爆弾投下で再び窮地に立たされたのだった。

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